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生まれてしまう...! 書籍化欲求モンスター!

“月間ランキング16位”


 笛吹きになろうのランキングを見て、俺は愕然とした。

月間ランキング16位。それは趣味で小説を書いている奴なら、十分喜べる数字と言えるだろう。


 だが俺はプロ作家だった。結果を出さなければ、全て水の泡となる世界の住人だった。俺は佐藤と約束を交わしている。「新作をランキング10位以内に入れろ」と。


 俺は胸がざわつくほどの焦りを感じた。このままでは、ダンスパが【書籍化ライン】に到達できない。つまり俺の小説が出版できなくなってしまう。俺の状況は切迫している。何か手を打たなければ、確実にプロ作家への道は閉ざされてしまう。


 だが、打てる手を全て打ってきた俺には、もう何もすることができなかった。笛吹きになろうで毎日近況報告を書き、エックスターでも毎日ダンスパの宣伝をするなど、できる限りのメディア露出を心がけた。ダンスパに来た読者からの感想にだって丁寧に返信したし、笛吹きになろうで活動する他の作家との交流も欠かさず行ってきた。


 けれど、そうした人気稼ぎも結局焼石に水だった。

大量にストックしていたエピソードの続きも、もはや尽きかけている。


“どうする? どうする? どうすればランキング10位以内に入れる?”


 俺は焦燥する頭で、ランキング上位の作品の小説情報を閲覧する。読者から得られた総合ポイント、それは俺の総合ポイントとはまるで比べ物にならないほど異常な数値だった。3倍、4倍、いやそれ以上。それぐらいの圧倒的なポイント差を見せつけられた。


 だがそれも当然だった。ランキング10位以内に入るということは、笛吹きになろうで最も読者の注目を浴びられる機会を得るということだったからだ。


 読者の大多数はこのランキング上位の作品しか読まない。つまりランキング11位以下の奴がどれだけ足掻こうとも、上位10作品には絶対に敵わないシステムになっている。圧倒的勝者。圧倒的地位。そこはもはや、誰も足を踏み込むことができないアンタッチャブルな領域となっていた。



 俺はそれを今更ながら思い知り、敗北感に苛まれる。その感情に堪え切れなくなり、スマホをひったくるように取り上げた。


 プロロロロ プロロロロ


『はいもしもし? ひな鳥出版社の佐藤です』


「あっ、もしもし......俺、月神子です。あの、ちょっと今お話しを伺いたいことがあるのですが」


 俺の声はたどたどしくなっていた。喉の奥がツーンとして、今にも泣きだしそうな状態になっていた。それでも俺は、縋る気持ちでいっぱいだった。


「あのぅ、そのぅ、俺の新作の出版の件ですが、今どんな風に話が進んでるのかなぁ、と思いまして」


『............』


 佐藤は重苦しい沈黙をする。それだけで、よくない返事がかえってくるのだと察した。それでも俺は不安から解放されたくて、問いを止めることができない。


「あのぅ、佐藤さんは笛吹きになろうのランキング見ましたか?」


『......はい』


「あっ、そうですか。えっと、それじゃあ、佐藤さんは今、俺の新作について、どう思われてるのかなぁ、と」


『............』


 再び重い沈黙。俺の体には冷たい汗が大量に流れていた。電話越しなのに、無言の圧力をヒシヒシと感じてしまう。


「えっと、あのぅ、佐藤さん?」


『約束しましたよね、月神子さん。「ランキング10位以内に入ってください」と』


 佐藤は冷酷な声で言い放つ。心臓が止まりそうになるぐらい、恐ろしい声だと感じた。俺は二の句も告げず、そのままスマホを持つ手をわなわなと震わせる。


『あなたもプロを目指している作家ならご存じですよね? ランキング10位以内に入ることが、どれだけ書籍化する上で大切であるかということを。残念ですが、我々としても11位以下の作品には興味がないのです。10位と16位とでは全く意味合いが違います。16位の作品では、出版しても本が売れません』


 佐藤の容赦のない言葉が、俺の耳を打ちつける。もはや俺はその場に立っていることもやっとで、全身がガクガクと震え始める。


『それとですね、月神子さん。せっかく電話を頂いたついでなので話させていただきますが、コミカライズの件もかなり雲行きが怪しくなっているんです。


 モンスターコミカルさんのほうでも、「月神子氏の新作を出していただけないなら、この企画はなかったことにさせていただきます」とはっきり告げられているんですよ。

 

 .....まあそもそも、打ち切りが決定した小説を、コミカライズする話自体奇跡みたいなものでしたから』


 佐藤の声はどんどんとなおざりになっていく。それはまるで、俺との商談は既に切られていると言い渡しているかのように。


 俺は目の前が真っ暗になった。編集の佐藤に見放されてしまっては、俺はこれ以上どうすることもできない。藁にもすがる思いで電話をかけたのに、逆にそれが仇となってしまった。


『じゃあ、これでもう切らせていただきますね。私も忙しい身ですので』


 碌な別れの挨拶もなく、電話が切れた。

ツーツーという、虚しい音だけが響き渡る。

俺はスマホを持っていた腕をだらりと下ろし、放心していた。



 いやだ......。


 俺の胸の中で、何かがうごめく。

ガラガラと、何かが壊れる音が聞こえてくる。


 いやだ......。


 けれど俺はそれを受け入れることができない。

俺が築き上げたもの、それが崩壊することなんて認められない。


 いやだ、いやだ、いやだっ!


 気がついたら、俺はパソコンの前に再び座っていた。

必死にマウスを動かして作業をする。

俺の頭の中には、起死回生の策が閃いていた。



 “低評価ペナルティ制度”



 笛吹きになろうでは、そんなシステムがサイトに存在することが噂されていた。

基本笛吹きになろうのランキングは、どれだけ読者からブックマークや評価ポイントが贈られるかで、掲載順位が決定される加算方式だ。


 だが、そのランキング方式にはかなり偏りがある。上位作品だけがずっと上位のまま固定されるという欠陥があった。


 なので笛吹きになろうの運営は近年、公言こそしていないが、ある程度ランキングを是正するために、ランキングのアルゴリズムを変更しているという。


 匿名掲示版の3chの「笛吹きになろう」専門版では、ランキングのアルゴリズムを研究するスレッドが立ち上がり、その中で解明されたのが“低評価ペナルティ制度”だった。


 “低評価ペナルティ制度”


 すなわちこれは、読者の誰かがランキング作品に1点や2点などの低評価をつけると、その作品のランキング評価も、裏では減算されるという仕組みだった。つまりランキング上位の作品でも、読者から低評価ばかりを受ける作品は、ランキングの順位が落ちるように調整される......と言われている。



 本当のところはわからない。

そんなもの、誰かがまき散らしたホラ話でしかないのかもしれない。


 けれど今の俺には、もう後が残されていない。

真偽を確かめる余裕なんて全然なかった。


 だからもう、やるしかなかった。


“ランキング、ランキング、ランキング! 10位以内にランキング!”

“書籍化、書籍化、書籍化! 書籍化しないとプロ作家になれない!”


 頭の中が「ランキング」と「書籍化」というキーワードで埋め尽くされる。

俺はもう、他のことに頭が回らなくなっていた。


 俺は笛吹きのなろうで大量の複製アカウントを作成した。いくつもの捨てアドを新たに作り、嘘のユーザー情報を何件も登録する。


 そして俺はその複アカを使い、月間ランキング15位以内の作品全てに、最低得点である1点をつけまくる。そして俺自身の作品には、最高得点である10点をつけ、ブックマークを入れまくった。


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