人類の選択
宇宙の銀河の片隅に浮かぶ星々
太陽を中心とした太陽系の惑星テラ
テラにエイル(神)が降り立とうとしていた
テラの人類の物語の始まり
人間は、神の姿に似せて創られたと言われる
エイルは人間の数倍もある大きさをして、背中には翼があった
宇宙の遠い星からテラへと訪れた宇宙人
エイルは自分の遺伝子とテラに生まれた原人を混ぜ合わせて、人の子を誕生させた
エイルは、テラに人間と時間をもたらした、後に神と呼ばれしもの
アルの、連合の宇宙難民救助の任務は長く続いた
宇宙の主な星は、殆ど訪れた
ライラ星から旅立った鉱石船が辿り着いた星にも行った
元ライラ星人の知り合いの子孫だという人にも会うことがあった
カークトゥで存在するアルと、肉体を持つ彼らの寿命は違い、ライラ星にいた人々はほぼ亡くなっていた
過酷な状況や戦争により、病気などで短命なライラ星人が多かった
移り住んだ星から、また別の星へと移り広がり、どの星人もライラ星人と何らかの繋がりがあるようだった
自分だけが別の道を歩んで来たと、アルは複雑な気持ちになった
それでも、今救助している人々がライラ星から逃げ延びた仲間の残した成果だという思いも同時にあり、アルは任務に励んだ
連合でのアルのキャリアも功績も認められてきて、連合のクルーもアルに一目置くようになっていた
連合の艦船で過ごすことが増えて、カークトゥには時々戻るくらいだった
移動は連合の宇宙船ばかりだったので、DPに会うことも少なくなった
そのかわりに、連合のたくさんの仲間たちと親しくなり、任務で忙しくしていたので寂しくはなかった
「テラの特別任務の計画があるらしい」
艦船でのランチ休憩の時に、情報通のスーザンが教えてくれた
「あー、かなり長期滞在の任務だって聞いた」
黒髪のリンユーが相槌を打つ
「え、何それ?初めて聞いた」
人型の格好をしたアルが、のんびり言う
任務で訪れる星はカークトゥよりも次元が低いところが多いので、アルも普段は実体化して過ごしていた
ライラ星のアーリンの髪色をブラウンにしただけの連合の宇宙制服姿だ
「ここ最近のアカシックレコードに加わったテラの未来に問題が生じたって話」
「問題って?消滅するの?」
「んー、それだけじゃないらしいね
そもそも予言に関わる星だから」
「一筋縄ではいかない任務ってことか」
私はパス、とスーザン
リンユーも、私も今抱えてる任務で手一杯だわ、と肩をすくめる
「え、興味深い…」
アルが呟くと、アルなら行けるんじゃない?とスーザンが笑う
アルがけっこう本気で言っているとは思ってないようだ
「ターガに聞いてみたら?」
と、リンユーは答えてくれた
アルは任務の報告がてら、ターガのところへ行き、テラの特別任務の件について聞いてみた
「話が早いですね、私から頃合いを見て話そうと思っていたのですが」
すっかり馴染みになったターガは、アルのことをよく理解してくれていた
「きっと、参加したいと仰ると思っていました」
ちょうど難民救助の任務がひと段落したところですし、とターガが切り出す
「ナビル星人がテラで人類を誕生させて、文明が生まれたことはご存知ですね?」
「知識としては知っています」
「その後、他にも別の星人がテラの人類と関わり、テラの主権を巡っていざこざが起きていることは?」
「連合の情報として聞いた範囲で知ってます」
「今、テラではヴォーグ星人が多数派で、次いでベネグ星人が台頭して増えてきています」
ヴォーグ星人とベネグ星人が、テラで勢力争いをしている話は、宇宙連合にも伝わってきていた
連合としては元々住みついていたヴォーグ星人を支援する意向だ
ベネグ星人は悪の勢力と結託して、テラを乗っ取る強行手段に出ていて、今にも戦争が起こりそうな事態である
「特別任務というのは、テラへ行きヴォーグ星人と協力して、次元上昇を成功させて、ベネグ星人を撤退させる計画です」
「次元上昇……それは、重大な任務ですね…」
次元上昇は宇宙全体への影響を及ぼす星単位で起きる進化の大きな現象であり、宇宙の未来を左右する出来事だ
アルは少し考え込んだ
自分にできるだろうか
しかし、いつまでも救助や調査の任務ばかりでは宇宙の平和へと直接貢献できない
「私、テラへ行きます」
そう言うと思いました、とターガがニッコリした
長期滞在の任務になるため、特別任務に参加するクルーには準備期間として休暇が与えられた
テラに移住して、帰りはいつになるかわからない無期限の任務になる
アルも久しぶりにカークトゥへと戻った
アルが帰ってきた、とカークサスの皆は喜んで迎えてくれた
ちょうど、天使もいて話は盛り上がった
[テラの次元上昇ですか、それはたいへんな任務ですね]
[テラは今、宇宙の要注意星域に指定されていますからね]
(何事も大いなる宇宙の意思のままに、力の限りを尽くすこと)
(我らのアルを誇りに思うておる)
(アルのように我らも己を律してカークトゥも次元上昇するよう努めようぞ)
いつまでも話は終わらず、旅立つギリギリまでアルはカークトゥで過ごした
最後の出発は、DPが連合まで送ってくれた
“テラには、縁があるみたいだな”
DPの背中に乗ることも、しばらくは無いと思うと、ずっとこうして宇宙を飛んでいたいとアルは感傷的な気持ちになった
“助けが必要な時はいつでも呼べ、すぐに飛んでいく”
艦船に着いても、DPはいつまでもアルのことを見送ってくれていた