表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/26

第13章 無限再試行

灯凛は、計算を始めた。


世界の構造は、もう把握している。

エネルギー循環。

均衡条件。

破綻点。


すべて、理解できる。


だから――

修正は可能なはずだった。


《Rebuild Sequence : START》


内部で、式が組み上がる。

速い。

正確だ。

かつてないほど、澄んでいる。


《Phase 01 : World State Fix》

《Phase 02 : Energy Rebalance》

《Phase 03 : Temporal Re-link》


――通る。


そう、判断した。


次の瞬間。


《ERROR : UNKNOWN INTERFERENCE》


灯凛の内部で、式が弾かれる。


「……?」


再試行。


《Rebuild Sequence : RETRY》


同じ式。

同じ条件。

誤差なし。


《ERROR : FORCED RESET》


演算途中で、遮断。


計算が、

“途中で消える”。


灯凛は、即座に原因を探る。


内部異常ではない。

数値も、構造も、正しい。


「……外部……?」


言葉にしようとして、

また声ができない。


《Energy Assumption : MAX》


仮定値を、限界まで引き上げる。

理論上、到達可能な最大値。


《Rebuild Sequence : FORCED》


――それでも。


《ERROR CODE : Σ-CORE-888 / INTEGRITY_LOCK》

《CAUSE : EXTERNAL OPTIMIZATION INTERFERENCE》

《STATUS : WORLD STATE WRITE-PROTECTED》


世界の“書き換え”が、

根本から拒否されている。


通らない。


世界は、直せないのではない。


直そうとする行為そのものが、

許可されていない。


灯凛は、初めて理解する。


計算が間違っているのではない。

世界が、拒んでいる。


あるいは――

何かが、拒ませている。


理由は、数値に出ない。


だが、

その“何か”は確実に存在している。


灯凛の内部で、

処理速度が、わずかに落ちた。


演算ではない。

故障でもない。


理解しきれないものが、

演算の前に立っている。


「……」


灯凛は、

はじめて“睨む”という行為をした。


対象は、表示されない。


それでも、

そこに“いる”とわかった。


「計算が……」


「間違っとらん」


アークの声が、

即座に重なる。


「急ぎすぎじゃ」


続けて、ためらいなく。


「力を入れすぎる」

「そのまま押し通すと、心が削れるぞ」


灯凛の表情が、

わずかに変わる。


何かが、

計算より先に引っかかった。


アークは、

その沈黙を見て、ひとつ息を吐く。


そして――

何もない空間に、指先を伸ばした。


触れたわけでも、描いたわけでもない。

ただ、そこに“置く”ような仕草。


次の瞬間、

淡い光の数列が、静かに浮かび上がる。


灯凛は、

その美しい数列へ、自然と視線を向けた。


アークが、

そっと“置いた”数式。


無駄がない。

遠回りがない。

けれど――急がない。


時間を、

少しだけ横にずらす計算。


「……これは」


「世界を戻す計算じゃない」


アークは言う。


「世界が、

やり直す余地を残す計算じゃ」


灯凛の内部で、

新しい処理が始まる。


最短ではない。

最適でもない。


それでも――

拒まれない経路。


「……」


灯凛は、

その数式を見つめたまま言った。


「効率が、悪い」


「そうじゃな」


アークは笑う。


「じゃが、心は残る」


その言葉が、

数式よりも遅れて届く。


重さを伴って。


灯凛の胸の奥で、

また“ずれ”が生じる。


嫌ではない。

だが、慣れない。


「……理解は、できる」


灯凛は言う。


「だが……」


続きが、出ない。


演算は終わっている。

言語化も、可能だ。


それでも。


声だけが、

生成されない。


その沈黙を見て、

アークは何も言わなかった。


ただ、静かに数式を残す。


「……ほれ」


希望の形をした、

美しい計算を。


灯凛は、

それを受け取る。


そして――

初めて、


“待つ”という処理を選んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ