婚約破棄の条件はチン切りです〜それでもあなたは誓いを破りますか?〜
王都アリエネルの白薔薇宮殿。その大広間で、私は静かに微笑んでいた。
「――よって、本日をもって婚約を破棄させてもらう」
王太子ルシアスは、さも当然のように言い放った。
理由は実にありふれている。
「君は地味だ。金髪でも碧眼でもない。隣に立つにふさわしいのは、もっと“映える”女性だ」
周囲の貴族たちが、くすくすと笑う。
私はため息をついた。
「……確認しますが、婚約誓約書、読まれました?」
「もちろんだとも。形式的なものだろう?」
その瞬間、大広間の床に魔法陣が浮かび上がった。
青白い光、古代文字、そして軽快な効果音。
《ピロン♪ 条件達成トリガー起動》
「な、何だこれは!?」
私はスカートの裾をつまみ、一礼した。
「我が家は代々、誓約魔術の専門家ですの。特に“婚約破棄”には――厳密な条件を設けております」
宙に浮かぶ水晶板に、大きな文字が表示される。
【契約条項 第三項】
正当な理由なき婚約破棄を行った場合、
当該当事者は“次世代継承機能”を永久停止処分とする。
「え?」
「俗語で言いますと――
婚約破棄の条件はチン切りです」
あくまで魔法的に・非接触で・きれいに。
「ま、待て! 聞いてない!!」
《再生しますか? 説明動画『魔導ナッツクラッカー講座』》
どこからともなく再生される、陽気な解説映像。
木製の人形がカチカチと踊りながら、
『誓いを破ると〜♪ 未来は閉店ガラガラ〜♪』
「止めろォォ!!」
そして光が一瞬、ふわっと瞬いた。
――何も血は出ない。
ただ、相手の【チン切り】をもって、そういう運命が完全に終了したというのだ。
「……あ、あれ?」
「ご安心ください。命に別状はありません。ただし、王位継承権・色欲スキル・浮気フラグは全ロストです」
大広間は静まり返った。
私は優雅に背を向ける。
「誓いとは、軽く破っていいものではありませんのよ」
その日以来、王都ではこう囁かれている。
『あの令嬢と婚約する前に、契約書は命(といろんな意味で)大事だと』
――今日もまた、世界は少しだけ平等になった。
猫のタマは好きです。
浮気男のタマは汚物です。




