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第13話 初めての説明

「おぉい、今、いいか。マスター。」

 ノックの音と、許可の願いでを、扉の向こうに届けるメイド……ラージャー。

「入れ。」

「失礼しゃぁーす。マスター、駅馬車組合から手紙だぜ。」

 メイド服を着たラージャーから、手紙を受け取ったケヴィン。素早く読む。

「どうした、マスター。涙を堪えているのか。珍しい。」

「デキトーが、死んだ……殺された。遺体を引き取って欲しいと、書かれている。」

「え? あいつ、5レベル戦士だぜ。そんな、簡単に死ぬもんかよ。間違いじゃないのか。」

「まず、遺体の引き取りに行こう。それで、裏が取れるだろう。付きあえ。ラージャー。」

「勿論だぜ、マスター。」

 とは言え、約500人の冒険者を束ねるリーダー、ケヴィンである。

 外出する際も、行き先、外出予定時間などを、書類に記入し、幹部全員に配布する。

 これで、幹部全員が、リーダー、ケヴィンの行動を把握できるので、安心して仕事できる。

 リーダーが、不在では指揮に影響するからだ。こうして、始めて外出可能になる。


 * * * 


「あの冒険者さんが、言ったんです。『ここは、俺が引き受ける。お前さんらは、街へ引き返せ。』ってね。いやぁーー助かりましたよ。賊を一早く発見したばかりか素早い対応。」

「待ってくれ。話の腰を折るようで、済まないが、乗客はどうした。」

 本当に、御者の発言を遮って、質問するケヴィン。

「……えっ……そりゃ、一緒に街へ引き返しましたよ。それが、何か。」

「すると、駅馬車の運賃は、どうなる。まさか……。」

「それこそ、まさかですよ。全額返金しました。引き返したんですから、当然です。」

「で、その客は、どうした。次の駅馬車の出発時間や、宿泊施設などを確認するとか、しなかったのか。或いは、宿泊先を、君に教えたりしなかったのか。」

「……さ、さあ……私も賊に襲われたせいで、報告書など仕事が増えてしまいましたから。」

「つまり、客が、何処に行ったのかまでは、知らない。そう言う事だな。」

「……そ、そうです。そうですとも。何も知りません。」

「では、遺体を見せて貰おうか。本人確認したい。」

 この後、同行させた魔術師と共に、本人確認すると、『魔法』で人を手配させるケヴィン。


 * * * 


 この後、馬を駆り駅馬車が、賊に襲われた現場を視察するのは、ケヴィンとラージャーだ。

 1つ1つ、賊共の死体を検分する二人だった。ちなみに、付き従う男達もいる。

「うへぇ、こんな所で、ゲロ吐いたのかよ。きったね。マスター、そっちは、どう?」

「こいつだ。この死体を見てみろ。ラージャー。」

「うへぇ、馬の蹄で、踏み潰されてるじゃん。これが、何なのさ。マスター。」

「恐らく、デキトーの愛馬ビーミーだろう。つまり、こいつは、デキトーに殺された訳だ。」

「成程、筋は通っているな。で、それが、どうしたのさ。マスター。」

「なら、ビーミーと、デキトーの剣は、何処に行った。」

「あ! ん……そりゃ、馬は、賊に連れていかれたか、野生に戻ったか、したんだろ。剣の方は賊が、拾ってお持ち帰りしたんじゃあないのか。マスター。」

「そうか、そう思うか。でも、何か引っかかるんだよなぁ。それは、御者の態度もだ。」

「ああ……あのどことなく挙動不審な、御者だよな。で、どうする。」

「最優先事項は、ニックだ。デキトーが、護衛に付いていれば、安心だと思ったが、今は丸腰。自分で、自分の身も守れない。何とかして、保護するべきだな。」

 ここで、本部から連れて来た男衆を、呼び集めさせるケヴィン。

「よし! 全員揃ったな。俺は、一旦本部に戻る。お前達は、賊共の死体を、冒険者ギルドに、持ち込んで換金し、後で報告書を提出しろ。ラージャー、指揮はお前がとれ。」


 * * * 


 で、『レキシントン冒険者隊本部』に戻ると、ケヴィンのオフィスに赴いたラージャー。

「マスター、戻ったよ。これ、冒険者ギルドからの受領書と、賞金な。報告書なら書類仕事が、得意な奴に丸投げしたから、すぐにできるさ、」

「お疲れ様。金は、会計部門に回しておけ。隊の運営資金にする。」

「で、捜索の方は、どうなってんだい。マスター。」

「今、似顔絵を持たせた連中を、宿巡りさせてる。見つかるのも、時間の問題だろう。」

「おっ、流石、マスター。って言いたい所だけどよ。この街にいるとは、限らないだろ。」

「俺は、知ってる。あいつは、馬に乗れない。一度、賊に襲われた道を、丸腰徒歩で隣町まで行ったとは、考えにくい。この街にいるに決まってる。」

「なぁーるへそ。なら、暇を貰うぜ。アタイは、アタイでやらせて貰うからよ。マスター。」

「何か、考えでもあるのか。」

「ん? ちげぇーよ。アタイは、考えても無駄ってもんさ。『勘』だよ。マスター。」

「そうか、実際お前の『勘』は、よく当たるしな。いいぜ、3日やる。」

 返礼に投げキッスをするラージャー。書類仕事で、スルーするケヴィンだった。


 * * * 


「で、よ。門番に確認したら、『子供が1人で馬に乗って街を出た』って話しを、聞けたよ。だから、ピンと来たんだ。ニック、お前に違いないってな。アタイの『勘』は、当たるのさ。」

「そうだったんですね。でも、本当にいいんですか。僕で。ラージャーさん。」

「さっきも言ったろ。アタイは、お前の男気に惚れた。だから、いいんだよ。ニック。」

「でも、僕、駄目な男なんです。アニキにも、見限られて、人を殺して……。」

「ゲロくらい、誰でも吐くさ。『初めて』ってのは、どんな事が起きるか、分からねぇんだ……って、何めそめそしてんだ。男だろ。しゃきっとしろ。ニック。」

「あれを見たんですねぇ……うぅぅ……。」

「しょうがねぇだろ。天下の往来に、賊の死体を放置できねぇんだから。……ったく、世話の焼ける奴だなぁ……ほら、ちょっと腰浮かせ。ニック。」

 そう言うと、席を立ち、ニックを抱き上げて、改めてニックの椅子に座るラージャー。

 ラージャーの砲弾の如き双丘の谷間に、顔を埋める形になったニック。

「ほら、少しくれぇ、甘えていいんだよ。な、ニック。」

「ありがとうございます。ラージャーさんって、あったかいです……。」


 * * * 



次回予告

第14話 初めてのヘッドハンティング

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