「奇跡」
猫のみいはもうほとんど動かなくなって痙攣し始めた。
小学5年生の元はそれをじっと見守ることしか出来ないことが分かっていたがそれでも何とかしたいと弱っているみいをオンボロ自転車の錆付いた籠に乗せたまま若狭の街を彷徨っていた。
夏の沖縄は午後7時になってもまだ空は明るいがもう空から光が失われて、ネオン輝く風俗街の光と呼び込みの太ったサングラスのおじさん達が店の前の椅子に腰掛けて他の店舗の仲間達とタバコをふかしながらなにやら秘密の話をこそこそと始める頃元は波の上のナンミンにある堤防に自転車を停めて途方に暮れていた。
みいはもう動かなくなって横たわり鋭い牙がめくれ上がった口の端から見える。
「その猫助けてやろうか!」不意に後ろから声をかけられて元は力なく振り返ると先程の黒い男が又こちらを見て話しかけてきていた。
「おじさんもう大丈夫みいは亡くなったから…」力なく元が話し始めると黒い男は大きな体躯に似合わずすばやい動きで元の抱いているもう息を引き取ったみいに手をかざして小さな呪文のような言葉を口の中で唱えたかと思うと先程は完全に死んでいたはずのみいが目を覚まして元気に目を覚まして四本足で立ち上がった。
「おじさん何したの?みいが生き返った!」元は大喜びで涙で腫らしたまぶたに嬉しい涙があふれみいを抱き上げてくるくると空を回転させて踊った。
「おじさん魔法使いなの?」黒い男は少し照れながら黒いハットを左手で外し右手で頭を掻いた。
「君の名前は?」
「元!元素のゲンって書いて元だよ」
「じゃあ元君。君に頼みたいことがあるんだ。君にしか出来ないことなんだよ。」




