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ゆりたちの交換日記  作者: 日々一陽
第1章 みずいろの贈り物
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第3話

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 御前万里子さんのこと。

 見目麗しく、気立てがよくて文武両道。そんな完璧な女の子がこの世に実在するのかと思うくらいに結希さんは褒めちぎった。但し、時々わがままが大爆発するらしい。


「あれだけ何でも出来てチヤホヤされたら、誰だってわがままが出るわよ」


 なるほど、金持ちのお嬢さまで、綺麗だしお勉強もお運動もできるけど自己中心的。それって漫画や小説でもよくある設定だし、なんか妙に納得できちゃう。


 だけど「家庭教師」のことは結希さんも知らなかった。

 そして「令桜女学園にそんな隠し言葉はない」と言い切った。


「きっとそのままの意味よ、生き字引を信じなさい」


 胸を張った結希さんは、急に声を潜めた。


「姫さまの家庭教師ならバイト代凄いわよ」

「美味しいケーキも買えるかな?」

「ウェディングケーキだって買えるわよ。あんたどんだけ食べるつもり?」

「でも、私に教えられることって、ある?」

「家庭科とか」

「そんなので雇う?」

「じゃ、保健体育の保健もセットで」

「結希さんの中で私はどんな位置づけ?」

「癒やし系」


 千鶴は嘆息しながら、話を先に進める。


「それに、令女ってバイト禁止でしょ?」

「バレなきゃOKよ」

「バレたら?」

「校内引き回しの上、打ち首獄門」

「せめて島流しにして」

「ハワイ流しだったら代わってあげる」


 からりと笑った結希さんは、しかしすぐに真面目な顔に戻った。


「でも、おかしいわね。姫さまのノワールになるのは金色こんじきの姫君だって、もっぱらの噂だけど――」

「金色の姫君?」

「そうよ、うちのクラスの絵里花えりかさん」


 絵里花さんは昨年のクララ会役員、即ち姫さまの先代だ。

 ブロンドの髪にハッキリした目鼻立ち。結希さんの話では有名ファッション雑誌に大きく全身写真が載ったこともあると言う美貌の持ち主で、フランス人の血が混じっているそうだ。


「金色の姫君」と言うのは彼女の二つ名。

 令女ではクララ会の役員には必ず二つ名が付けられている。「何々の君」という風に、後ろに「君」が付くのは高等部役員の証、「何々の姫君」は中等部役員の証だそうで、だから役員のことを「君さま」と呼ぶこともあるそうだ。呼ぶ方も呼ばれる方も恥ずかしくないのだろうかと不思議になるが、令女のゆりたちは平然と、息を吐くように口にする。


「でも、令女で交換日記って、お一人様限定の独占契約なんでしょ?」

「そうなのよ。だから解せないのよ。あのね千鶴さん、怒らないで聞いて欲しいのだけど――」


 絵里花さんは成績優秀、その上フィギュアスケートの選手としても有能で、演技がテレビで生中継されたこともあるのだとか。お父様は不動産の会社を経営していて、30階建てのマンションの最上階をぶち抜いたペントハウスにお住まいと言う大したお嬢様なのだ。姫さまのお相手に相応しいのは、そんな金色の姫君を置いて他にはいない、と言うのがもっぱらの下馬評なのだと言う。


「それが、どうして私?」

「知らないわよ」

「月とすっぽんじゃない?」

「提灯に釣り鐘とも言うわね」

「やっぱり」

「冗談よ。月と6ペンス」

「私に6ペンスの価値がある?」

「流石にあるわよ。でも、6ペンスって、おいくらドル?」

「おいくらポンドじゃないの?」

「あ、そうか。おいくらポンドだ」


 と、ふたりそんな会話をしていると、前の扉が開いた。


「ごきげんよう」


 堂々と姿を現したのは、今まさに噂をしていた金色の姫君・佐木絵里花さきえりかさんだった。

 輝くようなブロンドに溌剌とした碧い瞳、美しくすらりと立つその姿は、セーラー服を着たフランス人形。


「本人に聞いてみない?」


 小さな声で千鶴は伺う。


「下馬評知ってますかって?」

「うん」

「これって微妙な問題よ」

「やっぱり」


 ヒソヒソふたり話していると、鞄を持ったまま絵里花さんが寄ってきた。


「ごきげんよう、結希さん、千鶴さん」


 彼女は優雅に微笑んだ。


「ごきげんよう絵里花さん」

「ごきげんようでございます絵里花さん!」

「あら、千鶴さんはまだ令女にお慣れにならないようね」

「千鶴さんの挨拶は、丁寧さを表現してるのよ。ねっ!」

「そーなんです!」


 愛想笑いを浮かべながら千歳は焦っていた。聞こえたはずはないのだけれど、さっきまでうわさ話をしていたものだから。

 それに、絵里花さんったら美人の上に胸もおっきい。目の前にぐいっと迫る柔らかそうな膨らみに心臓がドクンと高鳴っちゃう。


「千鶴さん、お顔が赤くありません?」

「いえ、そんなことは」

「おやまあ、ホントに真っ赤になっちゃって」

「結希さんまで」

「まさか千鶴さん、絵里花さんのことが?」

「ちっ、違うわよ」

「そうよね。千鶴さんはこの私と永遠の愛を誓ったばかりだものね」


 何故か小指を絡めてくる結希さん。


「誓ってません」


 千鶴は頬を膨らます。


「あらまあ、お二人はもうすっかり仲良しですのね。羨ましい」


 では、ごきげんよう―― 

 と優雅に会釈をして、金色の姫君は去って行った。


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