本来の目的を果たす『アリシアの笑顔のために出来ること』
少しだけ長めになったかもしれません
「悪い、ちょっと遅れた…アリシアはまだ寝て……?
って、どうしたんだ?ヒナとアリサ…
なんか二人とも機嫌が良さそうだけど、俺がいない間なんかあったのか?」
「「ううん、なんでもない(です)ソーマ」」
俺は爺やを助けてから急いで、アリサたちが待っているこの場所まで走って帰ってきた
するとなぜか、アリサとヒナの二人ともが機嫌良さげだったので、俺がいない間に何かあったのか?と思ったのだが…
二人して「なんでもない」と言ってきたのだ
それも俺に初めて向けたであろう優しい笑顔で…
俺は不覚にも彼女たちの笑顔に見惚れてしまったが、今はそんな場合じゃない
とりあえずはここに来た目的、その目的を達成するためにも今は急がなければならないのだ
「あ、ああ…なにもないならいいんだ
それよりも!早くここから離れるぞお前たち
早くここを離れないと奴らに捕まる可能性がある
マルスも連れてさっさと行くぞ」
俺は二人の方を見て、少しだけ焦ってそう話す
爺やの方でちょっと時間を使い過ぎて、結構この場に留まり続けてしまっているのだ
このままでは奴らに追いつかれるのも時間の問題…
「…っ!、ヤバイ!もう近くまで来ちゃったか!
クソッ!どうすれば…『ソーマくん!早く乗ってくれ!アリサにヒナも!』マルス!馬車を持ってきてくれたのか!これはありがたい!」
俺はどうしようかと、本格的に悩み始めたタイミングで、ちょうどマルスが馬車を動かしてこちらまで来てくれたのだ
そして俺はアリサとヒナ、二人の手を引いて、そのまま勢いよく馬車の中に転がり込む
その間、ヒナの腕の中で寝ているアリシアがしっかり寝ているのを確認する、ということも忘れずにだ
「よし、このまま目的の場所まで飛ばしてくれ
これでアイツらからは逃げられるだろうし…
それにしても、助かったぞマルス
お前が馬車を取ってきてくれてなかったら、危ないところだった」
俺は馬車が動き出し先程の場所を離れ、もう奴らに追いつかれる心配がなくなったという段階で、マルスにそう話しかける
「ああ、そのことは気にしなくても大丈夫だよ
ソーマくんが戦いの途中…音がする武器や派手に光が発生するようなものを使用した段階で、その目的をある程度分かってはいたからね
それよりもそんな風に考えることが出来た、ソーマくんの発想の素晴らしさの方を感心してしまうよ」
「へぇー、そこまでマルスは分かってたんだ
やっぱりこのチームのリーダーはマルスで正解って感じだなホントに
俺がするよりも先に盗賊の奴らを縛ってたし、自分の役割をしっかり理解した人員を置いていく…
俺にはマルスの方がよっぽどコイツのことも考えられてて立派に見えるけどな」
と、俺は未だヒナの腕の中で眠り続けるアリシアの頭を優しく撫でつつそう話す
盗賊を倒した後、しっかりとその盗賊が逃げたり、襲ってきたりしないよう縄で縛り付けるという『注意力』
自身は精神的にも余裕があるため、先程の戦いで気付かないうちに精神をすり減らしていた二人を、仲の良い二人だけにする事でその精神をリラックスさせ、回復に向かわせるという『気配り』
そして、俺が戦闘中に使用していた武器の二次的に狙っていた効果を理解してから、ちゃんと行動に移すことの出来るこの『行動力』と『発想力』
これらを持ち合わせているマルスは三人の中でも、やはり一番冷静に状況を理解・把握して動けていた
それは、この中で一番リーダーとしての適正が高いということを意味している
まだまだ戦い方などは粗い部分も目立つが、いずれそれも少なくなり、マルスはいいリーダーになれるだろう
それと…馬車で先程の場所を急いで離れようとしていたということは、まだマルスは『目的』を諦めていない
そう考えれば、マルスの方がよっぽどアリシアのことを考えられて……
「ね、ねぇ!ソーマ?マルスとはそれぐらいで…
それよりも!私たちは一体何から逃げたっていうの?
あの盗賊たちならあれで全員じゃないの?もしかして他にも盗賊がコッチに向かって来てたっていうの?」
俺とマルスがお互い謙遜しながら、互いを褒めあっていると…、俺の隣に座っていたアリサが俺の服の袖を引いてそう話しかけてくる
数時間ほど前までは、俺と一切口を聞かないといった態度だったアリサが普通に話しかけてきたことに少し驚いたが…
まあ忌避感よりも疑問の方が勝ったのだろう
俺はそう勝手に自分の中で納得してアリサの問いに答える
「いや、別にそんな奴らじゃない
俺たちがあそこから逃げてきたのは…
おっ!そんな事を言っていたら、ちょうどアイツらがあそこまで来たな…
ほら、俺らが逃げたのはアイツらが来るからだ」
俺は馬車の窓から見えた奴らの存在に気付き、論より証拠と、アリサに俺が見ている窓の外の風景の先に見えるものをそう言って指差す
そして普通の人からはギリギリ見えるか見えないかの限界、そこを指差しアリサに見せようと身体を半身引くと…
「うーん?あれは……、何かしら?
ちょっと遠くてよく見えない…、うんしょっ!
あっ!これで見え……、えっ!?あれは!」
アリサは引いた俺の上半身の上を跨ぐ形で、俺の横の窓を覗き込んでいたのだが…
少し覗き込むだけでは見づらかったのだろう
あろう事かアリサは俺の膝の上に身体を押し付けて、俺の膝に横向きでのし掛かるような体勢で窓の外を見出したのだ
本人は気づいていないが、その形の良いお尻がぷりんと俺の前に差し出されているようにも見えてしまう
アリサが覗き込もうと動くたび、ふるふると揺れるのが非常に目の毒だ
俺はなんだか見てはいけない物のような気がして、お尻から目を離し、車内の他の物に目を移して…
俺のことをジッと見ていたヒナとバッチリ目が合う
あっ!これはセクハラ、変態と罵られるなと、ヒナからのお叱りの言葉を待っていたのだが…
どうやらヒナは別のことの方が気になっているようで
「どうして私がアリシアさまを抱っこしたままなのですか…別に寝かしつけるだけであればアリサさんやマルスさんでも…
いえ、別にそれが嫌と言う訳ではなく…でも……
あんなに引っ付いて、アリサさん…ばかり……」
と、なにやらぶつぶつと呟いて、俺のことを…
正確には俺とアリサの身体が密着している膝の上の方をジッと見つめている
なにやら俺に変態とか怒ってくるわけではないようなので、特には触れずそっとしておこう…
俺はヒナから目を離し、再びアリサを見ると
「あれって…、やっぱり王国の警備兵よね?
それから私たちが逃げてる理由って…なに?
別に私たちはあの盗賊たちを正当防衛しただけで、
なにも捕まるようなことはしていない筈だし…
一体なんで逃げてきてるの?」
と、こちらもぶつぶつと呟き、アリサは不思議そうに窓の外に映る…先程自分たちがいた場所で縄で縛られていた盗賊たちを調べたり、周辺を散策している警備兵たちのことを見ている
色々と気になることもあるが…(特にアリサの身体の柔らかさとか)、分かってないアリサにいくつかヒントをやるか
そしたら、早く元の位置に座り直してくれるだろうし…
「じゃあアリサ、ヒント1つ目だ
俺たちは、アリサの言う通り、悪いことはもちろんしていない…なぜなら正当防衛だからだ
でも、俺たちがあそこにいれば確実に捕まっていた
…ではそれはなぜか?」
「それは…、もしかして私たちがあの人たちから…事情聴取みたいなのを受けるから…とか?」
アリサは自分の発言に自身がなかったのだろう…
アリサは振り返って俺にそう答えると、どこか不安げな顔で俺の答えを聞きたそうにしている
つり目気味の目が、少しだけふやっと八の字のように下がっているのが可愛らしい
俺は不覚にもその様子に見惚れてしまったのを誤魔化すように、少し大げさに「正解!」とアリサに伝える
しかしそれでも答えに辿り着かず、ウンウン唸っているアリサに、次なるヒントを与えることにする
「まだ分からないアリサに、ヒント二つ目
その事情聴取、それは誰が一番話を聞かれると思う?いや、誰の発言が一番重要なものになると思う?」
「誰って…それはアリシアさまの発言でしょ?
確かにマルスや私たちはただの冒険者な訳だし…
一番はやっぱり姫さまの発言が大切だと思うけど、なんでそれがあそこから逃げた理由になるの?」
アリサはそう言って、全然理由が分からないと、うーんと首を捻っている
ちゃんとアリサは話を理解しているが、理解した内容とその理由が結びつかないようだ
するといつから復活したのか、ヒナがウンウン唸っているアリサに話しかける
「アリサさん、よく考えてみて下さい
その姫さまがどういう経緯でこちらに来ているのか、それとその姫さまが事情聴取を受ければ、その後どうなってしまうのかということを…」
それまでの話を聞いていないのかと思っていたが…、ちゃんと話は聞いていたみたいだ
ヒナはもう答えを分かっているようで、そう言ってアリサに最後のヒントも含めて教えてあげている
するとアリサはヒナの話を聞いて、ようやく理解したのか、「あぁ!!」と大声を上げる
「じゃあ、私たちが逃げて来たのって…
アリシアさまのお出掛けを続けるために逃げて来たってことなの!?
もし、あそこで警備兵に遭遇していれば、姫さまが事情聴取に長時間連れ回されるし、あんな事が起きれば、お忍びのお出掛けどころではないって連れ戻される可能性があったから?」
「そうだね…だからソーマくんがすごいって言ったんだ
ソーマくんは戦いの途中でその事を考えついていて、姫さまを取り返した後のこと、つまり今の状況までを読んで行動していたのさ
あの光や音を使う武器は警備兵をあの場所まで呼びつけるため、そして警備兵を呼んだのは自分たちが姫さまを取り返した後、本来の目的である『お出掛け』に行っている間に行えない、盗賊たちの処理を任せる為でもあったんだ
そこまで読んでのこの対応…、ホントにソーマくんはすごい子だよ…」
俺たちが逃げて来たことの理由についての答えに辿り着いたアリサがそう俺やヒナに尋ねてきたところ
マルスが様々な補足をアリサに、俺への賞賛を含めて伝える
正直ここまでありのまま伝えられて、なおかつ手放しで褒められるとメチャクチャ恥ずかしい
それを聞いてか…、心なしかヒナとアリサが尊敬の眼差しでこちらを熱く見てきているような気がする
冷たい視線よりはマシだが…、ここまでジッと見つめられるとかなり照れてしまう
俺はなんだか気恥ずかしくなり、それまで気にしていなかった眠っているアリシアの方に目を向ける
「すぅ、すぅ……むぅ…、いじわるでしゅ…
ソーマしゃんの……、んむぅ……」
と、ヒナの腕の中のアリシアは、そんなよく分からない寝言を呟きながら、未だ夢の中にいるようであった
改めて見ると、やっぱりアリシアの体はまだまだ小さな子供であって…、それでも立場としては、立派な1人のお姫さまでもあって…
俺はそんな小さな体で多くを背負う彼女を見て思った
そんなアリシアのために、今俺の出来ることは……
「ごめん、マルス…ちょっと馬車止めて貰っていいか?少しだけ馬車の外でする事が出来たから…
アリシアをしっかり、見張っててくれよ?」
俺はそう言って、マルスの方をチラッと見る
するとマルスは…
「ああ、分かったよソーマくん
アリシアさまを君の代わりにしっかり
見守っておくよ」
と、言いグッと親指を立ててサムズアップをしてくるのだった…
うーん、中々話が進まない!
それでも登場人物の心情の動きはしっかりと描写していきたい!そんな想いがごちゃごちゃになっている今日この頃です!以上!
次もまた、たぶんソーマ視点になると思います
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