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第7話:謎のメイドさん

破滅の箱庭。


アーク公爵家が住む屋敷の通称であり、ゲーム中では序盤の難関ダンジョンの一つとして登場する。


冒険者としての依頼を着々とこなし、徐々に頭角を現したプレイヤーに舞い込む緊急依頼。依頼内容は、謎の魔族に占拠された屋敷の奪還とその魔族の討伐というものだ。この謎の魔族というのは、当然ながら闇落ちした腐れ子息ネロのことである。


いやぁ、ゲームで遊んだダンジョンをこうして実際に歩けるっていうのはなかなか珍しい経験だよな。ファン心理がうずいちゃうよ。




日常生活には絶対に向いてないレベルで広くて長い廊下(ゲームではダンジョンとして設計されているのだから当然かもしれない)を歩き、オレが目指す先はネロの父親である“アーク公爵”の私室だ。


なお、自分の父親ではあるがファーストネームは知らない。テキストではずっと"アーク公爵”って表示だったし。


と、そこまで考えた時に脳裏に“バルデウス”という単語が突然浮かんだ。


……ああ、ボクの父上の名前はバルデウス・D・アーク公爵じゃないか! なんでこんな当たり前のことを忘れていたんだろう?




「……っ!?」


なんだ、今のは。


オレの記憶には絶対ないはずの情報が、いきなり頭の中に入り込んできた感覚。なんかすごく気持ちが悪い。


それを皮切りに、堰せきを切ったようにボクとしての記憶が流れ込んでくる。




「あ、ぐっ……うぅぅ……!」


アーク公爵家の嫡男に生まれたこと。


優しかった母の笑顔。


幸せな幼少期。


母が倒れ、急に会えなくなった時のこと。


母の葬儀。取り返しのつかない喪失感。


母の死後、数えるほどしかない父との会話。


惨めな孤独感。


寂しい気持ちを埋めるように、色々な物を集めた。


使用人をいじめると、惨めさが和らいだ。


ボクは一番幸せなはずなのに、どうして。


どうして……!




「坊ちゃま、どうされたのですか」


「っ!?」


突然誰かに声を掛けられて、オレは我を取り戻す。


あ、危なかった……ネロとしての記憶が一気に溢れてきた時、オレとしての自我が薄れていく感じがした。あのまま記憶に呑み込まれていたら、オレの意識は消失していたかもしれない。


「な、なんでもない……ありがとう」


そう言って立ち上がって、声を掛けてきた使用人を見る。


その人物は、長身のクールな雰囲気が漂う女性メイドだった。青い長髪を三つ編みにし、ロングスカートのクラシックスタイルのメイド服を着こなしているその上品な立ち居姿はまさに一流メイドという感じだが、オレは彼女の顔を見て少し驚く。


その顔の右半分には女性に似つかわしくない斬り傷のような痕があり、それを隠すように眼帯をしていたのだ。




眼帯メイドさんはオレの顔をまじまじと見つめ、無表情のまま口を開く。


「驚きました。坊ちゃまが私のような従者に『ありがとう』などと仰るとは」


「え……? あ」


つい反射的にお礼を言ってしまったが、この人の言うように、確かに普段のネロは使用人に「ありがとう」というのはおかしかったか。


この一言だけで「さてはこいつ、坊ちゃまの肉体に取り憑いた別人だな!! 処刑!!!」とはならないとは思うが、あまり怪しまれる言動は慎んだほうがいいかもしれない。




だが、オレが今から怪しまれないようにするってことは、この綺麗な眼帯お姉さんに「許可していないのに勝手にしゃべるとは何事だ! この下賤な犬め!」みたいな罵詈雑言を浴びせるってことだ。初対面の人にそれは気が引ける……




……ん? 初対面の人?


待てよ、オレはこの人を知らない。つまり、ゲームのキャラクターにこんな人は登場していなかった。


かといってネロの記憶(さっき色々思い出した時に、屋敷に関する情報も把握していた)の中にもこの人の覚えはない……まあ、そもそもネロは使用人の顔なんてほぼ覚えてないんだが。




「……いえ、失礼しました。では、私はこれで」


青髪メイドさんはそう言うと、俺の返答を待たずに立ち去ってしまった。




……なんだったんだ? 今の人は。


まあいいか。早く目的地に向かわないと!

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