第五話 洞窟
洞窟の内部へと足を踏み入れると、不気味なほどに静かで、分かれ道なども無く、ひたすら一本道が続いていた。
それどころか、道中溜池の様なものがあっただけで、ゴブリンの姿すら一度も目にしていない。
「(本当にココが住処なのだろうか……)」
「(コイツ(ゴフクラ)も洞窟に入ってから騒がなくなったし、騙されてるんじゃないか?)」
そう思った矢先、奥から女の嬌声が聞こえてきた。
「イヤぁん♡ もっと、もっとしてぇ〜♡ もっと奥まで貫いてぇぇん♡」
声を辿って奥へと進むと、開けた場所が眼前に広がった。
そこでは数多の女がゴブリンにハメられ、次から次へと子供を産まされている。
辺り一体に精子の匂いが充満し、自分のモノで嗅ぎ慣れているはずのヒイロですら吐き気を催す程だった。
「うっ、何だよコレは……」
「ケヒャヒャヒャヒャヒャヒャ! ゴブリンにメスはいねぇからなぁ。こうやって女を犯して、強制的に子を孕ませる。お前ら人間の女はなぁ、ゴブリン製造機なんだよぉ!」
ゴブクラが高笑いしながら、セーラに向かって暴言を吐く。
それを黙らせるため、ヒイロはゴブクラを壁に叩きつけた。
「ぐふっ! テメェ……。痛ぇじゃねぇか、コノヤロー!」
目の前で繰り広げられる乱交と、強烈な悪臭に耐えきれず、セーラは踵を返し、来た道を戻る。
「あ、おい──」
「……大丈夫か、アイツ?」
セーラを心配しつつも、ここに来るまでは一本道で、ゴブリンの気配すらしなかったことから、ヒイロは追わずに静観する事にした。
それよりもこの状況をどうすべきか、その事で頭がいっぱいだった。
「もっと、もっと欲しいの。お×××様ぁ〜♡」
女たちが恍惚の表情で犯される姿をよそ目に、ヒイロは鼻を左腕で押さえ、辺りを見渡し状況を探る。
「ざっと見て、三十はいるな。……しかしボスはどこだ? どこかにコイツらの親玉が居るはず──」
「ココだよ」
「!?」
後ろを振り返ると同時に、強烈な衝撃が体を襲い、ヒイロは広場の方へと吹き飛ばされた。
音と衝撃でそれに気づいたゴブリン達が、一斉にこちらへと視線を向ける。
「グギャッ!?」
「ケケケ、クケャア!」
「んっ、んー! い、嫌ぁぁ!」
セーラの叫び声が聞こえる。
ヒイロは体勢を立て直し、声のする方向、自分たちが居た入り口の方へと視線を向けた。
そこにはニメートルをゆうに超えるゴブリンがセーラを抱え、乱暴に腰を打ちつけながら立っていた。
「あんっ♡ あんっ♡ んっ、気持、ちぃぃ♡」
「……フン。この女、受胎する為に必死でワシの×××を締め付けてきおるわ」
「見てみろ、こんなにも幸せそうな顔をしておるぞ。ハッハッハッハ!」
「テメェ!」
ヒイロは瞬時に入り口の方へと走り出すも、いつの間に近づいていたのか、ゴブリンたちに足を絡め取られ転かされてしまう。
「ぐっ。クソッ、離せっ!」
さらに転んだ拍子にゴブクラを落としてしまい、素手で対応する事を強いられてしまう。
ゴブリンたちは小さいとはいえ、何匹もが纏わりついてくるこの状況を、ヒイロは打破する事が出来ないでいた。
「〜っ♡ そこ、そこダメっ♡ イッちゃう、頭おかしくなっちゃう〜っ!!」
ゴブリンのボス×××にメロメロになってしまっているセーラは、手を首に回し仰反るように絶頂を迎える。
「イク、またイっちゃう♡ 逞しいオス×××にお×××の中かき混ぜられて、壊れちゃうぅ〜♡」
「フンッ、フンッ! 壊れろ、壊れろ。お前は今日からワシ専用の赤ちゃん製造機だ。オラっ!」
「〜っ☆!?」
ゴブリンが力強く腰を打ち付けると、セーラは電流が走ったように足を伸ばして痙攣する。
そして、だらしなくヨダレを垂らし、壊れた様に動かなくなったセーラを投げ捨て、ゴブリンロードはヒイロの方へと詰め寄ってくる。
「くっ!」
ゴブリンたちに抑えつけられ身動きの取れないヒイロを、ゴブリンロードは髪を掴んで軽々と持ち上げた。
「見たか、人間のオスよ。これが力だ。お前が連れてきた女はワシの×××の虜となり、今やお前の事など忘れてしまっておる。きっと夢の中でも、ワシの肉棒にヒィヒィ言わされておる事だろうな」
ゴブリンは、ニタニタと笑いながらヒイロの表情を窺い、観察している。
敵として認識すらしておらず、新しいオモチャを試す様、反応を見て楽しんでいるのだ。
「ちくしょう……」
ヒイロの頬を涙が伝う。
無力感、からではない。
元いた世界では最初から無理だと諦めていた。
でも、この世界に来てからは違う。
「きっと活躍できるはず」「世界はオレが救ってみせる」、そう思っていたのだ。
事実、どういうわけかゴブリンを棍棒に変えている。
それはヒイロに力がある事を証明していた。
少なくとも、ヒイロ自身はそう感じていた。
なのに、力があったのにも関わらず、助けることが出来なかった。
そのせいでセーラは、ゴブリンの手に、いや×××に堕ちた。
そんな状況に腹が立ち、情けなくてしょうがなかった。
「……るせぇ」
「何だ? 何か言ったか、負け犬?」
元来ヒイロは、責任感が強い方では無かった。
当然のことだ。
責任感が強ければ、親や家族に負担を強いらせるニートになんか、なるはずがない。
家に居てやる事といえば、アニメかゲーム。
だからこんなにもワガママで、幼稚で、自己中心的な、それでいて小心者なオタク君なのだ。
それでも、彼は選ばれた。
世界に。
いや、神にかな?
これは白洲緋色の遅すぎる成長を見守る、冒険活劇──
サモンニート。
「うるせぇ、つってんだよぉ!!」