エピローグ
エミリーが帰国してから数日が経った。冬休みの街は正月の準備で賑わっているけれど、僕の心の中はまだ静かなままだ。学校に行っても、彼女の席は空っぽで、そこに座っていた笑顔を思い出すたびに胸が締め付けられる。
夜になると、僕は縁側に座って星空を見上げる。あの日、彼女と並んで見た星と同じ光が、今も瞬いている。遠い国にいる彼女も、同じ星を見ているだろうか。そう思うと、距離が少しだけ縮まる気がした。
スマホには、彼女から届いたビデオレターが残っている。何度も再生したい衝動に駆られるけれど、心の奥で「一度で十分だ」と思う。彼女の声はもう僕の中に刻まれていて、再生しなくても思い出せるからだ。
「Jun, don’t forget me」――その言葉が、今も耳に響いている。忘れるわけがない。彼女と過ごした二週間は、僕の人生で一番輝いた時間だった。
やがて春が来て、夏が過ぎ、季節は巡っていくだろう。新しい友人、新しい出来事、そして新しい夢が僕を待っている。けれど、そのすべての始まりには、エミリーと過ごした日々がある。彼女が僕に教えてくれた「挑戦する勇気」「文化の違いを楽しむ心」「言葉を超えて伝わる気持ち」。それらはこれからの僕を支えてくれるはずだ。
未来のどこかで、再び彼女に会える日が来るかもしれない。アメリカの街角か、日本の駅前か、あるいはまた駒沢公園のベンチかもしれない。その時、僕は少し成長した自分を見せたい。
星空を見上げながら、僕は小さく呟いた。
「See you again, Emily」
その言葉は夜空に溶けていったけれど、心の奥では確かに彼女に届いている気がした。
――別れは終わりじゃない。記憶と声が、これからも僕を導いていく。




