第4話
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何とか逃げ切り、教室に戻った千鶴を待っていたのは、結希さんの高速連射砲だった。
「どこ行ったの? 何があったの? どうしてランウェイの君が? 知り合い? 挨拶しただけってどういう――」
「ちょっと待って。私、何から答えればいい?」
「全部同時に」
「ムリよ」
「聖徳太子なら同時に喋るわ」
「んな訳ないでしょ」
「ともかく話してもらうわ!」
結希さんは教壇辺りで問い詰めてくる。
「あのあと大変だったのよ。一部のギャラリーが絵里花さんを質問攻めにするし、私だってみんなに攻められて……」
「ちょっと待って、どうして絵里花さんが?」
「姫さまと一番近しいでしょ」
「巻き添え?」
「とばっちりね。それよりランウェイの君とはどういう仲なの?」
千鶴は周囲に目をやった、ふたりはクラス中の注目を集めていて、何人かのゆりは近くを取り囲むように立っている。
「どういう仲でもないわ。彩子さまは誤解を解こうとしてくれただけよ。皆さん!」
千鶴は立ち見のクラスメイトに向いて少し大きな声を出した。
「お騒がせしてごめんなさい。姫さまとのことについては、今は黙って見守っていて頂けませんか。お願いします」
深々と頭を下げる千鶴にクラスメイトたちは逆に驚いた風。
「わ、分かったわ」
「頭をお上げになって」
「こっちこそごめんなさいね」
あっという間に包囲網は散った。
「あ~もう。そんなことしたら私も突っ込めないじゃない。ともかく席に着きましょ!」
結希さんは千鶴の手を引っ張って席へと戻った。
そうして今度は小さな声で。
「新聞部に何て報告したらいいのよ?」
「報告?」
「言ったでしょ、私は千鶴さん番記者なの。新聞部の超大型新人としては知ってること全部喋りたいけど、そうもいかないでしょ?」
「ありがとう結希さん。私はいいお友達を持って幸せです」
「そういうところよ、もう、やりにくいったらありゃしない。でも、部員としての務めは果たさないといけないのよ」
さすがは新聞部の超大型新人、右手に鉛筆、左手にはメモ帳が握られている。
千鶴はフラワーホールでのことを思い返した。声を掛けてきた新聞部のスッポン部長さまは私のことを知っていた。だから声を掛けてきたのだ。しかし彩子さまは質問を遮って連れて逃げてくれた。結希さんが新聞部に行ったら、絶対に私のことを聞かれるだろう。そしてもし、そのことを知らなかったら「千鶴番」としての彼女の立場は危うくなるに違いない。まさかクビとかはないだろうけど。でも結希さんに罪はないし、それはちょっと可哀想……
「フラワーホールで牛さん印を奢ってもらった」
「ああ、美味しいコーヒー牛乳ね」
「有名なんだ」
「で、それから?」
「スッポン部長さまに声を掛けられた」
「紗和さまが?」
「スッポン部長で分かるの?」
「当然でしょ! ハイエナのように獲物を探し、蛇のように噛みつき、スッポンのように放さない、が新聞部のモットーだもの」
「やな部ね」
「で、紗和さまにインタビューされたの?」
「されそうになったけど、逃げた」
「逃げた?」
「彩子さまが手を引っ張ってくれて、走って逃げた」
「ええ~っ!」
結希さんが叫ぶと同時に午後が始まるチャイムが鳴った。
「あとで詳しく!」
慌てて教科書を取り出すと、数学のチャーリー先生が入ってきた。