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第八話 ヒエラギの花

 ヒイロが目覚めて最初に目にしたのは、ナヴァのおっぱいだった。

「お目覚めですか、旦那様」

「ママ?」



──────────



 もう少しだけ膝枕してもらいたいという気持ちを抑え、ナヴァの膝から頭を上げて辺りを見渡す。

 そこにゴブリンたちはおらず、痕跡すら跡形もなく消えていた。

「彼らゴブリンは私が殺し、焼却しました。生かし、縛っておいた方が良かったでしょうか?」

「いや……」

「(あの爺さんから頼まれていたのはゴブリン退治。殺してしまっても問題ないだろう……)」

 そう考え、ヒイロは何も言わなかった。

「セーラは? アイツは無事か?」

 キョロキョロと辺りを見回し、遠くで一人ポツンと、体を丸める様にして座っているセーラを見つける。

「セーラ!」

 ヒイロは、傷つき疲労困憊の体を引きづりながらセーラの方へと駆け寄って行く。

 俯き、顔は見えないが、どうやらセーラは泣いてる様だった。

「セーラ、大丈夫か?」

「触んないで!」

 セーラの肩に触れようと手を伸ばすも、森で抱えようとした時と同様、手を跳ね除けられてしまう。

「セーラ……」

「アンタも見てたんでしょ。私がアイツに犯されるとこ……」

「私はもうけがれちゃったの。……ホント、最悪。初めては、好きな人とするって、そう決めてたのに……」

「……もう死にたい」

 セーラは自分の腕を強く掴み、悲痛な思いをヒイロへ告げる。

 あの光景は、ヒイロにとっても思い出したくないものだった。

 だからこそ怒りに震え、涙を流しながらも立ち向かったのだが、結果はコレだ。

 時を戻して、無かったことに出来ればどれだけ良いか……。

 そんな二人へ追い打ちをかける様に、ヒイロを追ってきたナヴァが忠告する。

「旦那様、早くしないと手遅れになります」

「……どういう意味だ?」

 ナヴァの言っている言葉の意味が分からず、ヒイロは説明を求め、先を促す。

 すると、ナヴァは他の女たちへと視線を向け、ゴブリンの生態について説明し始めた。

「ゴブリンは人間の体、といっても女性に限りますが──」

「その体に卵を植え付け、寄生するのです。そして、エネルギーを奪って腹から出てくる」

「ここには何か結界でも張っているのでしょう……。寄生から出生までの時間が圧倒的に早い──」

「だから、何だっていうんだよ」

 ヒイロは、ナヴァが告げようとしている最悪の未来を想像し、それを打ち消す様にかぶりを振る。

「向こうにいる彼女たちには、私が持っていたヒエラギの花を使い、腹の中にある卵を破壊しました。ですが、セーラ様の中にはまだ残っているはず……」

「だ、だったら同じ様にセーラにも──」

「もう、ありません……」

 その一言でヒイロは顔面蒼白となり、一瞬思考までもが止まって言葉を失ってしまう。

「(どういう事だ? それじゃあ、このままだとセーラの腹からゴブリンが産まれるって事か? そんなの──)」

 ヒイロは自分の感情を抑える事が出来ず、ナヴァへ抗議する様に声を張り上げた。

「なんで、なんで先にセーラに使わないんだよっ! 他のヤツなんか後回しにしてでも、まずはセーラを助けるべきだろ!」

「他のヤツな《・》ん《・》か《・》、ですか?」

「!!」

 ヒイロは自身の言葉のその自己中心的な発言に気づかされ、後悔すると共に唇を噛み締めた。

「もういいよ……。産めばそれで終わるんでしょ」

 二人の口論を遮る様に、セーラの口から諦めの言葉が飛び出す。

「まさか育てるのですか?」

「テメェ!」

 ナヴァの無神経な発言に腹を立て、襟首を掴もうとするヒイロ。

 しかし、彼女が着ているのは所謂いわゆる

ビキニアーマーであった為、首紐を引っ張ったその反動でナヴァの乳首が露出してしまう。

「んっ♡」

「あぁぁ!! ご、ごご、ごめん……」

 すぐに手を離し、背を向けるヒイロ。

 えっち。

「いえ////。旦那様ならいつでも歓迎なのですが、流石にセーラ様に見られながらというのは──」

「な、何言ってんだお前!」

 ヒイロは、背を向けたまま地団駄を踏んで、最大限の抗議をする。

 その表情こそよく分からなかったが、耳を真っ赤にしている事だけは手に取るように分かった。

「セーラ様。もし仮にゴブリンを産んだとして、貴方はそのゴブリンを殺せますか?」

「!!」

 セーラにはナヴァの言っている言葉の意味が理解出来た。

 先ほどナヴァがゴブリンたちを殺して回っている時、女たちが「殺さないでっ!」「どうか、ウチの子だけは!」と泣き叫んでいたのを見ていたからだ。

 対して、気絶したまま眠っていたヒイロにはその質問の意図が理解出来なかった。

「そんなの当たり前だろ! 望んで出来た子どもじゃないんだぞ!」

「いいえ、旦那様。たとえ望んでいなくとも、生まれてきた子が醜くとも、自分の子どもは可愛いものです。それが、母になるという事なのです」

 その言葉を聞いて、セーラは俯き、静かに涙を流す。

 自分の腹から生まれてきたゴブリンを殺せるか──。

 その光景を想像してみたが、出来なかった。

 犯された挙句、産んだ子どもまで殺されてしまえば、その喪失感から立ち直れない。

 そう悟ったのだった。

「でも……。それじゃあ、どうしろって言うんだよ!」

「ヒエラギの花は陽の当たる場所には生えず、周りに水がある場所でないと花を咲かせません。なので、探すのがとても困難なのです」

「くそっ! そんなの……」

 ヒイロは親指の爪を噛み、言い出しそうになった言葉を飲み込む。

「(何か良い方法はないか? セーラを助ける何か、別の方法でも何でもいい……)」

 そう思案するも、ゴブリンがいつ産まれてくるか分からないという状況が焦りを生み、思考を妨げていた。

「(陽の光が当たらず水気のある場所なんて、そうそう見つかんねぇよ。仮にあったとしても、取りに行く時間あんのかって話だろ……)」

 疲れや怪我があるのに加えて、答えが出ない焦燥感から、今度は喉の渇きを覚えるヒイロ。

「(チッ……。こんな事なら、あそこの溜池で──)」

「っ、それだ!」

 ヒイロは、ついさっきまで感じていた喉の渇きや疲労感など忘れ、溜池目掛けて走り出す。

 その足取りは軽く、先ほどまでの悲壮感は消え、その顔には笑みがこぼれていた。

「待ってろ、セーラ。必ずオレが助けてやるからな!」

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