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「みい」


 「どうだ?痛むところ無いか?」心優しい元は傷や青あざだらけの自分の体よりもまだ幼い猫みいの方が心配であった。


 家に帰った元は母親に事の顛末を話したが貧しい中何とか生活をやりくりしている母親はスーパーのレジを一日10時間以上こなしていて「とりあえずこれで何か買ってやりなさい。」とクシャクシャの千円札を元に握らせると万年床のせんべい布団に横になってそのまま寝入ってしまった。


 弱っていく猫のみいを見ていられなくて「病院に連れて行こう。」と母親にせがんでも母親は目を覚まさず元は家から隣町にある動物病院に自転車で連れて行った。


 「あぁ、こりゃずいぶんとヨワチャッテルねぇ。」と若く四角い金縁めがねの若い医者が神経質そうなとがったあごをさすりながら言った。


 「どうかみいを助けてください!お願いします!お願いします!」と元にせがまれて若い医者は周りの患者に聞こえないように「あのね、動物には保険が効かないから手術すればかなりお金がかかるんだよ。親御さんと一緒にきてもう一度相談しよう。なっ!」と若い医者はみいを元の腕に押し付けて病院の追い出すように連れ出した。


 拾ってきた自転車のガラクタを何台も組み合わせて出来たさびだらけのオンボロ自転車の後ろの籠に傷ついたみいを古くなったタオルに優しく包んで元はドブ川みたいに深い緑色の淀んだ安里川を見下ろして胸の奥から流れ出てくる悲しみに目頭が熱くなって押し殺していた涙がボロボロと流れ出していた。


 「どうしたんだい?」不意に声をかけられ振り返ると春だというのに黒いロングコートに身を包んだ長身の男が丸いサングラスをしているのになぜか眩しそうに眉間に皺を寄せながら話しかけてきた。


 元は無理やり空あくびをして眠たい演技をして泣いていることを隠しながら、「別に!何でもないよ。おじさんには関係ないです。」と黒い男を尻目にオンボロ自転車を漕ぎ出そうと力を入れてペダルを踏んだがその拍子に急にペダルが軽くなり、チェーンが外れ、結局自転車を押してその場から離れようとそそくさと男の視界から外れるようにわざと小さな路地に入っていった。



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