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ゆりたちの交換日記  作者: 日々一陽
第4章 手を繋いで
33/35

第4話

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 しかし。


「そこを退きなさいっ!」


 突然、姫さまが強気に出た。


「しかしあの、千鶴さんを新聞部がお呼びで――」

「本人が行かないって言ってるのよ? それとも何? 私に楯突く気?」

「でも、姫さま――」

「退きなさいって言ってるのっ!」


 姫さまの剣幕にバスケ部が一瞬ひるむ、その隙を突いてふたりは駆けた。

 今度は万里子ちゃんが千鶴の手を引く。

 呆気にとられるゆりたちを尻目に体育館を出ると本館への通路を駆ける。背後から、さっきの連中が再び追ってくる。校庭の向こう、運動部棟の前に人がわらわらと出てきているのが千鶴の目に入る。きっと私を探しているんだ。この鬼ごっこ、全校のゆりたちが相手になってしまった――


「どこに逃げよう?」

「別館は文化部の巣窟ですから、プールへ参りましょう!」


 別館校舎の前の道を全力で抜けた。

 この先には講堂があって、講堂の横にはプールがある。まさか水泳部が水着のまま出てくることはないだろう――

 別館の角を曲がる。講堂を横目にプールを目指す。

 しかし。

 プールの手前まで来たところで、白いテニスウェアを着た一団がこっちへ向かってやってきた。


「ごめんなさい、プールの向こうはテニスコートでした」


 慌てて別館校舎の裏口へと飛び込むと建物を横切り武道場へと出た。

 左を向くと、ユニフォーム姿のゆりたちたちがきょろきょろと周囲を見回している。陸上部だ。鬼ごっこの相手としては分が悪すぎる。


「千鶴さ~ん!」


 大きな声に右を向くと、袴姿の剣道部員。確かクラスの朱美さん、って、竹刀持って大挙してこっち来ないで!

 ふたりは強く手を繋いだまま別館に舞い戻り、全速力で中を抜けると本館へと駆け込んだ。


「本館屋上なら」


 万里子ちゃんの声に屋上への階段を駆ける。しかし、3階へ向かう途中、上の階から白衣を着たゆりたちが降りてきた。


「あ、千鶴さん!」


 誰?

 顔は見覚えあるけど、私は貴女を知らないし。

 ともかく逃げなきゃ!


「千鶴さん待って!」

「待ちません~っ」


 2階の廊下へ出る。しかし、反対の階段へ向かおうにも、廊下の向こうからもクラリネットを手にした3人組。

「あっ、見つけたっ!」


 3人の中、七海さんが私を指差すと、周囲の連中が走り出した。


「降りましょう」


 ふたりは仕方なく1階へと舞い戻る。背後からは千鶴を呼ぶ声が聞こえる。

 全力で1階通路を左に曲がって一目散――

 ――

 ―― と。


 全身を覆う真っ黒な修道服。

 頭をすっぽりベールで包んだ、楚々と綺麗なシスターとバッチリ目が合ってしまった。


(やばっ!)


 千鶴は立ち止まることなくぺこり頭だけ下げると、ベクトルを90度変換してカフェテリアへの通路へと飛び込んだ。


「さっきの?」

「学園長先生です」

「やっぱり!」

「見られましたね」

「退学とか?」

「それはないです。でも生徒指導はあるかも」

「生徒指導って?」

「私は経験ないので」

「ごめんっ!」

「いえ、謝るのは私です」


 カフェテリアに出ると、そこに追っ手の姿はなかった。

 しかし、いずれここにも追っ手が来るだろう。

 さっきの連中にはここに来るのを見られているし。

 ただそこに学園長先生がいるから、誰も走って来れないだけだ。


「そうだ、安全な場所がありました」

「え?」

「こっちです。すぐ近くです」


 ふたりは手を繋いだまま、歩調を合わせてフェテリアを出ると、その横の建屋へと入っていった。



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