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青侵す赤

作者: 鈍痛

繰り返す。何度も。繰り返す。それは、痛みが伴い、何度も死を覚悟する。

慣れる事は無い。目を開ければ痛く、息を吸えば水が身体を侵して行く。涙なのか、水なのか、今の僕には理解できない。考える事が出来る脳が未だに生きろと痛みを与えてくる。身体を侵して行く水は、僕の生命を奪っていく。

水面に浮けば、息を吸えた。けれど、薄い。とても寒くて、薄くて、痛くて。

潜ればまだましだった。ましなだけで、地獄には違いなかった。

重たい身体、水の侵入。水生生体の往来もある。何度も丸呑みされ、吐き出され、死んだ。

だけど僕はまだ生きている。死に返りを何度も、何度も。痛みを与えながら、僕は水に、空気に、全てに、殺され続けている。



海は、好きだった。

うちから眺める海原、島、空、大好きだった。



ある日、突然水に起こされた。間違っていない。眠っていたら、水の中にいた。海ではない。しょっぱくない。淡水だ。汚くはない。程よく水は澄んでいた。

水の中にいて、目を開けたら痛かった。息もままならなくて、急いで水面に出た。

空は曇っていた。顔面を叩く雹に、僕は殺された。

目が覚めた。水の中で。また水面に出た。雷が落ちてきた。直撃だった。死んだ。

数を数えるのに、意味はなかった。すぐ死ぬから。気が付かないうちに死ぬこともあった。目が覚める前に、痛みがあった。水の中の音が、鮮明になったと気がついたのは声を聞いた気がしたからだ。まだ、僕には何かを聞くという耳があったらしい。視線、いや、顔を向ける。赤い視界は固まっていた。それが自分の血だと気がつくのにどれほど死んでからか。だって、何度死んでも身体は動くから。感覚はあったから。

痛かったから。苦しかったから。


「がぼ」


自分の吐き出した音と認識した。鮮明にわかる。水の波打つ音は静かで、それよりも笑い声や悲鳴、営みと気がつく。生きている誰かの存在に、やっと気づいた。

身体を動かす、息が出来なくなる、が、少し喉が痛むだけで苦しくはなかった。自分の身体を水で満たされているのだと気がついた。気がついた瞬間視界が暗くなり意識が飛んだ。あ、死んだ。

揺蕩う感覚に、ゆっくり目を開ける。視界が、赤い。ああ、これはもうそういうものなんだな、と分かった。そうか。僕の視界は赤いままなんだな。と頭が感じた。

少し、余裕が出てきた。それは気持ちの問題で、死は避けられなかった。原因はどうでもよかった。ただ、痛みを必ず伴うのが嫌だった。だけど、それ以外に生きているか死んだのか、わからないから無くなるのも嫌だった。

声は、いつも遠かった。近い時は怒号か悲鳴か。何故なのか。

それは視界が赤くなってかなり経ってわかった。僕に触れた部分が、壊死するのだ。みるみる腐って溶けてしまう。僕に近付く存在が少なかったのは、そういうことだった。

ゆっくりと、此処が僕の知る世界とは違うのだという考えを持てるようになった。

身体はボロボロになったカッターシャツに、ズボン。最後に眠った夜にそんな格好をしていた様な、していない様な。裸足だった。胸、心臓辺りが固くて、見たらそこだけ何かが凝固していた。

死なない。気がついたら、死ぬ回数は減っていた。意識が長く続くようになっていた。


「が…」


吐き出したら、空気が出なかった。声だけだった。

身体が、浮遊感を覚えた。視界を確認するために顔に触れた。顔がなかった。仮面が僕の顔だった。口はあった。いつも呼吸をしようとしていたからだった。



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