第一章 『適正検査《ベータテスト》』 1
ここから本編となります。
え?もうすでに面白くなさそう?
そう言わないでください。
それを言われると作者はリアルに落ち込みます。
何気にとても小心者な作者ですが、
どうぞ作品の方をよろしくお願いします。
ではでは、本編の始まり始まり~
辺り一面桜舞い散る暖かな桜色の道中で、
江室 雄介は、
横を通り過ぎていく新しい学校生活に胸躍らせる新入生を横目に見ながら、
バッグを片手に校門の前で立ち尽くしていた。
校門には、『公立 桜魔高等学校』と重々しい石彫りの黒いプレートがその存在を醸し出していた。
「ついに来たか桜魔高校」
雄介は誰に対してでもない呟きを小さく吐く。
今年からはただの高校一年生だ。
長く苦しい受験期間を乗り越え、ついにこの日を迎えることが出来た。
今この状況をかみ締めずにはいられず、うずうずする気持ちを抑えきれない。
「うぉしッ!」
頬を叩いて気合を入れなおし、
慎重に校門の向こうへ貴重な一歩を踏み出しそうとしたその時、
雄介の横をブロンドの長い髪をした女生徒が横切った。
思わず目を奪われる。
顔の輪郭はシュッとしていてとても整っており、肌はとても白い。
背はわずかに雄介よりは低かったが、
それを思わせない清純さと厳格さがあった。
彼女は雄介の方をチラッと見ると、そのまま校舎の中へと消えていった。
「誰だ?」
と一人つぶやく。
少しばかり胸が高鳴っているのを感じた。
「ああ、あれは天宮先輩だねえ」
「徹!?いたのか」
「よっ、雄介。おひさ!」
雄介の隣にいつのまにか立っていたこいつは、桜井 徹。
小さい時からの親友だ。
髪は茶色がかった短髪で、ツンツンに立っている。
顔はそこまで良いというわけではないが、そこいらの男子よりかは顔は整っているほうと言える。
「天宮先輩ってお前の知り合いか?」
「は?お前知らねえの?」
徹が驚きの声を上げる。
「俺は今日入学したんだ。わかるわけないだろ」
徹は「あ、そっか」と納得したように指を鳴らした。
徹自身も今日入学するはずだが、なぜ知っているのかはあえて口には出さなかった。
「あの人の名前は天宮 紫先輩。生徒会長だよこの学校の。
容姿端麗成績優秀品行方正。いわゆる完璧美人って言われているらしいぜ」
「ふぅん」
と短く答えて、雄介は彼女が消えていった校舎を見つめた。
すでに彼女の姿は無い。
「ま、いいか」
そうつぶやいて、雄介は改めて最初の一歩を踏み出し、校舎の敷地を踏んだ。
◆ ◆ ◆ ◆
ここ、桜魔高校には二つの顔がある。
一つは、どこにでもあるいたって普通の高校であることだ。
数学、国語、英語などなど、
どこでもやっている教科を毎日なんてことなく過ごす変化の無い表向きの顔。
そしてもう一つ。
こちらは表向きの顔とは違い、普段の雄介たちの世界からはかけ離れた、
表社会に出ることの無い裏の顔。
今となっては『オカルト』とか『マユツバ』とかいう類にカテゴライズされたもの。
それは―――
「えー、『魔法』を行使する者において、決して悪意に流されることがあってはなりません。
であるからして、人のため、世のための志を持つことが大切です。
例を挙げるならば、レオナルド・ダ・ヴィンチの幅広い科学技術しかり、
ダーウィンの地質・生物学しかり、エジソンの発明しかり。
歴史に名を刻んだ偉人は大半が魔法を会得していたと伝えられています。
皆さんもこの人たちのような、人のため、世のためになるよう精進していってください。以上です」
ここ桜魔高校のもう一つの顔。それは『魔法学校』であることだ。
一概に魔法学校といってもただ単に魔法をバシバシ行使するだけではない。
もちろんちゃんとした普通校の授業も受けるし、テストだってある。
ただ、この『桜魔高校・魔法育成管理棟・Magic training administration building(通称:MAB)』
の全敷地は結界によって外界から完全隔離されている。
そのため、外からはこちらを見ることはよもや、認識することさえ出来ない。
聞くところによると、入学許可証もしくは生徒手帳を所持していない限り、
この学校には干渉出来ないようになっているようだ。
サイドを残しててっぺんのハゲた、
それでいてふっくらとしたどこにでもいそうな桜魔高校の校長が長ったらしい挨拶を済ませると、
入れ違いに誰かが壇上に上がった。
「あの人は……」
思わず声に出してつぶやく。
今朝、校門ですれ違った人だった。
あの時は一瞬だったからよくわからなかったが、
なるほど完璧美人と言われるほどのポテンシャルを秘めていそうな雰囲気を醸し出している。
「桜魔高校2年、生徒会長の天宮 紫だ。
皆、今は中学から高校に上がることで少々緊張しているかもしれないが、
しばらく経てばこの学校にも慣れ、気が緩みがちになる。
しかし、学ぶ事ををおろそかにすることは本末転倒というものだ。
ぜひ学業に励んでもらいたい」
彼女は、生徒会長としての厳格な雰囲気を醸し出してはいたが、
それでもとても透き通った声をしていた。
彼女の「以上だ」の言葉とともに、入学式も終わりを迎えた。
生徒達はそれぞれ各教室に案内されていった。
◆ ◆ ◆ ◆
「よう雄介。同じクラスだな」
新しい学校の教室で、運良く後ろ側の窓際になった席で雄介が気持ちよく物思いにふけっている最中に、
あいかわらず陽気な声で徹は隣の席に座った。
雄介や徹を含むこの学校の生徒は全員、
いわゆる世間で言うところの『魔術師』もしくは『魔法使い』と呼ばれる。
「魔法を行使する者たるもの、自らの力をみだらに行使し続け、外界の人の目につく事があってはならない」
という鉄則があるらしいのだが(雄介は知らない)、
自分らの力を見せたわけではないにしても、
ひょんなことからお互いの素性を知ってしまってからは毎日のように雄介たち二人はこうやってダベっては時間を潰す仲となっている。
「……今日は雨がふりそうだなぁ」
と、雲ひとつ無い晴天の空を見上げて小さくつぶやく。
「それって俺を見た後に言う言葉じゃないよね」
徹が不満そうに言う。
「どうだか」
程なくすると、ウェーブをかけた長い青髪の、
赤い眼鏡をかけた女性がおどおどしながら教室に入ってきた。
年は20半ばか後半あたりだろうか、とても若く見える。
「え、えっと。皆さん、初めまして、このクラスの担任を受け持つことになった、西嶋 綾香、です。
『あやちゃん』、って呼んで、くださいね。
え、えっと……テ、テヘッ?」
途切れ方がおかしな喋り方の綾香こと『あやちゃん』のおそらく精一杯の挨拶と、
拳を自分の頭に軽く当て、
舌をペロッと出すという理解しがたい訳のわからない行為に誰も反応を示してくれず、
少し泣きそうになるのを自制。
ついで、いきなりしゃがみこんだかと思うと「あやちゃんがんばる」と小声で小さくガッツポーズ。
――――大丈夫かこの人。
第一印象からひやひやしながらそう思ったのもつかの間、
徹が机を支えに体を傾けて声のボリュームを落としながら喋りかけてきた。
「なあなあ、あやちゃんちょっとかわいくね?なんかこう、守ってやりたくなるみたいな雰囲気を醸し出してるよね。
それとさぁ、あの胸。サイッコーだね!ああ、あやちゃんのあの胸にあやかりたいなぁ」
「し・る・か!」
左で頬杖をつきながら、右で徹の顔を無理やり押し戻す。
「ちぇ、つれないな」
「今はHR中だっての」
「ま、いいけど」
徹はつまんなそうに雄介と同じように頬杖をついた。
「え、えと。それじゃ、まず初めに、
新入生の皆さん、にはこれから適正検査を受けて、もらいます」
挙動不審な先生の言葉にようやくクラス内がざわつく。それを聞いた先生の顔がわずかに輝く。
今までの行動は、ただなにかしらの反応が欲しかっただけなのかもしれない。
「え、えっと、説明するとですね。
適性検査というのはですね、
今自分にはどういった術式系統が合っているのかを調べるといったとっても簡単な検査です。
この結果によって自分の学ぶ科目が変わってくるので、皆さんぜひ受けてくださいね」
先ほどとはうって変わって流暢になった(ついでに少し明るくなった)先生の言葉の変化に気づいたのは、
多分この中で雄介だけだろう。
中にはいるかもしれないがぶっちゃけ隣は論外。
「うぇへへへへへ。あやちゃんかぅわいいなぁ……」
鼻の下を伸ばしながら変態丸出しの顔でいるこいつが自分の親友だとは到底思えない雄介だった。
というか思いたくない。
「では、検査をする際には体操着になってもらうので、
それぞれの更衣室で着替えを行ってくださいね」
先生の言葉を最後に生徒達が一斉に立ち上がる。
「ほらいくぞ徹。
いつまで鼻の下伸ばしてんだ」
「ぐえっ!お、おい雄介!襟引っ張んな!首、首が!」
「結構」
「ひどい!鬼畜!鬼!この悪魔!」
徹の言葉に徹を引っ張っていた雄介の手が止まる。
「……雄介?」
「…………いいからほら、さっさと行くぞ」
襟を引っ張って無理やり徹を立ち上がらせる。
「……ちぇ、わーったよ」
徹はしぶしぶと教室を出た。
「…………悪魔、か」
気を取り直し、雄介も徹の後を追う。
一瞬、背後に視線を感じて振り向くが誰もいない。
「……気のせいか」
小さく鼻を鳴らして、先に行った徹の元へと駆けた。
◆ ◆ ◆ ◆
男子更衣室は、女子更衣室とは校舎を挟んで真逆に位置している。
別にそれはかまわないのだが、
今年出来たばかりというこの新校舎も、外からの見た目よりはるかに広い。
どちらかというと女子更衣室側に位置する雄介たちのクラスからすれば、
男子更衣室までたどり着くのに走っても十分を要した。
「お前だけか?」
やっとこさ到着した窓一つ無い殺風景な男子更衣室を開けると、
中にいたのは徹ただ一人だった。
「ああ」
徹は短く答える。
それに対して「ふうん」と別に気にもとめずに制服を脱いでいく。
「まだ他の男子生徒は来てないのか……」
何気にそうつぶやくと、徹はなぜかその動きを止めた。
「お前、マジで言ってんの?」
「なにがだ?」
「マジにマジ?」
「だから何がだ」
「マジにマジにマジ?」
「だから何が……」
「マジにマジにマジにマジ?」
「殺していい?」
「すんません」
アイアンクローをメキメキとお見舞いすると、
徹は体を痙攣させながらすぐに大人しくなった。
「ゴホン!改めてまじめに聞くけど、お前マジで言ってんの?」
「そうだけど?それがどうした?」
そう言うと徹はカァーッと江戸っ子のような声を出して右手で額を叩いた。
その仕草を見て少しイラッとした。
「お前知らねぇの?」
「何を?」
その言葉を待ってましたと言わんばかりに、
徹は身なりを整える仕草をすると(上半身裸なので意味無い)ゴホンと咳払いをした。
「ここ公立桜魔高等学校は表向きはただの普通校なのですが、
裏の顔はなんと魔法を学ぶための魔法学校なのです!」
徹は自慢気に左手を腰に当て、右手をどこかわからない所にビシッ!と指差した。
「そんぐらい俺でも知ってる。
入学案内に載ってただろうが、なめんな」
徹は誇らしげに鼻を鳴らすと、チッチッチと人差し指を振った。
「実はそれだけじゃないのですよ雄介君。
もう一つ、この高校にはすんばらしい秘密が隠されているのです」
「なに!」
徹の言葉に雄介は思わず息を呑む。
入学案内は熟読したはずだし、
自分なりにここのことを調べ尽くしているつもりだった。
それなのにまだ自分の知らない情報があるとは驚きだった。
「そ、それはなんだ?」
雄介が徹に詰め寄ると、徹は再び誇らしげに鼻を鳴らした。
「そ・れ・は」
「そ、それは……?」
徹は深く深呼吸をすると同時に、目をカッと見開いた。
「ここ桜魔高校はつい一年前まで女子校で、
今年共学になったばかりだから男子に比べて女子の割合が高いんだよ!
まさにハーレム!まさに天国!すばらしきかな桜魔高校ぉ!!」
「な…………」
しばらくあっけにとられて、発することが出来たのはそれだけだった。
確かに、思い返せば男子に比べて女子の姿をよく見かけると思ったらそういうことだったか、
とも思うし、
他に心当たりが無いとは言い切れない。
「しかし、共学になったことは入学案内には書かれていなかったがどういうことだろうか。
見落としたとも思えない。
学校事情だったら載せるべきだとは思うが、
というかこのことを徹はどのような手段を使って知ったのだろうか」
と、雄介はここまで一気に考えて、
「まぁ今となってはもはやどうでもいいことだし、
入学してしまったものは仕方が無い」で無理やりまとめる。
「じゃあ男子は俺たちだけなのか?」
「俺たちだけって事は無いだろうけど、せいぜい十人程度じゃない?」
「ふぅん」
小さく納得の声を上げる。
もともと『魔術師』になるのは、
『魔女』だとか世間一般に言われているように女性の割合が極端に高いらしい。
少なからず男性の魔術師もいるようだが、
女性魔術師に比べれば、校長が名前を挙げていたような例外を除いてその力量は遥かに劣る。
歴史上の流れで男性魔術師が消えていったのも納得の出来るものだった。
桜魔高校に入学した男子生徒の人数にも頷ける。
「だがまぁ、そんなことはどうでもいい」
心の声を思わず口に出す。
「そんなこと、ってお前さんわかんないのかい?
ハーレムだよ!女子だよ!たわわだよたわわ!」
「意味わかんねぇ。
それと喋り方なんとかしろ、気持ち悪くてしょうがない。
とにかく、別に俺は興味ないし持つ気もない、先に行ってるぞ」
「え?おい雄介!待てよ!おわっ!」
急いでズボンを履こうとした徹がバランスを崩して派手に倒れるのを見ずに、
雄介は急いで指定された場所に向かった。
第一章、いかがでしたでしょうか?
少しばかり一つ一つの投稿が無駄に長くなってしまうのはご愛嬌(俺に愛嬌なんて微塵もないが)。
この時点では、まだ世界観と言うのがまだはっきりとわからないのではと思います。
小説作品としてそれはどうかと思うところでもあるのですが、
自分の力がまだ未熟なため、
それはもはや今はどうしようも出来ません。
しかし、
もし「お?これはもしかしたら面白いかもしれないぞ?」
とミジンコほどでも思っていただけたら感想を書いていただけると嬉しいです。
次回、第二段落。
主人公である江室がいたぶられます(笑)