「一難去って」
何とか女子トイレの天窓から抜け出したmiyakoとリサは建物の間にある幅1メートル程の袋小路になっている小さな路地に出ていた。未成年飲酒で検挙されることを恐れたリサはすぐに国際通りのある出口に向かおうとしたがmiyakoはリサの腕をつかんで無言で首を振った。そしてリサの耳元で「今はダメ!外にも警察が配備されてるってあの人が言ってた。」リサはわかったという意味で大きく頷き、身を潜めながらそっと外の様子をみてみるとパトカーが3台も通り沿いに停めてあって、野次馬が集まり始めていた。木刀らしい長い棒を持った警官も入り口付近に配備されていた。
「どうしよう。このまま出たらすぐ見つかっちゃう。」とリサは涙目でmiyakoに訴えた。miyakoは「あのねリサ着替え持ってるよね?今すぐ着替えて!」とmiyakoは自分もオレンジのバックから寝巻きに着替えながらリサに小声で伝えた。「寝巻き?」とリサは思ったが他に着替えも無いのでとりあえずmiyakoの言葉に従った。
真っ赤なふわふわの生地に大きなドット柄のパジャマのリサと光沢のある紫色の大人っぽいmiyakoは対照的であったが今は緊急事態なのでお互いのパジャマの趣味についてとやかく言ってる場合ではない。
リサは「着替えたよ!次は?」miyakoはリサに聞かれて「カンザキ」の言葉を思い出していたが「カンザキ」は「トイレで困ったら上を見ろ。そして外に出られたらすぐ今の服は着替えるんだ。」と別れ際に言っていたがその後のことについては言っていなかった。「ねぇ!どうするの?」リサは親に連絡されるのが死んでもいやだったのでまた焦り始めた。
「大丈夫!このまましばらくここにいればいいんだよ」とmiyakoは言ったが自分自身でも自信は無かった。
「コワいよぉ」とリサはうずくまって泣き出してしまったがmiyakoはリサの肩に手を乗せて自分も側に腰を下ろし慰めるのがやっとだった。
しばらくしてあたりは騒然としてきた。警察無線が大きく騒ぎ出し野次馬の数も増えてきているようだ。
泣いていたリサが腫れぼったく赤くなった目で顔を上げて「誰か捕まったのかな」といった。miyakoは応えずに目を閉じて、辺りから聞こえる音に意識を集中させていた。
「被疑者を確保!被疑者を確保!」と大声で無線に叫んでいる声が聞こえた。「今の聞いた?」miyakoはリサに小声で話しかけるとリサも嬉しそうにうんうんと頷いた。「もう少ししたら警察がいなくなっちゃうからそしたら帰ろうね」リサはまた嬉しそうにうんと頷いてそのまま二人は闇の中で息を潜めていた。
どれくらい時間がたったであろう。腕時計も見えないくらい路地奥に隠れている二人にはそれが5分なのか30分なのか1時間なのか分からなかったが警察が撤収してクラブ「saicoro」内の客が出てきた様子だったのでしびれを切らしていたリサは「きっともう大丈夫だよ」といって辺りの様子を窺いながら狭い路地から通りに出て行った。miyakoは驚いたが「ほら大丈夫!」とさっきまで泣いていたのが嘘のようなリサのかわいい笑顔を見てmiyakoも出てしまった。
国際通りは騒動を聞きつけた野次馬と文句を言っているクラブの客を宥めながら「SAICORO」の無料優待券を配っている黒服と辺りをさまよう観光客だけで警察の姿は無い。
「もう大丈夫みたいね。でもそのパジャマ19にしてはかわいすぎない?」とmiyakoも笑って隠してあった荷物を取りに暗い路地に戻ろうとしたその時だった。
「miyako!」というリサの叫び声で振り返ったmiyakoは凍りついた。