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ゆりたちの交換日記  作者: 日々一陽
第1章 みずいろの贈り物
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第11話

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「気になる部活はありまして?」


 幕が下りると、絵里花さんが口を開いた。


「いえ、特には」

「あら、千鶴さんにはアピール不足でしたか」


 開放されたゆりたちがざわめく中、ふたりも並んで立ち上がる。


「いえ、そう言うわけじゃなくて――」


 千鶴は少し後ろめたい気持ちになった。

 紹介がつまらなかったわけじゃない。どこも凄く面白かった。ユニフォーム姿で球技の実演をしたり、着ぐるみ姿で踊ったり、突然ミュージカル風に歌い出したり、コントで笑わせたりクイズ形式だったり。


 けれども、開会の挨拶を聞いてからというもの、千鶴の気持ちは上の空になってしまったのだ。

 幕が上がると、壇上には3人のゆりたちが並んでいた。

 高等部三年の吉野香子さまと昼休みにお会いした和泉彩子さま、そして中等部三年の御前万里子さん。クララ会三役員の揃い踏みだ。


 真っ先にマイクの前に進んだのは万里子さん。

 背は千鶴よりも高そうだ。背中まで伸びる黒髪は真っ直ぐ艶やかで。これだけの聴衆を前にしても堂々として微塵も臆さず、黒曜に喩えられる切れ長の瞳で会場をゆっくり見回した。

 これが中学生かと思うほどに落ち着き払って、ある意味、可愛げの欠片もない。

 しかし、昼休みには怖いとまで思ったその美貌が、千鶴を捉えて放さなかった。

 白百合のように清らかで、じっと見ていると魂が抜き取られそう。


 ああ、姫さま――

 後ろの席からは、そんな声すら漏れてくる。


 その姫さまは中等部の代表として挨拶をした。

 原稿には一度も視線を落とさず、真っ直ぐ会場を見据えて、感情豊かに語りかける。

 正直、かっこよかった。

 凜として、堂々として、大人びて。

 私なんかより遙かに、断然、月とすっぽん――


 ミサキ電器と言えば、千鶴の家にあったテレビも冷蔵庫も掃除機もミサキの製品だった。最近では先進のAIを駆使した革新的な本格ロボットが大評判らしい。そんな日本を代表する会社のお嬢さまと、身寄りすらない私とでは、日々の暮らしも違うはず。きっと見るのも聞くのも食べるのも、そして朝に見る夢までも全く違うんだろう――


 スピーチの途中、千鶴は幾度も姫さまと目が合った気がした。

 だけどそれは気のせいで、きっと隣の絵里花さんへ向けた視線だと思う。

 2分ほどの、短いけれど力強いスピーチが終わると、割れんばかりの喝采が沸き起こった。

 なるほど完璧なのは見た目と家柄だけじゃない。姫さまと呼ばれるのも頷ける。

 そんな彼女に申し込みを受けたんだと思うと、千鶴の気持ちは複雑になる。


 どうして私だったのだろう?

 絵里花さんだったらお似合いなのに。

 絵里花さんは素敵なお嬢さまだ。家柄だけじゃなくて気さくで優しくて、殿上人だったから人気も抜群だし、胸だって私なんかより断然――


 帰り道。その絵里花さんと一緒に歩きながら、彼女もそれを望んでるんじゃないかと思うと、申し訳ない気持ちが溢れてくる。


「ご一緒できて良かったわ。これからも仲良くしてくださいね」

「はい、こちらこそ」


 千鶴が手を差し出すと、絵里花さんは一瞬不思議な顔をしたけれど、すぐに笑顔でその手を握ってくれた。


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