第18話 初めての『不寝番』
こうして、屋根の上で、寝転がって月を見上げる2人だった。これから『不寝番』となる。
牛舎の三角屋根は、村側と、村の外側がある。その村側にいるので、外からは見えない。
更に、出入り口からは、微妙に死角になる。そんな位置を取った2人だった。
「……『月がとっても青いから』……か。」
状況に鑑みて、小声で呟くニックだった。
「ん? どした、急に。誰かの詩か。ニック。」
当然、こちらも声を潜めるラージャー。
「誰かは、知りません。ただ、この部分が、耳に残るんです。ラージャーさん。」
「ふぅん、そんなもんかね。なら、眠気覚ましに、ケツでも揉んでやろうか。ニック。」
「結構です……と言うか、要りません。それに、暖かくなると眠くなります。ラージャーさん。」
こうして、黙りこくる2人。待つ身は、辛く、永く感じる2人だった。ややあって……
「おい、聞こえたか。森の木の葉が、揺れたぞ。」
「おお、確かに、聞こえたぞ。何もんだ。」
そう囁くのは、村の青年団の2人だ。取り敢えず、手にした松明を地面に落として戦闘準備。
鋤を両手で構えて、警戒する村の青年団。固い唾を飲む音が、大きく聞こえる。
「……『集団催眠』……。」
途端、手にした獲物を落として、ぼうっと立ち尽くす村の青年団の2人だった。
すると、森から小柄な人影が出て来る。柵をよじ昇り、乗り越える。
連中は、10人程だろうか。手際よく、2手に分かれる。3人ばかりが、馬舎に向かう。
残りは、閂を外して、牛舎に入った。3人程、武器を構えて、牛舎の入り口で歩哨に立つ。
「以前、パーティーに参加してた魔術師から聞いた事があるぞ。ニック。」
「つまり、『あれ』が、何なのか、知っているんですね。ラージャーさん。」
「ゴブリンだ。後、『魔法』を使った奴が、いたろ。あれが、ゴブリン・シャーマンだ。以前、かなり前だが一度、闘った事が、ある。きっちり、覚えてるぜ。ニック。」
「ならば、是非に及ばず。まずは、歩哨から屠りましょう。ラージャーさん。」
毛布を敷き詰めた屋根の上を慎重にかつ素早く歩く。多少は、足音を軽減してくれた。
「チュミミミィーン。」
屋根の上から飛び降りたニックと、ラージャーに、踏み潰された際の間の抜けた悲鳴は、「チュミミミィーン。」と聞こえた様な気がしたが、きっと気のせいだろう。
某奇妙な人面疽とも無関係に相違ない。
* * *
次回予告
第19話 初めてのゴブリン
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