ep.5 戸惑い
序章
長いこと少女について走った。
洞窟の暗さはなかなかに退屈だったが、いざ極彩色の世界でも慣れれば大差ない。
視界の右斜め上を走る少女のちらつく顔はいたって真剣そうだが、
対照的に俺はおじいちゃんと話すこと以外頭になかった。
「そろそろ着くよ。」
そろそろ着くという言葉と同時に視界が開けてきた。
たくさんのものが見えた。たくさんの人が見えた。
薄鈍色の建物に収穫したばかりであろう果物や野菜のようなもの。大きく積まれた木材の山。
大きな荷台を手で引く人、道端で談笑する人。
そこには確かに人々の営みがあった。
「みんなー、ただいま!!」
少女の元気な声が聞こえる。
「おおーリピ。おかえり」
少女は集落の人から出迎えを受けていた。
「おじいちゃんは今どこにいるの?聞きたいことがあるんだけど...」
「里長なら今は祈禱所にいるよ。今日は早めに祈るんだとさ。」
「祈祷所ね。ありがとー。」
「ちなみに後ろの男は誰だい。ワクウスに似ているようだけど。」
老齢の女が俺を一瞥する。
何か不思議なことでもあるのだろうか。首をかしげながら少女に確認している。
少女は俺のことをワクウスだと言っていた。しかし、目の前の女はワクウスに似ていると言った。
おかしい。俺がワクウスだとするなら、なぜ女は似ているなどと言うのか。
「よく見て!ちゃんとワクウスでしょ!もうおばさんったらしっかりしてよ!」
「んー。たしかによく見たらワクウスじゃないか!でもその髪の色はどうしたんだい?」
髪の色?そこに違和感があるのだろうか。俺自身は全く何色かも把握していないが。
「もういいでしょ!おじちゃんのところに急いでるの!またあとでにして!」
「わかったわよ、引き留めて悪かったね。」
「じゃあまたあとで!」
祈禱所とやらに行くのだろうか。
集落の人々と別れ、また少女は歩き出した。