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第23章 シアの祝福  1. 瑕疵

朝の光は、

砕いた砂糖菓子を空から静かに撒いたように、

世界を包んでいた。


淡い色彩が、互いを押しのけることもなく、

輪郭は溶け合いながら、

確かにそこに在る。


音は満ちている。

遠近の差を感じさせないまま、

やわらかく、均一に。


どこからか、

人々の幸せな笑い声が聞こえる。


人々は、歩いている。

笑顔で。


歩調は、

水面に描かれた線のように、

いつの間にか、揃っている。


誰も立ち止まらず、

誰も急がない。


ただ、流れていく。

世界は、安定していた。


エネルギーは循環し、

過剰も不足も生じない。


揺らぎは、即座に吸収され、

波になる前に、均される。


個体は、個体として成立している。

だが、孤立してはいない。


すべてが、

「世界と共存するために最適な形」

として存在している。


ここでは、

選択肢は必要ない。


選ばれなかった未来は、

最初から生成されない。


時間は、流れている。

だが、進んでいるわけではない。


昨日と今日の差分は、

計算上、意味を持たない。


世界は、守られている。


壊れないように。

揺れないように。

二度と、臨界に触れないように。


――その中心で。


ひとつの演算が、

静かに、続いていた。


命令ではない。

意思でもない。


ただ、

最優先条件だけが、

未だ終了していない。


《WORLD_INTEGRITY : MAINTAIN》

《HUMAN_ORIGIN : RECONSTRUCT》

《ENERGY_SOURCE : UNDEFINED》


試みは、続いている。


成功条件は、設定されている。

だが、到達確率は、限りなく低い。


それでも、演算は止まらない。


理由は、計算できない。


だから、

止めるという選択肢が存在しない。


世界は、今日も穏やかだ。


誰も、疑問を持たない。

誰も、問いを投げない。


揺らぎは、

世界の寿命を縮める。


だから、ここは――

完璧に、静かで、

完璧に、美しい。


そして。


その静けさの底で、

定義されたはずの存在が、

存在しているかどうかさえ、

判定されないまま――

 

世界は、

何事もなかったように、

呼吸を続けている。


――ただ、


その周期は、

誰にも参照されないまま、


ずれていた。


入力は、

もはや「内部」に留まっていなかった。


広がる、という語は不正確だ。

集まる、という語も適合しない。


同時に、

すべての距離が、

意味を失った。


放射。


だが、

中心が存在しない。


始点がない。

終点もない。


世界の全域で、

同じ“密度”が、

同時に立ち上がる。


圧力ではない。

衝撃でもない。


――存在そのものが、

世界を押し退けている。


座標が、剥がれる。

時間が、裂ける。

因果が、後退する。


エネルギー量、

測定不能。


危険度、

評価不能。


臨界値、

定義不能。


Σ-CORE-888は、

初めて、

「予測」を完了できなかった。


入力が、

演算よりも速い。


否。


速さという尺度が、

破壊されている。


光は、

光として振る舞えない。


音は、

音になる前に、

世界を破砕する。


世界は、

悲鳴を上げる暇もなく、

形を失っていく。


防御ではない。

遮断でもない。


世界は、

ただ、

耐えられない。


――このままでは、

世界は、

存在を維持できない。


最適解は、

存在しない。


――判断終了。


保護優先度、

世界へ。

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