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第一話 サモン

「来たれ、異界のダメ人間よ!」

 黒いローブを纏った集団が、地面に幾何学模様を描き、天へと向かって両手を広げ、何かを必死に叫んでいた。

 それにこたえる様に、空は暗くなり雲が連なっていかづちと共に何者かが姿を現した。

「ふわぁ〜あ……。何だ? 何が起こったんだ?」

 雷の衝撃で舞い上がった砂埃の中から出てきたのは、ボサボサの髪にスウェット姿で股間を掻きながら眠そうな顔をした青年、と呼ぶには少し似つかわしくない成年男性だった。



──────────



「つまり貴方は成人しても働かず、親のすねをかじりながらアニメやゲーム? なるものにうつつを抜かしていた大バカ野郎でございますか?」

「いや、そこまでは言ってねぇよぉ」

 ローブを纏った集団のリーダー格であろう年寄りの発言に腹を立てたのか、いかづちと共に現れた甲斐性の無さそうな男は、大声を張り上げて、しかし自分の声の大きさに驚いてヘラヘラとしている。

「何というほどのクズっぷり……。この世界でそんな者がおれば、親に売られて死を遂げるか、村の乱暴者にオモチャにされて死を遂げるか、とにかく死を遂げる以外の結末は無いというのに……」

「そんなに業が深い事かなぁ!? ニートってぇ!!」

「ニイト、それが君の名か……」

「いや、違うけれどもぉ!」

 ローブを纏った集団(以下、呼びづらいのでロブ集と略す)は彼の親不孝ぶりに恐れおののき、男はそれに対してギャーギャーと喚き立てている。

 私は嫌いです、こういう人。

「いや、良いのです。私たちは貴方のようなダメ人間をこそ召喚したかったのですから」

 ロブ集のリーダー格であろう年寄り(以下、ロブ爺)の言葉が理解出来ない様子で、男は小首を傾げる。

 しかし、頭を傾けたところで、視点を変えて見たところで、新しい気づきは得られなかったので再度首を戻した。

 あわれ、マジで憐れ。

「召喚……。ハッ、それはつまり異世界転生って事なのかぁ!?」

 違ぇよ、バーカ!

 お前、転生って意味いっぺん辞書引いて調べてこいよ、おい!

 ……おっほん。

 ロブ集は彼の言っている言葉の意味がわからず、キョトンとした表情でお互いの顔を見遣みやっている。

 それはそうだ、彼らは異世界転生という概念をそもそも知らないのだから。

「異世界転生……。そうです、その通りです。ニイトは飲み込みが早くて助かりますなぁ。ハッハッハッハ!」

 ロブ爺は話を合わせた。

 この男は所詮異世界から召喚したダメ人間、こちらの事情を説明し理解を得るよりも、話を合わせておだてた方が扱いやすい、そう判断しての事だった。

「そっかぁ、ついにオレも異世界転生かぁ……。する、する、とは聞いてたけど、まさかこんなに早いとはなぁ……」

 ニートは呪詛の様な何かをブツブツと呟きながら、虚空を見上げる。

 ロブ集を呪い殺すつもりなのだろうか?

 その目は暗くうつろで、口の端に泡を吹いている。

 ……蟹か?

 蟹だったのか、お前!?

「我々がニイトを召喚したのは、他でもない貴方に力を貸してほしいからなのです」

「だから、オレはニイトじゃねぇって!」

 まぁた大声。

 ニートが突然声を張り上げたせいで、ロブ集たちはビクンと肩を震わせ、恐がっている。

 やめなぁ?

 そうやってみんなの事怖がらせんの。

 そんなんだからシコっては『あ、やっぱ彼女とかいらねぇわ。ダルいし──』とか言っちゃう様なニートになるんだよ、お前。

「しかし、ニイトが名前でないとすると、何とお呼びすれば?」

 ロブ爺は困った様子で、無職童貞引きこもり子どもおじさんに尋ねる。

「オレは緋色ひいろ、白洲緋色。またの名をひとり紅白歌合戦。ちなみに緋色って名前はヒーローの様に活躍する様にって親が付けたんだ」

「……なれるかなぁ? オレはこの世界で、ヒーローに……」

 もう、泣いた。

 活躍してほしくてヒイロって名前を付けたのに、親の脛をかじって老後の二千万を食い潰すヴィランに育ったって事?

 何そのアンチヒーローっぷり、ジョーカーじゃん。

 全然笑えないけど、お前もうジョーカーじゃん!

「なれますとも、ヒイロ。貴方がわたくしどもの召喚に応じてくれただけでもう、我々からしてみればヒーローそのものです!」

「そうか。オレが生まれるべき世界は、コッチだったんだな」

「まさにその通りなのですっ!!」

「ん?」

 鼻をほじりながら軽口を叩いていたヒイロは、突如自分の言葉を肯定するロブ爺に視線を向ける。

 その眼孔はにぶく、十五年生きた老犬が家族に見守られながら死んでいく、そんな一瞬を切り取ったかの様な瞳をしていた。

 安らかに眠れ、ポン太。

「ヒイロ、貴方は元の世界で無気力感に悩まされる事はありませんでしたか?」

「そ、それは……」

 ロブ爺は、満を持して洗脳を開始した。

「ちゃんと眠っているにも関わらずあくびが出たり、やる気が起こらず物事を先延ばしにした経験は?」

「ある! 宿題をやろうと思っても出来なかったり、早起きして学校に行くのが億劫おっくうだったり……。もしやコレに、何か理由があるのか!?」

 占い師などがよく使う、誰にでも当てはまる事柄を引き合いに出し、信じ込ませるテクニック──。

 これが所謂いわゆるバーナム効果である。

「さっき貴方が言った様に、生まれる世界を間違えたのです。こちらの世界ならば発揮される能力が、ヒイロが元いた世界では重荷としてのし掛かり、行動を制限させていたのです」

「そういう事だったのかぁ!」

 バッカだなぁ、コイツぅ……。

 でも、彼がこうなるのも仕方がないのです。

 人は信じたい事を信じる生き物ですから。

「それじゃあオレは、この世界では凄い力を持っているって事か?」

「えぇ、そうです。でなければ、そもそも貴方は召喚されていません。どうでしょうヒイロ、我々に力を貸してはくれませんか?」

「いいだろう、このヒイロ=フォン=タンジェンシュタインが力を貸してやる。勝利の女神はオレの嫁、つまり勝つのはオレたちだ!」

「お、おぉ〜……」

 感嘆の声が上がる、カンターヴィレと共に。

下にスクロールしてもらって、ブックマークと評価してくれたら狂喜乱舞します。

いやっほぉぉぉい!

ぷるぅぅはぁぁぁ!!

よしよしよしよしよし、よっしゃぁぁぁ!!!

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