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忘却戦記  作者: なすおた
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2-2

 僕たちは機材を回収して、大きな台車を押しながら町へと向う。

 町は遠くないが、重たい台車を押しながら土道を歩くのはなかなかに骨が折れた。

 森を抜け街道に出ると、さっきまでは感じなかった潮の匂いがするのは、セレナは魚介が美味しいと言っていたことから海が近く、美味しい海魚が取れるからだろう。

 ビアルセナ地方がどんな場所かは知らなかったが、南西部と言うことから温暖な気候で海からは豊富な魚介が捕れるのが想像できる。


 「ふぅー、ようやく着いた。ここがビアルセナ地方の観光地リーアナの町」


 遠くから見ててわかっていたが、小さな町で漁港と観光で成り立っている町だろう。



 「後は倉庫でデータを取り出して、今日の作業は終わり! 病院に向かいましょう」


 倉庫に向かい機材にケーブルをつなぐと、データが紙に印刷されて、セレナは確認しながら「問題はなさそうね」と頷いていた。


 「じゃあ長らくお待たせしちゃって申し訳ないけど、今から病院に向かいましょう」


 と言うが、僕としては今更のような気もした。


 「体に不調はないから行く必要はないんじゃないかい?」


 「私もさっき見た限りだと生命に関係する不調はないと思うわ。なんならリーアナのお医者さんより、研究所の職員である私の方が専門かもしれないし」



 「なら――」


 「でもリーアナの近くで見つかったツカサの事だから、もしも前に一度でも病院に行ったことがあるなら、記録が残ってるかもしれないし」


 考えていなかったが、僕が記憶喪失でも今まで生きてきた記録は残っているわけだ。

 病院に向かい僕は検査を受けたのだった。

 その後、時間は変わり夜になって、二人は落ち込みながら泊まる宿の食堂にいた。

 落ち込んでいた理由は僕についての話で、病院に行った後も色々調べたが、


 「まさかこんなに調べてもツカサを知ってる人がいないなんて」


 結果は散々で、病院に記録はなく、町の住人達に聞いて回ったが知り合いはおろか顔すら見たことないという有様であった。


 「ツカサはここの生まれじゃないようね……」


 すぐにわかると思ってた分、落胆は激しい。



 「ならなんで僕はあんな場所で倒れていたのだろうか」


 「問題はそこよねー。生まれじゃないにしろ森の遺跡に居たんだから必ずこのリーアナの町は通ってるだろうし、それなのに誰も顔すら見た事ないって言うんだから」


 「突然現れたってことになるのかな」


 「うーん、もしかして転移に関係する魔法を使ったとか? でも転移の魔法は成功したって例を聞いた事がないし、あ! 失敗したから記憶喪失になったりしたのかも」


 セレナの言葉に首を傾げた。

 ここまで良くしてくれたセレナが、僕に間違ったことを言うとは到底思えないが、頭の中の疑問を率直に聞いた。



 「あのー、さ? ずっと聞きたかったんだけど、魔物とか魔法とかってなに?」


 「え?」


 驚いた顔をして固まるセレナ、ただ真剣に聞いている僕の顔を見て聞き返してくる。


 「いや、そんな魔法も魔物も知らないってことはないでしょ? 今の時代魔法がないと生活だって不便だろうし」


 「ごめん、それでもわからなくて」


 「いえ、別に馬鹿にしたわけじゃないわ、こちらこそ配慮が足りなくてごめんなさい。ただ魔法が世界に普及して300年近く経った現在で、どこを見ても魔法魔法って言うくらいなのに知らずに生活はどうしてたのかって」



 本当に疑問と言いたげであったが、セレナは閃いたようで。


 「あ! 記憶喪失になったから、魔法を覚えていないってことなんじゃ?」


 「多分違うと思う……魔法以外の日常的に使うことは忘れてないから、最初から僕は魔法を知らなかったと思うんだ。例えば病院って単語は覚えてるし、利用する目的も覚えてる。だけど魔法というのは全くわからないんだ」


 「なるほど、本当に知らないみたいだし魔法と魔物について教えてあげるわ」


 「教えるって、今ここで?」


 食堂の机の上、まだ料理は注文していないところだ。



 「軽い講義みたいなものだから、お酒の肴程度に聞けばいいわ。それに私実技より座学とか研究の方が得意だから! すみません、生二つに本日のおすすめメニュー三品で」


 「いや、お酒の肴程度って」


 「あれ? ツカサはお酒飲まない? もしかして飲めない?」


 「の、飲めるけど」


 「ならよかった! 私かたーい感じの話し合いとか苦手なんだよねー」


 まぁ、今日一緒にいたセレナらしいと言えばセレナらしい雰囲気だ。



 「魂を持った生物には魔力というものが多かれ少なかれ備わってるの」


 「魔力、魔法を使うための力ってこと?」


 「そうそう。魔力ってエネルギーの塊で、それを魔法式を通して魔法を使うの」


 「魔法式?」


 「魔法を使う上で一番大切なのが式。式を通さないといくら魔力を持った生物でも魔法を使うことはできないの。お! ビールと料理がきたきた!」


 店員さんが注文したお酒と料理を運んでくる。



 「とりあえず乾杯しておく?」


 「そうね! えっと、ツカサとの出会いに!」


 「セレナとの出会いに」


 「「乾杯!」」


 来たばかりのビールを喉に流し込む。

 一日歩き疲れた身体に、冷えたビールは格別に美味しく感じた。

 記憶を辿ると、僕はあまりお酒を嗜むことはしてこなかったはずだが、そんな僕でもあまり苦みを感じず柑橘系の爽やかな味わい、それでいて甘すぎない味で飲みやすい。



 セレナに至っては乾杯の勢いのままごくごくとジョッキを傾けて飲み干してしまう。


 「すみません! ビールおかわり!」


 勢いよく美味しそうに幸せそうに飲んだセレナを見て、こっちまで楽しくなる。


 「良い飲みっぷりだね。お酒が好きなんだ」


 「大好き! 仕事柄色んな地方に出張するから、各地の名産を楽しむのが趣味になっちゃって。このビールもリーアナが町おこしの一環で作った地ビールでね! 誰でも飲みやすい味わいが特徴なんだよねー」


 「そうだね。こんな美味しいビールは初めてかもしれないよ」


 「よかったー、ならビール飲んだあとにこの白身のお魚を食べてみて」


 言われた通りにビールを一口、お魚を一口食べる。


 「なるほど、淡泊で肉厚な白身を軽く油で焼いた味はビールとよく合うね。それに味も濃くないからビールの旨味を引き立ててるようだ」


 「そうでしょ? で、話を戻すけど魔物の説明をしようと思うの」



 なんで話を戻したのかわからなかったが、素直にセレナの話に聞き入る。


 「さっき魔法を使えるのを人間とは言わず生物と言ったのは、動物や魚だって基本的に魔力を持っているの」


 「でも式を通さないと魔法は使えないんだよね? いくら魔力を持っていたとしても、式を書くほどの知能があるとは思えないよ」


 「式というのは結局のところ魔力を変換する方法で、式は慣れてくると何もないところでも魔力で空中に導線のように書けるの、こんなふうにね」


 空中に文字を書くように指を動かして、人差し指を立てると先端に光が生まれた。

 僕が起きた時使っていた魔法だ。


 「今は指で書いたけど、程度によっては慣れてくると、自身の魔力を空中で動かして式の形にして即座に使えるわ」


 今度は逆の手の人差し指を立てた瞬間、光が発せられた。


 「魔力というのは魂の持つ力、それをコントロールすることで魔法を使うの」


 光る指の先端同士をぴっとつけて、またすぐに離す。


 「はい消えた。初めて見る人には手品に見えるかもね」



 手品どころの話ではない。

 原理を聞いたところでわからないが、僕にも魔力があるはずだし使えるのか?


 「そして動物も餌を取るために、長い歴史の中で本能的に魔法を使う種族が生まれ独自の進化を経るようになったの」


 「それが魔物?」


 「そうそう。ついでに言えば今食べたこの魚、実は分類的には魔物なんだよね」


 「え!? 魔物?」


 「魔物と言っても魔法が使えるだけで魚は魚なのよ。むしろ魚自身の魔法で筋肉を強化してるから、他の魚より引き締まってて美味しいくらい。場所や種類によっては魔物は珍味って言われてるし」


 魔物という名前から恐ろしい化け物を想像していたが、魔物って食べれるんだ……


 「ちなみにこの魚は、リーアナの近海に生息するリーアナペイルフィッシュと言ってリーアナの特産物で、逆に言えば魚に合う味として作ったのがこのビールなんだけどね」


 食事の情報を聞きながらだとより美味しく感じられる。



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