ep.7 失った記憶
序章
「俺のことを知っているようだな。あんたがおじいちゃんで間違いないようだな。」
「孫以外からのおじいちゃん呼びは恥ずかしいのう。前のように名前で呼んでくれんか。」
どうやら少女と老人は家族らしい。目の前の白髭を伸ばした顔からは似ているのかどうか判別できない。
さっきの雰囲気は何だったのだろうか。深い夜のような冷たさだった。
とりあえず名前を聞いてみる。
「呼び方にこだわりはないからな。名前を教えてもらってもいいか?」
「カミラじゃよ。カーススの里長じゃ。」
老人はカミラというらしい。里の人の話によれば彼がこの里の長だという。
「早速だが聞きたいことがあるんだが…」
「ちょっとおじいちゃん!今は自己紹介なんてどうでもいいの!ワクウスの記憶がなくなってるんだけど!どういうこと!」
少女に話を遮られたが意外にも内容は俺と同じだった。実際のところ洞窟で目覚めてからというものそれ以前の記憶がない。名前すら覚えていなった。何かあったことは明白だ。
「カミラ、俺もそのことが知りたかった。俺は誰なんだ。」
カミラは特に迷いもなくゆっくりと口を開いた。
「やはり記憶がなくなっておったか。わしを覚えとらんからおかしいと思ったわ。
しかしどこから説明したものか。長くなるがよいか?」
「もちろんだ。頼む、俺のことを教えてほしい。」
カミラからの話で確定したことは三つ。
まず第一に、俺はワクウスで間違いない。この里で生まれ育った。
第二に、俺は何らかの事故で瀕死の重傷を負った。生死を彷徨いリピ主導で里の秘術で治療した。
第三に、秘術の弊害で記憶障害になったり髪色が変わったりしていること。
まさか自分が死にかけていたとは、記憶がないことは不幸中の幸いだったのだろうか。