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第七話 ゴブリン

「はあぁぁぁ!!」

 グィグ・ナヴァと名乗ったゴブリンの騎士は盾を構えて突進し、ゴブリンロードが体勢を崩した所へかさず鋭い斬撃を浴びせる。

「ぐうぅぅ!」

 しかしゴブリンロードはその一撃を、腕を交差させ防いでいた。

「バカな……。こんな事があってたまるか。ゴブリンのメスなど見たこともないぞ!」

 腕に出来た傷を治癒能力で回復させながら、得体の知れないメスゴブリンを睨みつける。

 ナヴァは剣で盾を「カン、カンッ!」と叩いて、挑発する様に言葉を返す。

「発情しないでください。生憎あいにく、私は旦那様のモノ。貴方のモノになる事はありません。それどころか、その手で触れる事すら出来ませんよ?」

 ナヴァの安い挑発に、ゴブリンロードは敢えて乗っかる。

「ハッ、いいだろう! お前たちは手を出すな。コイツはワシが殺る。……いや、ヤるの間違いだったか」

 ニヤッと笑うゴブリンロードを、鼓舞する様にギャアギャアとわめき散らすゴブリンたち。

「同族であるお前を犯せば、より強いゴブリンを作れるに違いない。そうすれば軍を組織し、ワシが魔王になるのも夢ではないわ!」

 ゴブリンロードは高く飛び上がり、ナヴァの頭上から蹴りを入れる。

 それを盾で防ぎ、すかさず突きを繰り出すも、足先を掠めるだけで致命傷を与える事は出来なかった。

 しかしナヴァの攻防一体の構えに、ゴブリンロードが苦戦しているのも、また事実。

「チッ、鬱陶しい。しかし、所詮はメス。その大きな盾が無ければ何も出来まい」

 ゴブリンロードは近くに居たゴブリンの頭を掴み、それをナヴァへと投げつける。

 それを当然、盾で防ごうと試みるが──。

「ボンッ!」

 ゴブリンロードがそう発すると、投げつけられたゴブリンの頭は吹き飛び、その爆発で盾は弾かれ体勢を崩してしまう。

「くっ!」

 ナヴァは何とか立て直そうとするも、その一瞬の隙をつく様に、新たなゴブリンが視界に飛び込んでくる。

「(まずいッ!)」

「ボンッ!」

 ゴブリン爆弾を正面から受け、ナヴァは吹き飛ばされてしまう。

 辛うじて剣だけは手放さなかったものの、盾は爆発と同時に腕からすり抜けてしまい、一気に形勢が逆転する。

「どうだ、ワシの逞しい力は。濡れたか?」

 そう言って、ゴブリンロードは近くにいるゴブリンの頭を掴み、暴れるゴブリンの体を引きちぎった。

 「グギャアァァ!」という叫び声と共に、黄色い鮮血がゴブリンロードの手を染める。

 ナヴァはその光景を視界の端で捉えながら、剣を支えに立ち上がる。

「逞しい? ただ悪戯にゴブリンたちを爆発させ、殺す姿のどこが逞しいのですか」

 ゆっくりと立ち上がるナヴァの体には不思議と傷一つ付いていない。

 しかし、その目には明らかな殺意を宿らせていた。

「可哀想になぁ……。お前が立ち上がりさえしなければ、コイツらも死なずに済んだものを──」

「ふざけるな! 彼らは貴方に尽くしてきたはず! それを、どうしてこんな……」

 部下であり自分の子どもでもあるゴブリンたちをこんなにもあっさりと殺せてしまう、そんなゴブリンロードがナヴァには信じられなかった。

「フンッ。コイツらはワシの為に生き、ワシの為に死ぬのが役目。足りなくなれば、また作るまでよ」

「外道め……」

 そう言ってナヴァは、今度は剣のみで構えを取る。

「変わらんよ。お前もワシと同じ、ゴブリンなのだからなぁ!」

 ゴブリンロードが地面を蹴って、一気に距離を詰めてくる。

 盾を持たないナヴァはゴブリンロードの一撃をなんとか剣で対処するも、その後に次々と襲い来る連撃になす術なく防戦一方となってしまう。

「ハッ、いつまでそうやって受けきれるかなぁ!」

 素早い連撃を繰り出した後、先ほど引きちぎったゴブリンの頭を突如ナヴァへと押し付け、ゴブリンロードは瞬時に後ろへ引き下がる。

「しまっ──」

「ボンッ!!」

 爆煙が舞い、視界を遮る中、勝利を確信したゴブリンロードは瀕死のヒイロへ勝ち誇る様に腕を広げた。

「アーッハッハッハ! 残念だったなぁ。お前がどこからか呼び寄せたこのメスゴブリンも、ワシの手に掛かればこの通りよ。惜しむらくは、あの雌の×××を試せなかった事だが……」

 ヒイロは頭を抑えながら立ち上がり、再びゴブクラを構えてみせる。

 満身創痍でありながら、その目には未だ闘志が宿っていた。

「ほう、まだ戦う気か? しかし、お前に何ができる。はなからお前なぞ、相手にしてないというの、にっ!?」

「ガハァァ……!!」

 突如、ゴブリンロードの胸から飛び出す様にナヴァの直剣が姿を現した。

 そして、ゴブリンロードの背後からナヴァが顔を出し、退屈そうに問いかける。

「楽しめましたか?」

「き、貴様ァ……。何故……」

 対してゴブリンロードは、目を見開き、亡霊でも見ているかの様に驚いていた。

「貴方は旦那様に『端から相手にしていない』、そう言いましたね。それと同じ事ですよ。貴方など私の相手ではありません」

「最初に言ったはずですよ? 触れる事すら出来ない、と」

 ナヴァの挑発じみた発言を受け、ゴブリンロードは自身を貫く剣を折ろうと試みる。

 ──が、剣は一瞬にして引き抜かれ、真一文字の線を描いてその首を刎ね落とした。

「ですが、まるで接戦しているかの様に手を抜いてしまった事──」

「それについては、少し性格が悪かったなと反省しております」

 黄色い血がシャワーの様に吹き出し、ナヴァの体を染め上げていく。

 首を無くした胴体は、倒れる事なく硬直していた。

 まるで主人の帰りを待つ忠犬の様に──。



──────────



 ヒイロはというと、ナヴァがゴブリンロードの首を落とした時、その衝撃的な光景からか、はたまた体力の限界からか既に気を失っていた。

 そんなヒイロを入り口まで抱え、寝かせた後、ナヴァは額にキスをして起こさぬ様に剣を構える。

「さぁ、後片付けをしましょうか!」

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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