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14Days  作者: 双鶴


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12月28日 日曜日

 12月28日、日曜日。昨日の羽田空港での別れから一夜が明けた。目を覚ますと、部屋の中はいつもと同じなのに、どこか違って見えた。エミリーのスーツケースが玄関に置かれていた光景がまだ頭に残っていて、もう彼女がここにいないことを思い知らされる。


 朝食の席で母が「静かになったね」と言った。父も「少し寂しいな」と呟いた。僕は黙って頷いた。食卓に並ぶトーストや卵は昨日と同じなのに、彼女が「Delicious!」と笑っていた声がないだけで、味が薄く感じられた。


 午前中、机に向かってノートを開いた。昨日までの二週間の出来事を思い返しながら、走り書きのように言葉を並べていく。餃子を作った夜、図書館で英語を読んだ午後、駒沢公園を散歩した夕暮れ、自由が丘のカラオケで歌った声、クリスマスのケーキ、そして最後の学校の日。どれも鮮やかで、でももう戻らない。


 昼過ぎ、スマホが震えた。画面を見ると、エミリーからのメッセージだった。


「Jun, I sent you a video. Please watch」


 心臓が跳ねた。リンクを開くと、彼女のビデオレターが再生された。


 画面の中の彼女は、アメリカの自宅らしい部屋で座っていた。背景には窓から差し込む柔らかい光。彼女は少し緊張した顔で、でもすぐに笑った。


「Hello Jun. I’m back home now. But… I miss Japan. I miss your family. I miss our school, our friends… and I miss you」


 その言葉に、胸が熱くなった。彼女は続けた。


「Two weeks were short, but very special. You showed me many things. Japanese food, parks, library, karaoke, Christmas… everything was new and wonderful. I’ll never forget」


 彼女は少し間を置いて、真剣な表情になった。


「Jun, you were always kind. Even when you were shy, you tried to help me. You made me feel safe. Thank you」


 僕は画面を見つめながら、涙が滲んできた。彼女の声は遠い国から届いているのに、すぐ隣にいるように感じられた。


「I hope… someday, you come to my country. I want to show you my home, my school, my friends. And… I want to sing with you again」


 最後に彼女は笑顔を見せて、手を振った。


「See you again, Jun. Don’t forget me. Bye-bye」


 動画が終わると、部屋の中は静まり返った。僕はスマホを胸に抱きしめた。


 夕方、駒沢公園へ足を運んだ。昨日と同じ冬の空気が広がっていたけれど、どこか違って感じられた。ベンチに座り、彼女と歩いた道を思い返す。枝の形、夕暮れの空、彼女の笑顔。すべてが鮮やかに蘇る。


 夜、縁側に座って星空を見上げた。昨日の夜と同じように、星が瞬いていた。だけど今日は、彼女の声が胸の奥に響いていた。


――「Don’t forget me」


 その言葉が、何度も繰り返される。僕は小さく呟いた。


「忘れるわけないよ」


 星空に向かって言ったその言葉は、誰にも届かないかもしれない。でも、胸の奥では確かに彼女に届いている気がした。


 スマホを開くと、彼女のビデオレターが再生履歴に残っていた。再び再生するか迷ったけれど、今日は一度だけにしておこうと思った。大切なものは、何度も繰り返すよりも、心に刻む方が強く残る気がしたからだ。


 布団に入ると、彼女の声が耳に残っていた。遠い国にいるのに、心の距離は近い。目を閉じると、彼女の笑顔が浮かんだ。


――別れは終わりじゃない。思い出と声が、これからも僕を支えてくれる。


 そう思いながら、静かな夜に身を委ねた。


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