●延長戦突入
二分間の小休憩。選手たちは水分補給を済まし、しばし体力の回復に努める。
「繭っちがさ、昨日あたしに意見してきたんだ」
「ほう、珍しいな」
「そうなんだ。今回の球技大会で優勝をしたら、もっと自分を認めて欲しいとまで言ってきたんだ。眼光は鋭く、決意と覚悟を感じたよ。あんな繭っちは初めてだ」
「へ~、すごいな」
「ちゃんリサと大和が裏で糸を引いているんだろ?」
「さぁ、どうだろうな?」
「別にどっちでもいいさ。繭っちは今回のことで、大きく化けるかもしれない。覚醒の予兆だよ。果たして、繭の中からは綺麗な蝶が出るか、害となる蛾が出てくるか楽しみだね」
「大成!」
「おう、繭。すごいじゃないか」
噂をすれば影がある。貴重な休憩時間を削って、繭は俺たちの所へ来た。
「もし……もしボクが勝ったら、生徒会へ戻ってきて!」
「はぁ? いきなりどうした?」
「約束だからね!」
「いやいや……ふぐっ!」
いきなり腹部に痛みが襲う。司のパンチがボディに突き刺さる。
「黙って聞き入れろ!」
「約束だからね!」
俺の返事を聞かないまま、繭は戻って行った。
すぐに試合は再開された。
そして開始直後。均衡を破るのは、やはり繭だった。
リサではなく、もう一人の一年選手を絞った。
彼女の体力は既に限界であった。
今度はリサでも間に合わない。
繭の剛速球を前に、なすすべもなくアウトになる。
静寂を破る大きなホイッスルが鳴った。
「ご、ごめん」
「大丈夫。後は私に任せて!」
とは言うものの、勝てる希望が出てきた時間帯にこのアウトは大きい。
しかも、ボールは二年生に渡った。
二年生の応援はヒートアップし、一年生の応援は小さくなった。
「ちゃんリサ大丈夫かな。心が折れると、あっという間に負けちゃうよ」
「翌梨なら、大丈夫だろ」
俺の言葉通り、リサは全く動じない。
「なになに? 楽しんでいるのはわたしだけ?」
それどころか、ふさぎ込んでいる一年の生徒たちに訴えかける。
「しけたツラしてると、勝利の女神様が二年生に行っちゃうよ!」
落ち込んでいた一年生たちが耳を傾ける。
「取られたアウトは取り返す。残り時間わずか? 内野はわたし一人? 関係ないよ、充分でしょ! 勝ちに行くわよ!」
一年生全員の熱が一段と帯びてきた。
「わたしについてきなさい!」
その声を聞くや否や、一年の声援が復活した。
「フレ~! フレ~! よ・く・な・し!」
丁度その時、チアガールの恰好をした岬が現れた。
「ご、ごめんねぇ~! サッカーの試合が長引いちゃったよぉ~」
「遅いっ!」
「その代り、精一杯応援するよぉ~!」
岬の登場により、さらに熱が上がる。
「如月先輩、声援の力ってすごいですよね。応援されると、自分の力が何倍にも強くなった気がします」
「この状況を楽しめるなんて、翌梨はやっぱりすごいね」
繭はボールをバンバン地面に叩きつけて、最後の会話をする。
「是非、バレー部に欲しいよ」
「さぁ、決着をつけましょう!」
「自慢の足で逃げ回らないの?」
何たる凄まじい圧。
見ているこちらまで伝わってくる。
「こんな楽しい勝負……逃げるわけありませんよ!」
「そうだね! 楽しかったよ。この一球で勝負を決める!」
リサがコートの中心で腰を落とす。
「なら、そのボール! 必ずキャッチしてみせます!」




