第10話 初めての頭目
「おカシラぁっ! タイヘンですぅっ! ジョンと、プラントがぁっ!」
|片手用弩まで、かなぐり捨て、何とか本隊まで戻って来たジミー。
そこで、ジミーが、目にした物は、横陣を組み、装填済みの|片手用弩を構えた全残存戦力だった。列の後方に控えているのは、長弓を構えた頭目だった。
「邪魔だ。」
頭目が、放った放物線を描く矢に串刺しにされたのは、前屈みになったジミーの頸部だ。
そのまま、モーゼの如く列の隙間を、駆け抜け去るのは、主亡き馬だ。
* * *
話しは、3人が出発した所まで、遡る。
「おい。おめぇ、帰っていいぜ。」
「ひゃぁい。」
慌てて、逃げ出す御者だった。
「おカシラぁ、あいつのサイフ、もらわなくていいんですかい。」
「全員、戦闘態勢! ここで、迎え撃つぞ!」
「は? 3タイ1でしょう。あいつらが、マけるとでも。おカシラ?」
「さっさと、横陣を組め! それが、できたら|片手用弩も装填! 急げ!」
いそいそと、命令に従う手下共。
「いいな、俺の合図で、一斉射撃しろ。」
そして、特別あつらえの長弓を準備する頭目だった。
* * *
こうして、迎え撃つ体制、準備万端整った所に、やって来たニックだった。
「部下が、1人倒された事で、3人投入したものの敗北。ここで、戦力小出しの愚を悟った。更に、例え部下でも自分の邪魔なら、容赦なく惨殺処刑。」
更に、ビーミーを加速させるニック。
「つまり、奴は『知力』『胆力』共に、ただならぬ奴だと言う事だ。多分……間違いなく僕より上だ。まともに、ぶつかっても勝てっこ無い。なら……。」
更なる加速を、ビーミーに要求するニック。
「いい度胸だ。まっすぐ突っ込んで来やがる。迷いの無い動きだ。…………『撃て』!」
射程距離に入るや否や、何十本と言う矢が、放たれる。狙いは、無い。
あくまで、矢の数と、『面積』で、『どれか1本でも当たればいい』と言う『作戦』だ。
『麦踏』が、発動しました。……『騎乗』のレベルが、上昇しました。
「それを、待ってたんだぁっ!」
「とっ! トンダァッ! ナンテ、ヨケカタだよぉっ!」
「それを、待っていた。」
手下共の横陣を飛び越えるニックの乗機ビーミーの腹へ、下から矢を撃ち上げる頭目。
「それも、予想済みだぁっ!」
「! ……あれは、ジョンの|片手用弩! 俺の矢を投擲した|片手用弩で受けやがった。」
横陣を飛び越えたニックの乗機ビーミーを駆り、頭目へと肉薄するニック。
「馬鹿なぁっ! 馬で体当たりだぉっ! 正気かよ!」
そう言いつつ、長弓を左腕に通して、手綱を操作する頭目だった。
「よし! それじゃあ、長弓は撃てない! せいぃっ!」
長剣を振るうニック。自身も長剣を抜き、応戦せざるを得ない頭目。
「そりゃそうだろう。馬は、後退するのが、苦手だからなぁ。」
鍔迫り合いに持ち込むニック。馬上では、小回りもし辛く、中々押し返せない頭目。
現状、二人の馬首は、逆向きであり、互いの馬は右側を押し当てている。
「よぉっしゃぁ! サイソウテンと、カイトウできたぜ。くらえ!」
「バカ! イマ、ウッタら、おカシラにあたるだろ!」
「じゃあ、どうすりゃいいんだよぉっ!」
「とにかく、ホウイしろ! ヤツのニゲバをフサグんだよぉっ!」
こうして、混乱した挙句、二人を遠巻きにする手下共だった。
「おひおひ……それじゃ、何時まで経っても、決着何てつかねぇだろ。」
などと言う無意味な指摘をする者などこの世界に存在しない。
「そんな事は無い。力負けして、押し倒され、落馬した方が、負けだ。」
などと言う無意味な指摘に事実を被せる者などこの世界に存在しない。
ここで、力負けしたのか、馬の左側に傾き、倒れ込む頭目だった。
「おぉぉぉっ! おカシラぁーーーーーーーーっ!」
「よし! これで両手が、使えるってもんだ。喰らえぇっ!」
馬の胴を両脚で挟む事で、何とか落馬を遅らせ、長剣を落とし、手綱も手放した頭目。
「サスガ、おカシラぁっ! あのシセイから、マウエに、ヤを、ウッタぜぇっ!」
そうして、長大な放物線を描いて、ニックの頭上から襲い掛かるのは、頭目の矢だ。
「よしよし……そうやって、お頭と僕との一騎討ちに見とれて、手下共の|片手用弩の狙いが、疎かになってるじゃあないか。それを待ってたんだ。」
等と言う無駄口を叩かないニックだった。
何時の間にか、長剣を鞘に収め、両手で手綱を取り、ビーミーを走らせるニック。
「なぁっ! ト、トンだ。だとぉっ!」
プラントと、同じ末路を辿った手下だった。更に、隣にいた手下にも斬りつける。
兜を着けていない頸骨を砕かれる音を響かせた手下だった。そこから、時計回りに走る。
「し、しまった! 円の外側は、背後になる! 奴め! 外側を進みながら1人ずつ斬る気か! おい! 何、ぼさっとしてやがる! 横陣だ。組み直せ!」
長剣を拾い、何とか馬上で体勢を立て直して、手下共を叱咤する頭目。慌てて動く手下共。
「そうは、させないぜぇっ!」
手下の死体の1つを馬上に乗せ、左手で支えると、長剣の腹でビーミーの尻を叩くニック。
「ちっ! 死体を盾に! また、向かって来るのかよぉっ!」
ここで、馬首を巡らすと、そのまま、走り去る頭目。
「付き合ってられっか! おい! ひくぞ! ひけ! ひけ!」
「おぉぉぉぉカシラぁぁぁぁぁーーっ! オイてかないでぇっ!」
我先に、逃げ去る手下共だった。
「駄目だ。追うな。」
不満そうな、嘶きを漏らすビーミーの顔を、撫でてやるニック。
「それより、重要な事があるんだ。手伝ってくれ。ビーミー。」
* * *
何とか、近くの林に身を隠していた御者と合流し、街へ戻る事になった。
「いやぁーー助かりました。一時は、どうなる事かと思いました。」
「それより、約束ですよ。あの賊共は、デキトーさんが倒した。僕は、馬を回収しただけ。」
「勿論ですよ。あなたは、命の恩人ですから。デキトーさんの遺体を回収、馬を全て馬車組合で、買い取る事も請け負いますよ。しかし、いいんですかい。」
「何の事でしょう。」
「賊共には、懸賞金が、かかっている筈です。それをフイにするって事でしょう。」
「それだ。それも考えた。が、そうするには、街の冒険者ギルドで、手続きしなきゃならない。そうすると、必ずアニキの耳に入る。で、デキトーさんの成果を、横取りしたと疑われる。」
等と言う無駄口を叩かないニックだった。
「とんでもない。こう言う事は、欲をかくとあまり良くないってものです。」
「ほうほう、そんな、もんですかねぇ……。」
それ以上は、追及しない御者だった。
「そりゃ、そうだろう。さっき、『置き去り』にしたんだからな。罪悪感だろうよ。とどのつまり、ニックは、その辺を水に流したんだろう。だから、会話もスムーズなのさ。」
などと言う無意味な指摘をする者などこの世界に存在しない。
「僕自身、今回『何故』あんなに、活躍できたのか、分からない。それが、分かるまでは、不用意に、アニキに逢いに行かない方が、いいだろう。」
等と言う無駄口を叩かないニックだった。
* * *
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第11話 幕間2
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