「miyakoと母」
冷たい北風が二人の若い頬を冷やしてピンク色に染めた。静けさに包まれた閑静な住宅街では二人の笑い声が黄金色に響いた。
「こんなにおかしいのって何時ぶりだろう」miyakoがこんなに手放しで笑ったのは久しぶりだった。
「その辺に十円でも落ちてないかな」とリサがつぶやいた。「携帯無いのこんなに困るんだね。助けも呼べないよ。」といっているリサだがたぶん携帯があってもリサはmiyakoの家に泊まりに行くということになっているので厳格で規律の厳しいリサの家には酔ったリサは電話が出来ないことをmiyakoは知っていた。
しかしmiyakoのほうもスナックに夜勤に出ている唯一の家族である母に心配を掛けたくは無かった。
miyakoの本当の名前は「金城美亜」なのだがそう呼ぶものはもう昨年から通っている専門学校の先生くらいで身近な仲間や家族はmiyakoと愛称で呼ぶ。miyako自身も物心ついた時にはいなかった父がつけたという「美亜」という名は嫌いだったからだ。
miyakoは小さい頃から母と二人暮らしで那覇の前島という地域に住んでいた。この地域には田舎から那覇に働きにやってきている人が多くmiyakoと母のような母子家庭には暮らしやすかった。母親は幼いmiyakoを抱えながら昼は弁当屋さんで働き、夜は居酒屋や飲み屋で必死に働いた。器量と愛嬌と度胸のある母は何度か飲み屋の客や弁当屋の主人の紹介で再婚を勧められたが頑なに断り続けた。
miyakoには生き別れた父と兄がいるということを知ったのはmiyakoが18のとき免許を取るのに必要だと市役所で戸籍謄本を見て知ったのだった。
母はそれまで父の話をしようとすると神妙な面持ちで少し考えて「う~ん…じゃ、死んだでっ!」と冗談でごまかしていたがこの時ばかりは悲しい顔でうつむき、「ごめんね…」というと黙りこんでしまった。
miyakoは「いい加減ふざけないで教えて!」と再三母を責め続けたが母はその後も「う~ん…スクウェアで!」と冗談ばかりで話してくれなかった。ある晩miyakoが夜中に目が覚めて襖の隙間から居間を覗くと母が父と兄の写真を胸に抱きしめて深々と泣いているのを見てmiyakoはもうそのことについて話題に出さないでいようと心に決めた。
高校を卒業したmiyakoは成績は悪くなかったのだが早く手に職をつけようと高校を卒業して1年間居酒屋のバイトで貯めたお金を美容師の専門学校に入るため入学金と授業料に使い、残ったお金で母へのプレゼントを買った。
母は「こんなピアス私にはもったいないさぁ」といっていたが夜のスナックだけではなく昼の弁当屋さんにも着けて言って自慢していると母のスナック仲間から聞いてmiyakoは嬉しかった。
「そうだ。お母さんの働いてるスナックこの辺だはずだから行ってみる?」miyakoは寒空の下凍えているリサに提案してみた。
「うんうんうん」と寒くて声も出せないというようにリサは腕を組みながら首を縦に大きく振った。
母は通りのこの先にある沖縄一の歓楽街・松山にある老舗のスナック「絹」でチイママをしているはずだった。
「じゃあ行こう!」パジャマにヒールのハイテンションの変な格好の二人は急ぎ足で母の店に向かった。