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第3話 ステータスカードのない人間

「ポート。どうだった」

「見ていらしたのでしょう。兄様は、どう思いましたか」

「まだわからんな。見たところとくに何かするようにも見えんが、転移者は何をしでかすのかわからん」


 それで我らがベアトリーチェ家はこの有り様だと、ポートの兄ダンテ・イン・ベアトリーチェはぼやいた。ダンテとポートの二人は、ベアトリーチェ家の分家だ。


 ポートは、中央区にある銭湯の近くにつけた屋形船の中にいた。

 兄妹二人のほかは、この船には船頭ともう一人の四人だ。いまはいない三人のうち一人はタロウをつけていた。


 ミツマッタは、リエカ河の両岸にある東区と中央区、隣に湖がある南区の三つの区では水運が発達しており、東区と中央区では川を挟んで船の行き来もできた。船があれば便利なことこの上なく、この草臥(くたび)れた屋形船でも、屋根があれば何日でも活動ができる。


 ベアトリーチェ本家も、白の大街道が整った時には揺らいだこともあったが、それでも高位貴族の端くれだ。ここミツマッタ中央区では、自前で屋形船一艘と小舟二艘を運用していた。

 いざとなれば、本領からリエカ河を遡ってもう何隻かの屋形船を動員することもできた。


 ダンテとポートのミツマッタでの活動に必要な宿代が惜しいからだけではない。



 五十年程前、ヒカルがミツマッタでスライムプラントを作り上げたとき、ピエモンテ州の土候達はそこに食い込もうと軽い気持ちで、ミツマッタから北東のロンバルディア州要衝ミラノ、南東のピエモンテ州アスティ、南のリグーリア州港町サヴォーナに続く道に「関所」を儲けた。


 それでヒカルと交渉するつもりだった。


 土候達へ、旧来のスライム産業を抱えるミラノ、ローマなどの高位貴族を含む利害関係者からの圧力もあった。


 それに対して、ヒカルは、ドワーフ国のリヨンまでの街道整備を宣言し、あっという間に白の大街道を建設した。


 これにより、白の大街道によるゴールのドワーフ国、ズビッツェラのエルフ氏族、ピエモンテ州北部のオーク氏族との交易による商業圏の拡大は、旧来のスライム産業関連よりもはるかに商業的価値があるとされ、元副帝都ローマ圏の商人から大歓迎された。

 公にはそういうことになっている。


 それで「関所」は撤廃されたと。


 元副帝都ローマ圏の貴族の視点からは、白の大街道はこう見えた。

 ヒカルとミツマッタがその気になれば、北方の異種族であるドワーフ、エルフ、オーク、ゴブリンの大軍勢を呼び込める軍用道路だ。


 それどころか、ミツマッタから、ドワーフ国、エルフ氏族、オーク氏族のまだ定っていない入り組んだ国境を通して、白の大街道を短期間で建設するには、ヒカルの「力技」があったこともわかる。


 ピエモンテ州の土候達、旧来のスライム産業の利害関係者はヒカルとミツマッタを脅したつもりが、元副帝都のローマ圏全体が、ヒカルとミツマッタに脅し返されたのだ。


 当然のことながら、貴族の内々では大問題になった。


 ピエモンテ州の土候、旧来のスライム産業関係者が、ヒカルとミツマッタの間で手打ちをするだけでは治らない。

 ヒカル達の預かり知らぬところでの元副帝都ローマ圏内での暗闘の結果、ピエモンテ州ベアトリーチェ家は割を食う側に入った。


 ピエモンテ州全体が、商業都市ミツマッタ繁栄のおこぼれを受けているので、ミツマッタ建設前よりは豊かになった。ベアトリーチェ家一門でも年寄りは皆が感謝しているが、若いものはそうではない。

 相対的貧困というものは、とくに若い貴族の心を傷つけた。


 ポートは、銭湯でタロウに族滅の話をした時の感情を呼び起こさずにはいられなかった。




「いやいや。勉強になったです。ステータスカードがあるだけマシだったです」


 タロウが口にだす言葉は、独り言でも自動的に西共通語へと変換される。意識しないと日本語は喋れない。


 ステータスカードを見れば氏神の神名だけでなく、両親の名前までもがわかる。

 しかし、それは持ち主が生きていればの話だ。死ぬとステータスカードを見ることはできない。


 高位貴族の影武者や、何らかの身代わりとして、背格好、年恰好の似た人間を用いた話も興味深かったが、ステータスカードのない人間のいくつかの話には鼻白むものもあった。


 影武者の子供の首より受け入れられないものもあった。


 氏神が作った眷属には、知恵のあるなしに関わらず、草や木や虫や鳥や魚もいる。その中に人間もいるだけなのだろうが、この世界に来た時からタロウには馴染めない考えだ。


 知恵がありステータスカードを持っている人間なのに、知恵のないステータスカードを持ってない人間よりも知能が低い場合など、笑い話や、舞台になっている有名な喜劇もあるという。


 あまり見たいものではない。


 ステータスカードのおかげで不貞の子などすぐにわかるから、そういった意味での御家騒動はないだろう。タロウは、日本での血のつながらない子供の事例を考えてみる。


 日本でも、戸籍には遺伝子検査の結果を載せたらいいのに。

 次回で最終回になります。期日は未定ですが、投稿時間は18時を予定しています。


 よろしくお願いします。

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