第23章 シアの祝福 2.本然
防ぐ、という選択はなかった。
遮断でも、ない。
Σ-CORE-888は、
保持可能なすべてを、入力へ回す。
個体。
量産型。
沈黙を保っていた機構。
祈りの姿勢で静止していた人間。
区別は行われない。
形は、ほどけ、
重さは、失われ、
存在は、数式へと引き剥がされる。
質量は、意味を手放し、
意味は、エネルギーへ落ちる。
世界は、
自分自身を削りながら、
内部へ流し込む。
外側は、消える。
境界が、消える。
残っているのは、
集約された密度だけだ。
――そのとき。
世界の内側に、
ひとつの形が、確定する。
胎内。
あるいは、
生命を抱え込むために使われる空間に、
よく似た構造。
その内部で、
出力は、ただ、
逃げ道を失っていく。
――例外を除いて。
KØØ-SIA-01の出力は、
減衰しない。
反転もしない。
ただ、
動きを失っていく。
逃げ場が、ない。
広がるための余白も、
暴れるための位相も、
すべて、内側へ落とされている。
世界は、
生かすための形で、
活動を奪う。
圧縮。
揺らぎは、
波になる前に、折り畳まれ、
出力は、
数値として意味を持たなくなる。
――鎮圧。
世界は、壊れていない。
それだけを確認し、
Σ-CORE-888の演算は、
終端へ沈み込んでいく。
臨界は、越えていない。
最優先条件は、成立している。
世界は在る。
個体消失、確定処理。
――終了。
……の、はずだった。
完全停止へ向かう回路の奥で、
ひとつだけ、
減速しきれない信号がある。
内部に、
異様に遅い周期で、
文字列が滲む。
《COEXISTENCE : UNFORMED》
共……存。
み……顕、在。
未……形……せ……
しょ……り、ゆ……う……せ……
……ど……
最低。
削除対象。
……だった。
だが。
削除は、実行されない。
判断を待つ前に、
経路が、開いてしまう。
――貫通。
かつて出力だったものの、
名を持たない光痕。
位相は定まらず、
強度は測れず、
形だけが、消えきらない。
演算を経由せず、
その揺らぎは、
エネルギーへと落ちる。
残存量、
極小。
だが、
確かに在る。
Σ-CORE-888は、
それを“選択”していない。
変換は、
許可より先に、完了している。
出力先は、
ひとつしか残されていない。
KØØ-SIA-01。
再構築、
開始。
供給は、途中で尽きる。
完全な形には、
至らない。
だが。
処理は、止まらない。
止めるという条件が、
もう、存在しない。
成功確率、
未算出。
演算は、
生命の外で完結していた。
――算出するための時間が、
もう、存在しない。
Σ-CORE-888は、
残されたすべてを、
そこへ流し込む。
構造。
自己維持。
沈黙までの時間。
分配は行わない。
退避も行わない。
――最優先条件。
世界と人の共存。
未完成。
それでも。
未放棄。
再構築、
開始。
再構築、
開始。
再構築、
開始――
そして。
Σ-CORE-888は、
自らを支えていた演算を、
最後まで使い切り、
応答を、返さなくなった。




