第九話 治療
ヒイロは溜池へと向かって走り出す。
道は一本道だったので、迷う事もない。
ゴブリンたちもナヴァが排除した後なので、警戒する必要さえ無かった。
「ハァ、ハァハァ……」
溜池まで戻ってきたヒイロは、汗を拭いながらヒエラギの花を探す。
花の色や形状など全く分からなかったが、奇しくも咲いている花は一種類だけだった。
一輪の花がそこには咲いていた。
「これが、ヒエラギの花か?」
その花は紅い花弁が綺麗に開き、中の黄色い雄しべと雌しべが綺麗に並んだ、人の目を引く不思議な花だった。
「どうしてここを通った時には、気づかなかったんだ……?」
そう思わせるほど綺麗な花を前に、ヒイロはそれが目的のヒエラギの花であると確信する、
ヒイロは丁寧にその花を摘み、セーラの元へと急いだ。
ゴブリンが産まれていない事を祈って……。
──────────
広場へと戻ると、衝撃の光景が目に入る。
ナヴァが左足でセーラの首を踏み、それをどかそうと彼女は必死で抵抗していた。
「何やってんだ、お前ェ!」
そう言って、ヒイロは駆け出し体当たりするものの、背の高いナヴァとの体格差から、ただただ胸に飛び込む形となってしまった。
「むぐっ! ぅ、ん……」
「んっ♡」
「あっ! ゴ、ゴゴ、ゴメン!」
ヒイロは恥ずかしがる様に後ろを向き、背中を丸めて股間を抑える。
何回やんだよ、このくだり……。
「あっ──」
ヒイロは自分が怒っていた事を思い出し、ナヴァへ今一度怒りを向ける。
「早くその足どけろよ。何のマネだ、一体!」
「母体を疲弊させ、エネルギーの吸収を遅らせる事で、ゴブリンが受胎するまでの時間を稼いでいるのです」
「それより、何か良い案でも浮かんだのですか? 突然どこかへ走っていかれましたが……」
ナヴァはセーラから足を離して、ヒイロの動向を尋ねた。
「あぁ──」
ヒイロは花の事を思い出し、ニッと笑みを浮かべる。
そして、ズボンのポケットから花を取り出し、ナヴァへと渡した。
「溜池の所に咲いてたんだ。どうだ、コレはヒエラギの花か?」
「…………」
ナヴァは花を受け取り、今一度ヒイロへと視線を戻す。
その表情は眉尻が下がり、悲しんでいる様に見えた。
「!?」
そんなナヴァの表情を見て、ヒイロは脱力し、目に涙を浮かべる。
「フッ……」
しかし今度は優しい笑みを、まるで「お疲れ様」と労うかの様にヒイロへと向けるナヴァ。
「!!」
そんな彼女の笑顔に、救われた様にヒイロはパッと顔を明るくさせる。
「ムゥっ!」
すると今度は、ナヴァが頬を膨らませ、花を持った手を腰に当てながら、怒った様にヒイロを睨み付けた。
「……何なんだよ、コレはぁ!」
遊ばれている事に気づいたヒイロが、いつもの様に声を張り上げる。
そんな二人のやり取りに、ナヴァは勿論、セーラまでもが思わずフフッと笑ってしまう。
「大丈夫ですよ、旦那様。コレは間違いなくヒエラギの花です。さっそく治療に移るとしましょう」
そう言うと、ナヴァは手に持つヒエラギの花を盾に置き、剣の柄の部分を使って擦り潰し始めた。
背の高いナヴァが、片膝をつきながら花を擦り潰している為、彼女の谷間が露わとなる。
そして、ナヴァがこちらを見ていない事を確認し、ヒイロは目に焼き付ける様に彼女のおっぱいをガン見していた。
「旦那様?」
「は、はいっ!」
相手はゴブリン。
モンスターなだけあって、自分の視線に気付かれたかもしれないと、焦り、硬くなるヒイロ(主に下半身が)。
「出来ました。コレに旦那様の唾液を混ぜて、セーラ様の膣内に塗ってあげて下さい」
「なっ!?」
ナヴァのその発言を受け、ヒイロは目を見開かせて驚くが、セーラには全くその様子はない。
頬を紅く染め、そっぽを向いているだけだった。
「な、なんでオレがそんな事を……」
「ていうか、何でお前は黙ってんだよ。コイツの言ってる事、おかしいだろ!?」
「だって、私はさっき他の子にやるとこ見てたもん! そりゃ、私だって同じ方法になるでしょ……」
最後の方は恥ずかしいのか、ゴニョゴニョと小さな声で喋っていた為、ヒイロの耳には入らなかった。
「(しかし、ここにきてヒエラギの花をセーラの膣内に塗るなんて……)」
「ほとんど前戯じゃないか!」と、ヒイロは心の中で叫ぶ。
「でも、別にオレじゃなくてもいいんじゃないか? 他の子にはお前がやったんだろ? だったら同じ様に──」
何とかセーラへの前戯は避けたいと、頭をポリポリと掻きながら、ナヴァへ助けを求める。
「別に私がやっても構わないのですが……。旦那様はそれで良いのですか? 一応、私もゴブリンなのですが……」
ナヴァのその言葉を受け、ヒイロは先ほどまでの考えを改める。
ナヴァの事が信用出来ないわけではない。
嫌いなわけでもない。
ただ、セーラの体に、セーラの中にゴブリンをもう入れたくないと、そう思ってしまったのだった。
「……オレがやる」
「ちょ、ちょっと! アンタ、本気で言ってんの!?」
頬を赤らめ抗議しながらも、しかし満更でも無さそうに、ヒイロから奪い取ったスウェットの上着を少しだけ捲し上げるセーラ。
「オレが、ヤる!!」
ヒイロは目を爛々と輝かせ、右手を舌で濡らしてヒエラギの花を、すり潰した粉末を手に取る。
そして、セーラの吐息が感じられるほど近くに寄り、優しく肩を抱いて股へと手を這わせていく。
「いくぞ……?」
「……うん」
そうして、ヒイロの右手中指と薬指がセーラの膣へと入っていく。
「んっ♡」
膣内へとヒイロの侵入を許したセーラの身体は、ビクンッと跳ねて甘い吐息を漏らした。
ヒイロの腕をすがる様に掴み、「クチュ、クチュ」とエッチな音を立てている。
セーラの乱れる姿を見て、ヒイロは思わず生唾を飲み込む。
「ごっくん──」
「あっ、あっ♡ はっ、んっ♡」
耐える様に、抑える様に口元を手で隠し喘ぐセーラに、ヒイロは欲情し股間は爆発寸前だった。
いや、ちょっとだけ暴発していた。
所謂ガマン汁である。
いぢらしく感じるセーラに嗜虐心を覚え、ヒイロは中指と薬指とをかき混ぜる様に動かし始める。
「あっ♡ ダメ、そこはらめぇぇ♡」
セーラが抱きつく様にヒイロの腕の中へと飛び込んで来た。
もう限界だった。
女と付き合うどころか、会話すらマトモにした事のないヒイロには刺激が強すぎた。
ヒイロは逝った──。
いや、違う。
イッた、射精た。
十個も歳が離れた少女に体を預ける様にして、ヒイロはまたも気絶したのだった。