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ゆりたちの交換日記  作者: 日々一陽
第3章 優しさの伝え方
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第2話

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 翌朝、千鶴はバスに揺られて丘を下りる。

 この路線で令女に向かうのは少数派だ。多くのゆりたちは電車を使って近くの駅から歩いてくる。駅はN大学の正面にあり、駅から令女への最短ルートはN大学のキャンバスを横切るルートだ。国立大学であるN大学は構内侵入に寛容で、朝も夕も令女のセーラー服が堂々と列をなしてN大キャンバスを横断する。


 学園前のバス停で降りた千鶴は、道を隔てたN大の方から呼び止められた。そこには千崎結希さんと佐木絵里花さんが並んで仲良く手を振る姿。ふたりともN大キャンパス横断組なのだろう。

 千鶴も手を振り、ふたりが来るのを白いアーチ門の下で待った。

 千鶴の下駄箱には、すでにあの水色の日記帳が忍んでいるかも知れない。

 だからといって、ふたりを無視して先に行くわけにもいくまい。


「ごきげんよう」

「ごきげんよう」

「ごきげんよろしゅうございます」


 ええい、なるようになれ!

 千鶴はふたりと並んで歩き出した。

 登校時間としては、かなり早めのこの時間、前を行く人はほとんどいない。

 曇った空は今にも泣き出しそうで、絵里花さんの手には青い傘。


「いつもより早くない?」


 千鶴はふたりに問いかける。


「私はちょっと用があって」

「実は私も――」

「用って?」

「「それは……」」


 見事にハモって顔を見合わせる結希さんと絵里花さん。

 結希さんの用事はおおよそ想像が付いた。きっと部活がらみだろう。新聞部にどっぷり浸かってるみたいだし。

 絵里花さんの方は、もしかしたらだけど、日記を返すためかも知れない。

 昨日、たくさん申し込みを受けたってうわさだ。たくさん受けても、お一人様以外はお断りしないといけない。だから誰にも見られないように気をつかって早く来た、と言うのが千鶴の推測。


「千鶴さんはいつも早いよね。バスの時間の都合?」

「それもあるけど、早いと洗面とか食堂が空いてて楽なの」

「そっか、寮だもんね」

「寮?」


 あ、絵里花さんには話してなかった。

 と言うか、結希さん以外には教えてない。

 別に隠している訳じゃないのだけれど。


「私、令桜女子大の学生寮に入れてもらってるんです」

「あっ、ああ、そういうことね。ごめんなさい、失礼したわ」

「失礼なことは何もないです」


 金色の姫君に恐縮されると千鶴の方も恐縮してしまう。

 いつも親切にしてくれているのに隠すみたいになってしまった自分が悪いのにと。

 3人は壁面のステンドグラスを見上げながら白い本館に入る。

 下足場で靴を脱ぐ。

 そうして3人は靴を手に一年月組の靴箱の前に立つ。

 結希さんの靴箱は千鶴のひとつ下、絵里花さんのはひとつ隣だ。


「お先にどうぞ」

「いえいえ、千鶴さんから」

「じゃあ結希さんから」

「なに譲り合ってるのよ!」


 ニヤニヤとふたりを交互に見た結希さんは「それじゃお先に」と自分の靴箱を開けた――

 と。


「……え?」


 彼女は茶色のローファーを手にしたまま、靴箱からピンク色の日記帳を取り出した。


「え、あ…………」


 さっきまでの、野次馬的なニヤニヤ顔はどこへやら、あたふた上履きに履き替えると「お先に失礼」と言うが早いか、走るように去って行った。


「結希さんも隅に置けないわね」

「みたいですね」

「私、後ろを向いてますから、千鶴さんからどうぞ」


 先を譲られた千鶴は自分の靴箱に手を掛けようとして、ふと隣にある絵里花さんの靴箱が気になった。盗み見をしようとしたのではない、扉が開きかかっていたから。


(これ、中で日記帳が溢れかえってるんだ)


 気づかないふりをして千鶴は自分の靴箱を開ける。

 中には水色の日記帳。

 たった一日離れただけなのに懐かしく感じる。

 千鶴はそれを抱えると、絵里花さんの背中に「お先に失礼」と言い残し、その場をあとにした。



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