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「西洲」

 黒いタクシーは猛スピードで泊大橋の頂上付近まで加速してその勢いで車体は宙に浮いた。


 乗っていた全員が頭を天井にぶつけて頭を抑えたが運転手だけはタイミングよく体を支えたのかそのまま運転に集中していた。


 エンジンが悲鳴を上げ運転手は真剣な顔で後ろから追いかけてくるベンツの群れを引き離していく。


 「もうなんなんだよぉ!」タマキンが恐怖と悲鳴の混じった声で叫んだ。


 ゆかりはこんな時なのにどこかに電話をかけ始めた。


 miyakoとリサは手を取り合って目をつむり、ただただ安全にこのタクシーから降りられることを祈っていた。


 「姐さん。この先の西洲は出入り口が1箇所で追い詰められちまう」と低いがよく通る声で後部座席のゆかりにいうと電話をしていたゆかりは電話の相手に「じゃあよろしくね」といって電話を切ると「いいの!そのまま行って!」と大きな声で命じた。「了解!」というと運転手はなにやらカーラジオの左にある白いレバーを引くいなや黒いタクシーはスリップ音と共にさらに加速した。


 「ひいぃ」情けない声を出したタマキンは時速180キロの限界値を大きく振り切った車のスピードメーターが目に入ってもう一度「ひぃぃ!」と声を上げた。


 西洲は那覇の外れにある工業地帯で昼は工場や倉庫街に沖縄の流通の拠点となっているが夜は住人が殆どいない事もあり夜は沖縄の「走り屋」と呼ばれる土屋圭一に憧れる改造車に乗る若者がドリフトの練習をしていることで有名な場所だがそれを目当てに集まった野次馬やナンパのスポットとして有名だ。


 その夜も西洲に近づくにつれ遠くの方からドリフト特有のタイヤの擦れる高い音が鳴り響いていた。



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