表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/15

第1話:壺

「ぷーくっく! ほら、ちゃんと壺を磨けよ! 一つでも汚れが残ってたらパパに言いつけてやるからな!」

「ひっ……精一杯磨かせていただきますので、それだけはご勘弁を……!」

ボクの一言でメイドの顔が青ざめ、涙目で必死に手を動かしてお気に入りの壺を掃除する。

下等な身分の人間をこき使うってちょう楽しい!

パパはいつも、ボクやその家族のことを「特別な人間なんだ」って言ってる。

神様に選ばれた人種? なんだから何をしてもいいんだって。


だからボクは毎日好きなことをやってる!

お小遣いで好きなものを買って、美味しい料理をたらふく食べて、気に入らない使用人やメイドがいたら《《パパに言いつける。》》

たまにボクに注意してくるような口うるさい新入りの使用人がいるんだけど、そうしたら必ず次の日には《《いなくなる》》んだ。

これもボクが特別な人間だからってことだよね!

ボクはいつか大きくなったら、パパみたいに最高の「特別な人間」になるんだ!


そんなことを考えて一人笑いしながら、ボクはさらにメイドに言う。

「ぷっくっく! お前なんかがボクの大切な壺に触れるなんて、本来なら一生あり得ないくらい名誉なことなんだぞ!」

「は、はい……重々承知しております……」

「すごくありがたくて幸せなことなんだ! こんな仕事ができるなんて、嬉しいよな?」

「はい、嬉しいです。とても……」

メイドのその消え入りそうな声と泣きそうな表情に、ボクはとても不愉快な気分になった。

「幸せだなんてちっとも思ってないような顔じゃないか! お前、ボクに嘘をついてるのか?」

すると、メイドの顔色が青を通り越して一瞬で真っ白になる。

「ひぃっ……! そ、そんなわけございません坊ちゃま!! 嬉しいです! 幸せです! とても!!」

「なら、笑えよ」

ボクの低い声に、メイドが凍りついた。

「幸せなら、笑うのが普通だろ? 『身に余るコーエーです!』って言って、ボクに跪くのが当たり前だよな?」

そう言うと、メイドは慌てて手に持っていた布を放り出して、ボクの下に這いつくばった。そして顔を上げて笑顔を見せる。

「そ、そうです!! 身に余る光栄です!! 下等な私めなどがこのような役目を仰せつかってとても幸せです!! う、うふふふふふ……!!」

メイドが涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら笑う。下僕にふさわしいその哀れっぽい必死な姿ががとても滑稽で、ボクは大笑いした。

「ぷーーーっくっくっくっく!! そうだよ!! それでいい!! ちゃんとボクに感謝しながら壺を磨くんだぞ!!」

「は、はい……!! うふふふふ……!! ……うぅ」

あーーーーー楽しい! ボクはこの家に生まれて、パパの息子になれて本当に良かった!!!

これからもっともっと楽しいことをして、ボクは一生このまま幸せに――


……ゴゴゴゴゴゴゴ。


――うん?

突然ボクの部屋の下……いや、地面から大きな音が鳴った。

「何、この音。おいお前、なんだこれ――」


……ドゴゴゴ!!!!


「うわぁっ!!」

「じ、地震……!?」

今まで経験したことのない下からの衝撃。

このメイドは今、地震って言ったか? それ、本で読んだことがある。地面が揺れて建物が崩れ、あちこちが大変なことになってる挿絵が付いてたやつだ。

ボクはとても怖くなった。

「お、おいメイドっ!! この揺れるのを今すぐ止めろ!!」

「む、無理です……! 私には……!!」

「なんだと!? 口答えするのか、お前みたいな――」

――下等な人間が、と言う前にソレは起こった。

ぐらり、とボクが一番気に入っている壺が揺れる。メイドに磨かせていた壺。

あっ、と思う時にはもう遅かった。

壺はぐわんぐわんと揺れを大きくし、ぐらりとボクの目の前に倒れてくる。

そして――


……ドガッシャーン!!


ボクの頭に今まで経験したことのない衝撃が走り、

ボクはあまりの痛みに気を失った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ