第二章 『春の桜魔高祭』 3-1
『桜魔高祭生徒対抗トーナメント編』始まります。
この編は、
前回の後書きの通り、
江室の秘密が少し明かされます。
今回はまだ出ません。
準備段階です。
わずかに歓声が聞こえる。
足に伝わる感触は土のようなやわらかい物ではなくなっている。
もっと硬い無機質なものだった。
目がチカチカしてぼやける。
だがそれも、
数回瞬きすると徐々に直ってくる。
耳に伝わる歓声も徐々に大きくなる。
「痛ってぇ……一体何が起きたんだ?」
したたか打ち付けてたんこぶの出来た頭をさすりながら、
雄介は辺りを見回す。
一見どこかの部屋みたいだがとても薄暗い。
「来たか」
ふと、前方にうっすら見える三人の人影のうち、
一人が近づいてくる。
「天宮……先輩?
近藤先輩に江向まで」
三人の人影は生徒会メンバーのものだった。
「一体どうしたんですかこんな所で、
ていうかここはどこなんですか?」
「心配するな、
直にわかる……と、
君は誰だ?」
紫が言うのは、
雄介の隣でわけがわからずに座り込む美夏のことだった。
「え、ええと、
この人は俺の友達で上乃 美夏って言うんですけど……って、
ですから何で俺たちこんなところに?
俺は確か校舎裏にいたはずじゃ……」
「これだ」
紫はあの例のフリーパスポートを雄介に見せた。
「これはな、
対抗トーナメントが始まる時間になると、
自動的にこの場所に転送するように魔方陣が仕込まれているのだよ。
お前を驚かしてやろうと思ってな、
わざと言わなかったんだ」
そう言いながら紫はポスター下部の『生徒会専用』の印を指差した。
「ああ、
最近先輩達の様子がおかしかったのはこういうことですか……ってことは、
ここってもしかして……」
「……見るか?」
紫は口を歪ませると、
おもむろに背後の壁に手を添えた。
すると、どういう仕組みなのか、
今まで無機質だった壁が添えられた手を中心にして透明なガラスに変化していく。
「こっちに来たまえ」
促されて雄介はおずおずとガラスに顔を近づける。
「うわぁ……っ!」
雄介が見たもの、
それは、とてつもない人数の観客だった。
どうやら雄介は今かなり高い所に位置している部屋の中にいるようだ。
ここから一望できる楕円形のドームは天井が開いており、
その真下には緑の芝生が敷かれている。
しかも、周りには大勢の観客がひしめき合っている。
まるでサッカー場のようだった。
しかし芝生の上で行われているのはサッカーではない。
コート内には、
左に赤、
右に青のクリスタルが、
まるで二つの陣地を分かつかのように対角線上に端っこのほうで宙に浮いていた。
それぞれの陣地内では四,五人の生徒が、
あるいは攻撃、
あるいは防御に転じて、
それぞれ思うままの魔法を掛け合っている。
中には敵を一瞬にして吹っ飛ばすなどのすごい奴もいた。
「先輩、これって……」
「そうだ、
これが二,三年生の春と夏の2度だけ桜魔高祭で行われる我が高伝統行事、
『桜魔高生徒対抗トーナメント』だ」
壁がガラス張りになったせいか、
歓声が一層強まって聞こえた。
突如、部屋に内蔵されていたスピーカから、
おそらく司会者であろうはっきりとした声が響いた。
『さあ!
今年も始まりました桜魔高生徒対抗トーナメントぉ!
今年も二年生三年生の猛者たちがそれぞれ磨き上げてきた魔法をビシッバシッ見せつけております!
司会は私、東堂 明でございまぁーす!
よろしくぅ!!』
「……誰ですか?」
「……校長だ」
「校長!?」
「私も困ったものだよ、
どうしても司会は自分でやりたいって聞かないのだよ」
紫は眉間に指を当てて首を振る。
はぁー、と思わず雄介は驚きの声を上げる。
まさか校長がこんなキャラだとは知る由も無かったのだ。
おそらくこの場にいる一年生全員は、
司会をしているのが自分の学校の校長だとは夢にも思わないだろう。
「まさか校長が司会をするなんて、
びっくりですよ。
なあ、美夏もそう思うだろ…………美夏?」
そのとき、雄介は一瞬、
美夏の怖い一面を見た気がした。
窓からの光も届かない薄暗い部屋の隅で、
心底悔しそうな顔をしながら爪を噛む美夏の姿を。
「美夏?」
おそるおそる名前を呼ぶと、
美夏はハッとしたように顔を元に戻し、
「何?」と平然とした面持ちで返答した。
「い、いや、なんでもない」
「……そう」
二人のやり取りを見た紫が不信そうに雄介と美夏を交互に見た。
「ところで、
私はお前達がなんで二人そろってこの場に現れたのかが不思議なのだが?
複数人数を転送するには身体の一部を触れ合わせねばならないはずだ、
しかしこれは一体どういうわけだ江室?」
ジトッとした目ですごむ紫の目に、
雄介は要領の得ない返答しか出来ず、
見かねた亜美が手を叩いた。
「決まってるじゃないのゆかちゃん。
二人は仲のいい幼馴染なのよ?
手くらい繋いでもおかしくないでしょ?」
「なんだと?幼馴染?」
ピクッと紫の眉間にしわが寄る。
挙動不審な雄介と美夏を何度も交互に見ると、
紫は感情の読めない長いため息をついた。
「仕方ない、か……
まさかお前の幼馴染が同じ学校にいるとは思いもしなかった。
私の誤算だ。
しかし、となればお前にも出てもらわなければな、
上乃とやら」
「わ、私ですか?
何にでしょうか?」
「もちろんそれは――――っと、
もうその時が近いようだ」
紫が窓の外を見ると、
コート内に二つあるクリスタルの内、
一つが相手チームに破壊されるところだった。
クリスタルがガラスを割ったような音とともに破壊されると同時に、
盛大なファンファーレと観客の耳をつんざくような歓声が辺り一面に響いた。
「行くぞ」
紫と一緒に、
亜美と江向がどこかへと歩き出す。
「ちょ、ちょっと先輩、
どこに行くんですか?
まだトーナメントは終わってないんですよね、
次の試合も見ていかないんですか?」
この言葉に、
紫は呆れたようにため息をついた。
「お前はまだ気づかないのか……
一体お前の頭の中はどれだけ空っぽなんだ
……ったく」
反抗したい気持ちをぐっと押さえながら、
雄介は気持ちを沈めた。
「私達生徒会もこのトーナメントに出場するに決まっているだろう」
しかし、その顔はその一言で驚きへと変貌した。
「時間が無い、
行きながら話そう」
そう言うと、
紫はどこにあったかわからないドアを開けて外へと出た。
ここまで読んでくださった方、
本当にありがとうございます。
作者、本当に嬉しいです!
さて、今回はトーナメントの全体像を中心に描いてきましたが、
それと同時に伏線の回収を行いました。
それにしても、
あーちゃんは状況をなんだか面白がってるみたいですね(笑)
本当にこんな人がいたら状況を悪くするだけな気がする作者です。
さて、次回は、
さらに詳しいトーナメントの内容が生徒会長から説明されます。
次々回までは準備段階です。
今後もこの小説を読んで楽しんでいただけると嬉しいです
(●´∀`●)
それでは、お楽しみに!