イケすかないイケメンのイケダ君
2022/3/25
空原海様よりファンアートを頂きました。後書きに追加しております。
「あー、彼女欲しい。可愛い女の子が空から降ってこねぇかな」
「降ってきたとしても、先輩の彼女になるとは限らないですよね」
「……お前、マジでぶっ飛ばすぞ」
「できるもんならどうぞ♪」
しまった。休憩室で二人きりの無言の空気に耐えられず、つい余計なことをいったらコレだよ。
最近俺の職場に学生バイトで入ってきた池田 アキラの野郎は最悪のいけすかない奴だ。
本当にクソ生意気で口は減らないし、おまけに顔が女かと思うほど恐ろしく整ってて愛想も良いから客受け(特に女の客)も凄ぇ良い。
これで顔だけかと思ってたら頭も悪くないようで仕事の覚えもなかなか良い。
仕事で厳しくしごいて生意気な口を封印してやろうと思ったのにキビキビ動きやがる。体育会系の厳しい部活やってた影響らしい。
本当に弱点がないと言うか、ムカつく奴だ。
「お疲れ!今日も池田君と新居戸君は仲良しだね」
「はい、店長!」
休憩室を覗いた店長の言葉に、俺が苦虫を噛み潰すような顔をする横で何故か「はい」とにっこり肯定する池田。
なんだよ、さっきまで俺に喧嘩を売ってたくせに店長の前だと良い子ぶりっ子かよ。死ねよ。
「店長……どこが仲良しに見えるんですか!?」
思いっきり抗議してみたが、店長に「だって仲良しじゃん?」とニコニコ返されてしまった。
店長、めっちゃくちゃ良い人なんだけど、性善説で生きてるって言うか『みんな仲良しで良い子だね!』みたいなところ有るよなぁ……。
俺は池田が嫌いだ。池田も多分、俺の事が嫌いなんだと思う。
あいつは他の社員やバイト仲間とはわりと仲良さそうにしてるから、なんで俺にだけこんな態度なのかはわからない。
店長がいなくなった途端、池田のにっこり顔がいつもの冷たい微笑に変わる。
「で、なんで急に女の子が降る話になったんですか?もしかして昨日の金曜9時から放送してたアニメ映画の影響ですか」
「あれは名作だろ?男のロマンだろ?空を飛ぶ石だぞ?」
「……はぁ。名作かどうかはともかく、男のロマンは自分にはちょっと理解できないっすね」
「マジか。お前は人生1/3くらい損してるな」
「おお、彼女居ない歴=年齢の先輩に人生のなんたるかを語られるとは!!」
「お前、マジでふざけんなよ!」
冗談でサッと手をあげたが、予想通り池田は笑いながらするりとかわす。
ガチでスポーツやってただけあって反射神経が凄いし、細身の身体に似合わず体力も有る。
さっきは軽口でぶっ飛ばすと言ったが、モヤシの俺には例え本気でも絶対に攻撃を当てられそうにない。
もともとそんな事やるつもりもないけど。
「……空から降るのは無理ですけど、女の子紹介しましょうか?」
池田の提案に思わず「池田様お願いします!」と言いそうになったがぐっとこらえた。
いくらモテないからって大嫌いな奴に女の子を紹介してもらうとかプライドがズタズタだ。
「うるせー、そんなの自分で探すよ。お前こそ紹介できるほどいるくせになんで彼女いないんだよ」
「……あー、まぁ……。」
「あれだ。特定の子と付き合うんじゃなくて何人とも遊んでるとか?クズだね~」
「先輩、20代なのに発想が完全にオッサンじゃないですか。可哀想に……」
ちょっと!俺が池田に意地悪を言った筈なのに返す刀で切りつけられたよ?
「違いますよ。……うーん、あれですね。例えるなら高嶺の花ですかね」
「うん?お前なら高嶺の花でも落とせるんじゃ?」
「わー先輩に認められて嬉しい♪でもそういう意味じゃなくて、ガチの高山植物で、超貴重な奴を想像してください」
「は?」
「その花がめちゃくちゃ高く売れるのでも、新種発見で名声を得られるのでも、不治の病を治せる薬でも何でもいいです。先輩はソレがもの凄く欲しいとします」
「なんかフワ~っとした話だな」
「先輩にとって"彼女"ってそういうフワ~っとした存在でしょ?」
「……お前マジでムカつくわ。伝説の存在みたいな扱いすんな」
何?返す刀でザクザクされてるの?俺?
「その花は高い山の険しい崖に生えていて、先輩は何日もかけて登山をして探し回らないと手に入りません。山を登って、やっと念願の花が崖の上にあるのを見つけます。崖の上まであと少し……ってところに」
「ところに?」
「自分が突然ヘリコプターで乗り付けて崖の上に降り立ちます。で、花を見つける」
「で?」
「自分は『おや、こんなところに綺麗な花が。名前も知らないけど記念に持って帰ろう。花瓶に活ければ三日くらいは持つかな』と気まぐれに摘み、ヘリに乗って帰ります。先輩は崖の中腹で取り残されます」
「……どういう事?」
「それくらい先輩にとって喉から手が出るほど欲しいけど手に入らないものが、自分にとっては簡単に手に入るけど無価値って事です」
「……」
意地悪を言った事に対して、池田の返す刀でザクザクどころか真っ二つにされた気分。俺、泣いていい?
「……先輩?」
「そんなに壮大な表現で、そんなに俺を貶めて楽しい?」
「あれ、意地悪すぎました?っていうか壮大な例え話、先輩が好きだと思って話したんですけど」
…………くそう!好きだよ!こういうの大好物だよ!!俺が貶められるのじゃなけりゃな!!こいつ本当にいけすかねえ!!
「あ、そろそろ自分、休憩終わりなんで行きますね」
「お疲れ」
ドアのところで池田は振り返る。
「意地悪言ってごめんなさい。先輩と話せて楽しかったです」
池田の冷たいけれど綺麗な微笑に俺はドキリとした。
「お、おう」
なんだよ、なんだか調子狂うな。イジってきたり、妙にしおらしくなったり……。なんだか気になっちまうじゃないか。
=======アキラside=======
休憩室を出たところで、顔がニヒャリと崩れる。
危なかった……。今日はいっぱい話せたから、クールなフリを続けられないかと思った。
「あ、池田君、休憩終わり?」
店長が声をかけてくる。
「はい!店長、休憩合わせてくれてありがとうございました」
「いいよいいよ。新居戸君と仲良くできた?」
「そうですね~。先輩の好きそうな例え話してみました。あの顔を見る限りでは結構楽しんでくれたと思うんですけどね」
「おっ。一歩前進だね。二人が付き合うようになったら祝福するよ」
「どうでしょうね。いまだに自分が先輩の事を好きなのを絶対に気づいてないですからね」
「新居戸君以外は全員気づいてるのにね。鈍いよね~」
「だから彼女できないんですよねあの人。まぁ男だと思われてる間に、ガッツリ気になる存在になってやります。フワ~っとした架空の"彼女"じゃなくて、ちゃんと現実の女として見て欲しいので」
「わー、怖い。絶対に新居戸君逃げられなさそう。さ、お仕事お願いします」
「はい。……いらっしゃいませ~」