第9話 初めての『強硬威力偵察部隊』
「うひゃぁっ! 降参だ! 降参する! 何が、欲しいんだ!」
結局、賊本体に追いつかれ、包囲されて観念した御者だった。
「おめぇ、バカか。バシャが、ウマにスピードでカてるワケねぇっての。」
ゲラゲラと、下卑た男達から、嘲笑と臭い息が、吐き出される。ここで、紫色の革鎧を身に付けた男が抜剣した。すると、周囲の男達が、ぴたりと黙りこくった。
「そいじゃ、馬車ごと貰おうか。さっさと、降りな。」
抜身の剣で、御者を指し示して、指示しているのが、賊の頭目であろう。
「は……はい。」
恐る恐る駅馬車を降りる御者。馬上で武装した男達に、包囲されているからだろう。
「おカシラぁ、ポーンナムのヤロウ、モドってキやした。」
そう言って、遠くの方から騎乗した何者かが、接近しているのを指差すは、賊の手下だ。
よく目を凝らして、そいつを観察する頭目。
「………………違う。」
「は? なんでしょう。おカシラ。」
「ジミー、ジョン、プラント! あいつは、ポーンナムじゃねぇ。行って始末しろ!」
「は? はははははぁっい! いってきやすぅっ!」
最初は、戸惑っていたが、お頭が気迫のこもった貌をした為、気圧され急ぐ3人だった。
相対距離を、ぐんぐん縮めている一騎と三騎。遂に、互いに相手の視認できる様になった。
「あっ! あいつ、ポーンナムじゃねぇっ!」
「おカシラの、いうとおりだ!」
「ちきしょう! なら、ポーンナムは、どうした!」
「そいつは、十万億土に旅立った。もう、この世界に存在しない。」
などと言う事実ではあるものの、無意味な指摘をする者などこの世界に存在しない。
「ンなモン、アイツから、キクだけだぁっ!」
横陣を組み、左手で手綱を、右手で|片手用弩を操り、一斉射撃する3人。射程ぎりぎりだ。
「ケッ! バカが! ジブンから、シャテイナイに、はいってキやがった!」
『麦踏』が、発動しました。……『騎乗』のレベルが、上昇しました。
「はっ! はええぇっ! サンボンのヤを、ウマのソウジュウだけで、よけやがった!」
「違う。一番左の奴は、構えた長剣に当たっただけだ。セェイィッ!」
そのままの勢いで、馬上の賊……ジョンの右肩に、斬りつけたニック。
「いてぇっ!」
|片手用弩を落としてしまったジョン。草の毛並みが長かった為、壊れてはいない様だ。
駆け抜ける一騎と三騎。Uターンして、最接近する一騎と三騎。既に次弾は、装填済みだ。
今度は、ジョンを先頭に、長蛇を組んで、突撃する三騎。
「名付けて、ジェットストリーム・アタック!」
ジミーの「このジンケイなら、ウシロからのヤは、ミえねぇだろ!」は、「名付けて、ジェットストリーム・アタック!」と聞こえた様な気がしたが、きっと気のせいだろう。
某黒い三人組とも無関係に相違ない。
「大丈夫だ。仲間を背中から、撃つ筈も無い。微妙にずらしている筈。そこを見極める。」
等と言う無駄口を叩かないニックだった。
今度は、剣を抜いたジョンを先頭に、相対距離を、ぐんぐん縮めている一騎と三騎。
「シャテイに、ハイったぜ! クラえぇっ!」
まず、真ん中のプラントが、射撃。少し遅れてジミーが、射撃する。筈だった……
『麦踏』が、発動しました。……『騎乗』のレベルが、上昇しました。
「オレを、フミダイに、しやがったぁっ!」
跳躍したビーミーの後脚で足蹴にされ、脛骨骨折したジョンの情けない悲鳴は、「オレを、フミダイに、しやがったぁっ!」と聞こえた様な気がしたが、きっと気のせいだろう。
某白い悪魔とも無関係に相違ない。
「プラント! ウアのマエアシで、ガンメンを、フマれてやがる!」
「このまま地面に叩きつける!」
落馬させられた上、馬の全体重を乗せられて、地面とサンドイッチにされたプラントの頭部。
「おひおひ……そりゃ、生きているなんて次元じゃねぇ。蹄が、頭蓋骨にめりこんでるだろ。」
などと言う無意味な指摘をする者などこの世界に存在しない。
「ちっ……チキショウ! こうなったら、サイゴのシュダンだぁっ!」
全速力で、逃げ去るジミーだった。
「追撃戦か……連中は、強硬威力偵察部隊だろう。つまり、本隊は既に戦闘態勢を整えている。すると、こちらも多少準備すべきだ。そう言う事だ。」
アニキから借りた本に、書かれていた戦術論を、思い出すニックだった。
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次回予告
第10話 初めての頭目
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