12月16日 火曜日
放課後、僕はエミリーを連れてエーダンモール深沢へ向かった。学校から歩いて十五分ほどの商店街は、昔ながらの店と新しいカフェが並んでいて、地元の人たちでいつも賑わっている。
「Wow… so many shops!」
「うん、ここは地元の商店街なんだ」
彼女は目を輝かせながら、看板や店先を次々と指差す。八百屋の色鮮やかな野菜、魚屋の氷の上に並ぶ魚、パン屋から漂う甘い匂い。どれも新鮮に映るらしく、立ち止まっては「写真撮っていい?」とスマホを構えていた。
たい焼き屋の前で、エミリーが足を止めた。
「What’s this?」
「たい焼き。魚の形をしたお菓子だよ。中にあんこが入ってる」
「Fish… sweet? Interesting!」
僕は二つ買って、一つを渡した。熱々のたい焼きをかじった彼女は目を丸くして笑った。
「Sweet… but good! I love it」
その笑顔に、僕の胸がまた跳ねる。彼女が楽しそうにしているだけで、僕まで嬉しくなるのだ。
歩きながら、彼女がふいに尋ねた。
「Jun… no ramen shop here?」
「ここにはないよ」
エミリーは少し残念そうに肩をすくめた。
「Someday… I want to eat ramen」
その言葉に、僕はスマホを取り出して母に電話をかけた。
「もしもし、母さん。エミリーがラーメン食べたいって。近くにある?」
『駒沢公園の近くに一風堂があるわよ。歩いて十分くらいね』
電話を切ると、僕はエミリーに伝えた。
「There is a famous ramen shop… Ippudo. Ten minutes walk」
「Really? Let’s go!」
二人で並んで歩き、駒沢公園の前を通る。僕はふと思い出して、慣れない英語で口にした。
「Here… Komazawa Park. Long ago… Olympic Games, 1964」
発音が怪しくて、伝わったかどうかはわからない。エミリーは少し首をかしげてから、にっこり笑った。
「Olympics? Oh… I see. That’s cool」
そう言ってくれたけれど、本当に理解してくれたのかは不明だった。でも、僕の拙い英語を笑わずに受け止めてくれたことが、妙に嬉しかった。
一風堂に着くと、店内の香りにエミリーが目を輝かせた。
「Smells so good!」
ラーメンを前にして、彼女は箸を器用に使いながら「Delicious!」と声を上げた。僕はその隣で、ただ頷きながらラーメンをすすった。
――彼女と歩くだけで、見慣れた街も、食べ慣れた味も、少し違って見える。
そう思いながら、僕は家への帰り道を並んで歩いた。




