不思議な男(NPC)『ま、まあ一緒にいても嫌じゃないわ…』
文章長めで早めに投稿か、短めでもいいから早い方がいいのか…悩みどころです!
「そ、そうか…ありがとう…ヒナ
お、俺もう行ってくる!」
私の後方、正確にはヒナとソーマというNPCの男が話し合っていた方向からのそんな声が、私…アリサの耳にまで聞こえてきていた
その声に振り返った私にはソーマの顔は何やら少し赤くなっていて…どこか照れているように見えた
そして彼はそのまま逃げるようにして、アリシアさまが歩いてきた方向、つまり連れ去ろうとした爺やが逃げた方向に走って行った
その後ろ姿を見送りながら、なおも彼の背中を見続けているヒナに私は声を掛ける
「お疲れ様…ヒナ、そっちの方の話し合いは終わって……、ヒナ?どうしたの?なんだか顔が赤いわよ?もしかして、あのソーマって男に怒りたくなるような事を言われたの?そうだったら私がガツンと…」
私はそう言って、少しだけ頬を赤くしているヒナの顔を覗き込む
ゲームの中であっても、その人の感情をリアルと遜色ないレベルで表現する事が出来るこのゲームでは、その人の現在感じている感情によって、その肌の色、 その人の体温に至るまで綿密に表現される
そして現在、ヒナの頬は赤く染まり、少しだけ耳も赤くなっていたのでそのように尋ねてみたのだが…
「い、いえ!別に彼が何か私を怒らせたとか、そういったわけではありません!
それに、べ、別に赤くなんてなってはいませんよ!ちょっと動いて、血行が良くなっているだけですから!」
といった感じで、何やらわたわたと私の指摘を否定している
その様子は…普段落ち着いているヒナには珍しい動揺の仕方だ
彼と何かあったのか?
私はそんな風にも思ったが…男に対して潔癖な所があるヒナに限ってそんなことはないかと、ヒナの性格を知っている私はそう受け流した
性格や言葉遣い、違うところは多くあるのだが…よく似た私たち…
そして、どちらも形は違えど男に対して思うところ、恐怖心や警戒心にも似た感情が私たちには昔からあった
ヒナは言い寄ってくる男への不信感から、そして私は下心を隠そうともせず、ジロジロと見てくる男たちの視線などから、私たちは男の人を苦手になっていった
初めは優しく声を掛けてくれるような人も、少し仲良くしようとすれば、すぐに「付き合ってくれ」だとか、「連絡先を教えてくれ」などと言う男たちばかり
そうじゃない優しい人もたまにはいるが、それでも圧倒的に下心を持って近づいてくる男たちが多かったのだ
そんな日々を送る中で、私たちは苦手な男たちを遠ざけるようになっていくのは極々自然な流れであった
そのこともあって、私たちが初めてこの世界に来たときに寄ってきた男たちのことも、「私たちの邪魔をしないで欲しい」という旨を伝えることで一蹴したのだ
そして男につきまとわれる心配の低い冒険者になったという訳だ
そんな私たちは、これでようやく男たちから距離をおけると思っていたのだ…思っていたのだが……
「(まさかマルスが男の冒険者を連れてくるなんてね…
しかも、最初は頼りないやつだと思ってたけど、あんなにすごい技を持ってるなんて…)」
私はソーマの走っていった方向を見て思う
この場所から逃げた爺やの場所をどうやって彼は特定したのだろう?
それにさっきの攻撃も、事前にマルスの説明で聞いていた風魔法なのだろうか?
どちらかというと…あれは銃で狙撃したように……
などと、彼のことについて少し興味を持っている自身の思いに気がつく
「(べ、別にあのソーマってヤツが気になるんじゃなくて…、そう!その魔法ってやつが気になるの!
そう!そうに決まってるわ!)」
私はソーマのこと、自身が苦手としている男のことについて興味を持っているという事がなにやら恥ずかしく感じて…
自分の心の中の呟きに自分で突っ込んでしまう
それにソーマっていう男はNPCなのだ
そんなNPCのことを自分が気になっている訳がない
ピンチのときに颯爽と現れて、敵を倒してくれたことは…まあ、ちょっとカッコいいって思ったりもしたけど……別にそれだけなのだ
私が気になっているのは魔法のことについて…
私はなぜかそう必死に自分に言い聞かせる
すると、先程まで動揺していたヒナが落ち着きを取り戻し、彼のことで表情をコロコロ変える私のことを不思議そうに見ていることに気がつく
私はヒナになんだか自身の気持ちが見透かされているような気分になり、訳もなく落ち着かなくなって…
「そ、それにしても!ソーマのやつ帰ってくるのが遅いわね!どこで油を売ってるのかしら?
あんまり遅いと…、そ、そう!姫さま!アリシアさまが心配するから早く帰ってこないかしら?」
と、私は彼のことを考えていたせいで、彼が帰ってこないことを少し心配に思っていた自身の思いについて、間違えてヒナに話してしまう
慌てて「アリシアさまが心配する」と言い訳をしたのだが…変に思われてないだろうか?
そう思い…チラッとヒナの様子を伺うが、別に私の話を不審に思っているというようには見えない
内心安心して、ほっと胸をなで下ろしていると…
「そうですね…ソーマはまだ帰ってこないのでしょうか?あんまりに遅いようでしたら…私が見に行きます
そのときはアリシアさまをよろしくお願いしますね?
アリサさん」
と、あろうことかヒナがソーマのことを心配しだしたのだ!
あの男嫌いのヒナがなんで!?
私はヒナの変化に戸惑ってしまったが、それよりも!
ヒナに聞いておかなければならないことがある
それは…
「ヒナ…、あなた彼のことを『ソーマ』って呼んだ?
いつも、誰にでも『〜さん』って呼ぶあなたがなんで…彼にだけ?」
と、信じられない気持ちでヒナに尋ねる
ヒナはその性格と口調から、大抵の人に『〜さん』をつけて、その名前を呼ぶ
現に私やマルスの名前も『さん』をつけて呼ぶし
だいぶ昔に、私も『アリサ』って呼んで?と頼んだことがあるのだが…そのときは「アリサさんのことをアリサって呼ぶのはなんだか馴染みません」と言われたのだ
だから、私もよく考えればヒナに『アリサ』と呼ばれることに違和感を感じ、別に気にすることはなくなったのだが…
でもそんなヒナが…先程聞いたように、ソーマに対してだけ『さん』を付けず…『ソーマ』と呼んだのだ!
ヒナが『さん』を付けずに呼ぶのは、確か家族と親族ぐらいだった筈だ
そのヒナがどうして…?
すると私の疑問を聞いたヒナは、「あれ?そういえばそうですね…」と不思議そうな顔を浮かべる
「うーん、なぜでしょうね?何故だかソーマのことを『ソーマさん』と呼ぶのは違和感があります
特に意識した呼び方ではなかったのですが…、別に彼ならそう呼んでも構わないでしょう
ソーマの方も私のことを『ヒナ』と呼びますし」
と、別段動揺することもなくそう述べる
その様子は恥じらいなどを感じさせない、ごく自然な受け答えで…本当に『ソーマ』という呼び方に違和感を感じていないようなのだ
そしてそんな彼に対するヒナの変化が、なぜだか私の心を焦らせる
「で、でも!やっぱりソーマのことは『ソーマさん』って呼んだ方がいいんじゃない?
ほら!なんかアイツのことだけ特別みたいに勘違いさせるかもしれないじゃない?
だから、やっぱりアイツと距離を置く意味も込めて…みたいな感じで……ね?」
と、少しこじつけに近いものではあったがヒナに、彼のことを特別に聞こえるような呼び方をしないようにと説得する
なぜ自分がこんなにも焦っているのかは、自分でも分からないのだが…
なぜかソーマのことをヒナが『ソーマ』と呼び捨てにしている、そんな光景を想像して…胸がモヤモヤした
だから、ヒナに私はそう説得した訳であるが…
ヒナはそれを聞いて、少し顔を曇らせながら私に尋ねてくる
「アリサさん…ソーマはのことはまだ嫌なのですか?
ここ数時間ですが、彼と一緒に冒険をして…彼の行動を見てきて……
それでも、やっぱり男の人だからと彼のことも遠ざけてしまうのですか?」
ヒナはそう言うと、心配そうな、コチラを伺うような視線で私の顔を覗き込んでくる
そんな訳ない!ソーマには感謝してるし、何も出来なかった私に比べてすごいと思う
だから私も彼と一緒に……
そう言いたかったのだが、素直になれない私は彼をまだ認めていないという風に嘯いてしまう
「そ、それはそうよ…男の人は自分のことしか考えていないわ!私たちのことだって、綺麗なアクセサリーぐらいにしか考えていないのだから…
別にソーマがそんな人間だとは思ってないけど…
そんなのまだ分からないじゃない…」
と、本心を告げていない後ろめたさから、絞り出すような小さな声になってしまう
流石にこんなに私たちを助けてくれた彼を、まだ認められていないと口にする私を、ヒナは呆れてしまっただろうか?
そんな捻くれた私をヒナは嫌がるだろうか?
私はそんな不安な思いとともに、ヒナの顔色を伺う
いつも強気で勝気な私とは思えない行動だ
しかしそこにあったのは、私を安心させるような優しい微笑みで…
「そうですね、まだ彼のこと、ソーマのことを全部は私もわかりません
でも、彼が私たちを助けてくれたこと、そして姫さまのことを真剣に考えて行動してくれたということだけは確かな事実です
ですから…これから、これからも彼と実際に会って、ともに行動することによって彼のことをもっと良く知っていきましょう
あなたも彼のことが本当に嫌いなわけではないでしょう?
一緒にいるのも嫌というわけでも?」
と、ヒナは素直になれない私のことを理解して
私が本音を話しやすいように誘導してくれる
それを聞いて、改めてヒナが親友で良かったと心から思うのだった
そしてそんなお膳立てをしてもらった私は…
「そ、そうね!ま、まあ一緒にいても嫌じゃないわ…
だから、ヒナも一緒にいることだし…
ソーマとたまには冒険してもいいとは思うわ
彼のことをよく知るためにもね…」
と、少しだけぶっきら棒な言い方ではあったが、本心に近い言葉をヒナに伝えることが出来たのだった
そして少しすると…木々の広がっていた方角から大量の縄を持ったソーマが行きと同様、走りながら帰ってきたのだった
「悪い、ちょっと遅れた…アリシアはまだ寝て……?
って、どうしたんだ?ヒナとアリサ…
なんか二人とも機嫌が良さそうだけど、俺がいない間なんかあったのか?」
帰ってきたソーマは、早々に私たちの変化に気がつき、そう声を掛けてくるのだった
ヒナと私はその言葉に少し驚いてしまったが…
彼に向けて初めて向けるであろう笑顔を浮かべ、二人同時に…
「「ううん、なんでもない(です)ソーマ」」
と、言ってソーマに微笑みかけるのだった…
アリサ視点の内心の葛藤を書きました!
設定として、ヒナは真面目な生徒会長タイプ
アリサはちょっと口下手なツンデレ系のタイプにしています!
出来れば、そんなヒロインたちのことも好きになってもらえたら幸いです!
おそらく次はソーマ視点で話が進むはず…たぶん
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