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ウチナーガールの憂鬱


 「人は何で生きていくんだろう」miyakoはそう思って夜の帳が薄暗く落ち始めた眼下に広がる那覇の街並みを見下ろしていた。


 こんな高級なホテルの部屋に訪れたのは初めてだった。ホテルの部屋からは国際通りや首里、ごみごみとした光の当たらない灰色や薄茶色の風化した街並みが一望できる。あたりが完全に夜のカーテンに包まれると薄茶化た街並みは眩い宝石箱をひっくり返したように沖縄の派手で安っぽいアジア的なネオンの広がる夜の顔が輝きだした。


 「何でこんなことになったんだろう」miyakoは一人つぶやいた。

ここは那覇でも老舗の割と大きなホテルで結婚式場やチャペルもある立派なホテルだった。miyakoは

ロイヤルスィートの部屋で豊満に熟れた裸にバスローブ一枚でくるまれた姿で思い出していた。


 昨日miyakoは友達のリサと昨夜国際通りにあるクラブ『SAICORO』に日頃溜まった鬱憤の憂さ晴らしにやってきた。

 ミラーボールからのレーザーやストロボの効いた店内は切れの良いレゲエミュージックや溶けてしまいそうに甘いスウィートなR&B、サウスサイド、ウェストサイドの攻撃的なヒップホップでたまに流行っているカッコいい邦楽が流れる。中に入ると平日だというのに多くの客で賑わっていた。中ではフェロモンの効いた甘い香りとインドの黒い御香を焚いた清潔な香り、それとありとあらゆる香水と汗やかび臭さが微かに混じったクラブ独特の香りがした。客層も多彩で若い筋肉質の軍人風ホワイティアメリカンややたら背の高いアフロアメリカンが2~3組に二十歳かそこらの専門学校生風の女子グループに明らかにナンパ目的のチャラ男のグループや純粋にダンスを楽しんでいる風の隠れチャラ男、カラーギャングみたいに髪を編みこんだダボダボののバスケユニフォームや逆におしゃれなハットのモード君などなど。

 miyakoは熱気あふれるフロアを見渡せる高い場所にある席に座ってあごひげのバーテンダーが注いでくれたテキーラのサウザを立て続けに2~3杯飲み干して緊張した気持ちをほどいていった。

 

しきりに声をかけてくる沖縄の男たちややたら酒を奢ってくれる下心むき出しのナイチャーや明らかにナンパ待ちなのに仲間同士の暗黙ルールでお互いを若い狼から助け合うのが楽しい黄色い声の女の子たち…みんなとびきりド派手でチープで浅はかで若さが迸っていてmiyakoはそういうのを眺めているのが嫌いではなかった。


ここにいるみんなが日常生活をそれぞれ営みながらそれでいて絶望的に飽いている派手で悲しい蛍たち。


クラブ「SAICORO」に入って1時間が過ぎる頃、すでに3人の素性の知れない男たちと密着して踊っていたリサがmiyakoの座っているフロアを見渡せる席まで戻ってきて言った。

「ねえ!なんで一緒に踊んないの?」激しいダンスの後で少し息切れしているリサの切れ長の細い目はハーフナイチャーの母の遺伝子を色濃く受け継ぎ、沖縄ではレアなその透き通るような白い肌はダンスフロアで若いオスたちの目を引いた。

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