第11話
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「気になる部活はありまして?」
幕が下りると、絵里花さんが口を開いた。
「いえ、特には」
「あら、千鶴さんにはアピール不足でしたか」
開放されたゆりたちがざわめく中、ふたりも並んで立ち上がる。
「いえ、そう言うわけじゃなくて――」
千鶴は少し後ろめたい気持ちになった。
紹介がつまらなかったわけじゃない。どこも凄く面白かった。ユニフォーム姿で球技の実演をしたり、着ぐるみ姿で踊ったり、突然ミュージカル風に歌い出したり、コントで笑わせたりクイズ形式だったり。
けれども、開会の挨拶を聞いてからというもの、千鶴の気持ちは上の空になってしまったのだ。
幕が上がると、壇上には3人のゆりたちが並んでいた。
高等部三年の吉野香子さまと昼休みにお会いした和泉彩子さま、そして中等部三年の御前万里子さん。クララ会三役員の揃い踏みだ。
真っ先にマイクの前に進んだのは万里子さん。
背は千鶴よりも高そうだ。背中まで伸びる黒髪は真っ直ぐ艶やかで。これだけの聴衆を前にしても堂々として微塵も臆さず、黒曜に喩えられる切れ長の瞳で会場をゆっくり見回した。
これが中学生かと思うほどに落ち着き払って、ある意味、可愛げの欠片もない。
しかし、昼休みには怖いとまで思ったその美貌が、千鶴を捉えて放さなかった。
白百合のように清らかで、じっと見ていると魂が抜き取られそう。
ああ、姫さま――
後ろの席からは、そんな声すら漏れてくる。
その姫さまは中等部の代表として挨拶をした。
原稿には一度も視線を落とさず、真っ直ぐ会場を見据えて、感情豊かに語りかける。
正直、かっこよかった。
凜として、堂々として、大人びて。
私なんかより遙かに、断然、月とすっぽん――
ミサキ電器と言えば、千鶴の家にあったテレビも冷蔵庫も掃除機もミサキの製品だった。最近では先進のAIを駆使した革新的な本格ロボットが大評判らしい。そんな日本を代表する会社のお嬢さまと、身寄りすらない私とでは、日々の暮らしも違うはず。きっと見るのも聞くのも食べるのも、そして朝に見る夢までも全く違うんだろう――
スピーチの途中、千鶴は幾度も姫さまと目が合った気がした。
だけどそれは気のせいで、きっと隣の絵里花さんへ向けた視線だと思う。
2分ほどの、短いけれど力強いスピーチが終わると、割れんばかりの喝采が沸き起こった。
なるほど完璧なのは見た目と家柄だけじゃない。姫さまと呼ばれるのも頷ける。
そんな彼女に申し込みを受けたんだと思うと、千鶴の気持ちは複雑になる。
どうして私だったのだろう?
絵里花さんだったらお似合いなのに。
絵里花さんは素敵なお嬢さまだ。家柄だけじゃなくて気さくで優しくて、殿上人だったから人気も抜群だし、胸だって私なんかより断然――
帰り道。その絵里花さんと一緒に歩きながら、彼女もそれを望んでるんじゃないかと思うと、申し訳ない気持ちが溢れてくる。
「ご一緒できて良かったわ。これからも仲良くしてくださいね」
「はい、こちらこそ」
千鶴が手を差し出すと、絵里花さんは一瞬不思議な顔をしたけれど、すぐに笑顔でその手を握ってくれた。




