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4部 21〜24

21話 夜風に吹かれ、伝える想い


奏梁(そうりゃ)さんと彗羅(すいら)さんに教えてもらった通り廊下を進んだ。そこには今まであった扉より少しだけ大きな扉の部屋があった。2人の話だとここが九蘭君のお気に入りの部屋らしい。かなり急いで来ていたので息の上がっていた私は深呼吸をして息を整えてから、扉を強く押して開いた。

「九蘭君?」

部屋の中は特に何もなく、正面に見える窓から吹き込む夜風に吹かれる九蘭君の姿があった。特別なものがあるだとか、家具が落ち着くだとか、どんな部屋だろうと予想したが外れてしまった。この部屋は1つの事に悩むことのできる部屋、彼にとって何かに悩むときに逃げ道があることは良くないことなんだろう。

「……!ざらめ、もう大丈夫なのか?」

「うん、大丈夫」

私の声に気づいてすぐに駆け寄ってそう言った。大丈夫だと言ったのに彼の心配そうな顔は直らない。

「謝っても許せないよね、こんな事」

「ううん、本当に大丈夫。守ってくれたんでしょ?お母さんから」

あのとき書斎で感じたものを言葉にした。彼の母親が何かを話すたび空気とか他にも色々変わっていたこと、彼自身が話していた母親の力のことをまとめてそう結論付けた。

「そうだけど、ざらめが!」

「私はいいの、気にしてないから」

「どうして?」

そうだよね。私は確かに痛かった、普通ならもっと彼を責めたり、怒ったりする権利がある。けど、私は違う。この国に来た理由も、彼と話している理由も。全ては……

「私ね、知りたいの。九蘭君の事」

「それって、どういう…」

こんな言葉で伝わると思っていた私が恥ずかしい。熱くなり赤くなる頬を一緒に誤魔化してくれるかのように強い風が一陣吹き込んだ。私はこの風に背中を押してもらった。

「好きな人を知るための痛みなら、私、大丈夫だから」

私達の間を風と時間が流れていく、彼は一瞬驚いた表情を見せつつも言葉を受け止めた様子だった。優しい風が通りすぎた後、九蘭君はそっと口を開いた。

「きっと、もっと痛かったり、怖かったりすると思う。それでもまだ俺を知りたい?」

「知りたい、どんな酷い目にあったとしても、絶対逃げない」

覚悟、彼の家族と会話して学校以外での彼を知っていった。惹かれた、新たに霧がかった部分が増えていった。この霧を払うことが彼の側に居るために必要な事だと思った。もう普通には戻れない。人生の歯車が分かりやすく大きく動いた。


22話 思い出の中の探し人


場の2人が何も発さない時間が続くと告白がこんなにも怖い時間に化けることを今知った。同時に、自分のした告白を思い返し徐々に恥ずかしくなってくることにも気づいてしまった。

「分かった、教えるよ。俺の事」

九蘭君は私の目を見てそう言った。私は何も発さず一度だけ頷いた。どんな内容を教えてもらえるのか、胸が高鳴った。

「俺、人を探すために日本にいたんだ。すごく小さな頃、4歳くらいのときに一度遊んだきりの女の子を探すために」

言われて初めて疑問を持った。なぜ日本にいたのだろうかと。どうして私は気づけなかったのだろうかと。九蘭君の場に溶け込む力がそんな疑問を持たせなかったのだろう。

「6歳のとき、この国を出て探しに行く前々日にふと靄がかって思い出したんだ、その時の記憶を。どこの誰なのか当時の俺には全然分からなかった。だから相談したんだ、父さんに、赤坂颯汰に」

颯汰さん、ここで登場するのか。複雑な話には1人はいる共通の人物、それが私の家族と九蘭君との間では颯汰さんだったということだ。

「相談したら父さんにこう言われたよ、日本で甘党家族を探せって。その家族の父親が俺の父さんのクラスメイトだって。俺の知りたかったこととその家族がどう関係するかよく分からなかった。」

同じような内容を前に聞いたことがある。明らかに聞き覚えのある内容のはずなのにうまく思い出せない。甘党家族という言葉もいつしか両親から聞いた。穴の空いたジグソーパズルが埋まっていく感じかした。

「それから俺は親代わりの親戚と一緒に日本に人探しの旅に出た。甘党家族を見つけること自体にそんな時間はかからなかった。ただ、問題だったのは距離の詰めかただった。初対面の可能性がある両親側相手にいきなり出ていって話ができる確率はほぼ皆無に等しい。だから俺は考えた、子供側と距離を詰めていくことを、なるだけ自然な形で」

そんなに昔に私は家族ごと見つかっていたことに驚いた。恐怖するべきかもしれないが九蘭君の力の1つと捉えれば私は受け入れることができる。

「九蘭君、もしかして私の通った学校も分かってたの?」

「いや、それは全然分からなかった。何ならちゃんと予想したの高校だけだし」

「そうだったんだ…」

私は何も知らなかった。もっと近くで知らないといけない、そんな気持ちが加速していた。この想いの原点は自覚せざるを得ないほど膨れ上がった九蘭君への好意だった。

「それで、探してた女の子は見つかったの?」

なんて、親から聞いて全部知っているのに訊いてしまった。今の私はとても悪い魔女だろう。自分でも思う、とても卑怯だ。

「俺が探してた女の子は君なんだ。」

「知ってたよ、なんとなく」

「そうか、まぁそうだろうな」

そう言って彼は恥の感情を隠すかのように静かに笑った。それから2人でしばらく笑っていた。月の光の揺れる静かな部屋の中で。


23話 晴れていく、双方の記憶の靄


九蘭君は記憶にかかった靄を消すために私を探していた。

かなり小さな頃から、探す決心を固めていたようで彼にとって靄のかかっていた記憶が重要だったことが伺える。しかし、靄のかかった記憶だ。考えれば考えるほど分からなくなって、きっと苦しかっただろう。

「大変だったよね。私にたどり着くまで」

「あぁ、話した通り俺の事を覚えているかすら分からない家族を相手に小さな俺が直接話に行ったとして、まともに聞いてもらえるかなんて一目瞭然だった」

こうして不安が勝った彼は、ゆっくりと時間をかけて私との距離を詰めていくことにしたのだ。しかし、そうだとしてもどこかで私とすれ違うことくらいあってもいいものだと、私は1つ疑問を持った。

「九蘭君、私と出会うまでに準備した人とか物とかってあったりするの?」

「何でそんなことを訊くの?」

「初めて出会ったあの日、私達2人が共通して知っていた人を思い出したの」

だとしても、あの日私に教える必要はあったのだろうか、いつか今と同じように疑問を持つためにわざとボロを出していたというのは考えすぎだろうか。

「翔のことかな、知ってるって言ったの覚えてたんだ」

「まさかとは思うけど、青未先輩の行動も指示してたとか無いよね」

「大丈夫、翔がざらめにしたことは全部翔の意思さ」

その一言を聞いて安心した。恐ろしく多才な彼のことだから誰かの人生に影響を与えることは安易だろう。だから私も、と勘繰ってしまう。気が抜けないからこそ九蘭君を観察する理由になる。これが彼のいいところでもある。私は彼が好きでそして羨ましい。個性豊かなお姉さんや、妹ちゃん達がいて、色々な才能がある。私に無いものが彼を輝かせる、視線が彼に向いて動く理由としては充分だろう。


24話 重なる想い、2人で夜へと


彼の今までを聞いた、私は彼がもっと好きになった。また1歩知ることができた。話したことで見えてきたそれまでとは違った一面も怖いと思うことさえなかった。彼の知識、痛み、彼自身が込められているから受け入れることができるのだ。

「少しくらい怖くなった?」

「全然。痛くも痒くもない。ただ、大変な思いさせたなって」

「ざらめは何も気にしなくていいよ。俺が見切り発車だっただけだからさ」

どちらも謝る必要なんてない。今回の出来事は私はそう結論付けることにする。彼の瞳は謝罪の念で揺れていた。私にはその目が今までで一番寂しく映った。

「俺の目、何か変かな?」

「いいえっ!いい目、綺麗な目だと思う…」

無意識に目を見てしまっていたらしい。咄嗟に口から飛び出た言葉に両者頬染め顔を反らした。好きだと軽く言葉が出てくるものの、すぐ赤くなってダメだ。

「返事しないとって、思ってたんだ…」

「はい…」

一瞬ここで?!と、彼の正気を疑ってしまったが、覚悟を決めて向き直る。進むんだ、次に。

「俺もざらめが好き。傷つけて確信した、ざらめが傷つくのが怖いこと、俺の手でざらめが守りたいこと」

「気づいてくれて、ありがとう…」

涙が頬を伝った。嬉し涙というやつだろう。面と向かって好意を伝えられた恥ずかしさもある。しばらく気づいていないふりをした。しかし、止まらなくなり言葉が溢れた。

「ごめん、泣いちゃった…」

「大丈夫?」

彼の指が頬に触れ、涙を拭われる。関係の進歩を感じ胸が熱くなる。嬉しくなり再び涙が溢れだす。やがて、目が合い彼に告げられる。

「俺の、恋人になってくれますか?」

「もちろん!」

涙を拭われながら、明るくそう答えた。窓から吹き込む夜風が背中を押し、私たちは今、恋人同士になった。私の目から涙が止まるまで、初々しいこの時間は続くようだ。

端末の機種変更により1話分少なくなっていますが、きりがよいので投稿させていただきます。

報告が遅くなりましたが、pixivにててしごとや様にイラストを描いて頂きました。是非確認頂ければと思います。評価がよければシリーズ化も検討したいと思っていますので、よろしくお願いします。

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