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守りたかったものは『押し隠す気持ちとそれを解きほぐす心』


「みんなとのお出掛けのために…狙い撃つ!」



私、立川たちかわ 日菜ひなは、背後で聞こえた突然の声とともに、その男、ソーマが狙撃銃を草原がある方角に撃ち込んだ銃声の音の大きさに驚き、彼の方を振り返った



ソーマの撃った弾丸はそのまま草原の方に放たれ、

ズカン!という音とともに何かに命中したようだ

それと同時に、遠くから誰かの悲鳴のような声が聞こえたような気がした


私は何か起きてしまったのでは?と思い、歩みを止め、武器に手を掛けたままでいたソーマに詰め寄る


「なっ!?何をしているのですか!あなたは!

何もないところに攻撃を放つなんて…あっちに誰か人がいたらどうするのですか!?」



「俺はただ約束を果たそうとしただけだ

別に誰かを傷つけようとして撃ったわけじゃない

それに、何も関係のない人間には当たっていない」



私がそう彼に問い詰めると、彼は先ほど馬車の中でのおどおどした態度が嘘のように、とても落ち着いた声音で私の問いに冷静に答える


しかし、私は彼の言っている「関係のない人間には」という言葉を聞いていて引っかかった


「でもそれは…関係のある人には攻撃を命中させた…そういうことですか?あなたは?」



すると彼は変わらぬ声音で「ああ」と頷き、その撃った方向、そちらをチラリと見て少しだけ目を細める



私は彼のそんな顔を見て、その何を捉えているのかわからないような瞳に少しだけゾクっとする感覚を覚えた



一体彼には何が見えているのだろう?

彼が撃ったのは、敵の残党だろうか?それとも、先程の戦闘の逃亡者?


しかしそのどれであっても、先程の攻撃の音を聞けば、その者が生きてはいないと、そう思った



彼は先程の戦闘では誰一人として、敵を殺そうとはしなかった

それが私たちの前だからかどうかは分からないが…

それでも彼は無闇には敵を殺さない、そんな人なのだと、彼に対する認識を私は改めていたのだ


……それに、私たちの事も助けに来てくれたという事実もありましたしね



しかし、そんな認識を霧散させるような先程の攻撃だ…


私はそんな風に、この人は私たちが見ていなければ、平気で人を殺せるような人なのだと

そのことに、警戒心にも似た気持ちとともに、それを上回る恐怖を、その静かな彼の瞳に抱くのだった



私はそんな気持ちを抱いてしまい、上手く彼に話す事も、問い詰めることも出来なくなった


そうして、私は何処と無く気まずい状態で、彼の前に突っ立っていると…


「…アリシア、早く迎えに行かなくていいのか?

あいつ泣きながらこっちに向かってきてるぞ」



彼はそう言うと、こちらに向けていた視線を唐突に離し、先程彼が撃った方向、そちらの方にチラッと目を向ける



アリシアさまがこちらに向かっている?



「どういうことですか?アリシアさまは爺やという方にさらわれてしまったので、どうしようか?という話であったではありませんか…

それがこちらに向かっているというのは?」



私は彼の言っている言葉の意味が分からず、先程の恐怖を忘れて、堪らず彼にその言葉の意味を問い返した

だって、アリシアさまをさらった爺やは先程の足止めの戦闘で遠くに…


するとソーマはその問いに答える事はなく、ピッと先程の方向、その先をゆっくりと指差す



私は指されるがままに、その方向にその目を向けると…


「……っ!あれは!アリシアさま!?」



すると彼が言った通り、アリシアさまらしき小さな人影が指差した方向からパタパタと走ってきているではないか

その人影は時折、顔を拭うような仕草をしていることから…それは涙を拭っているようにも見える



それに気がついた私は先程とは違う理由で、ただただ呆然としている他なかった…


なんで?どうして?誰が?

そんな疑問が頭の中でぐるぐるとしていて、上手く考えをまとめることが出来なかったのだ



それを見たからなのか、ソーマは立ち尽くしている私の横を通り過ぎ、アリシアさまの方に歩いて行く


「まっ…!」



私は咄嗟に彼を止めようと、振り返って彼のことを捕まえようとして…やめた



なぜなら彼は武器を背中に戻し、アリシアさまを抱きしめるようにその両手を広げたからである

私の方からはその顔、その目は見えない、それでも彼はきっと優しいかおをしていることだろう



遠くから走ってきたアリシアさまが、ようやくソーマの近く、約50メートルほどの距離まで近づいてくる


40・30・20メートルと、その二人の距離はどんどんと縮まり…


最後には必死に走ってきたアリシアさまが、ボフッ!っとそんな音が聞こえるような勢いでソーマの腹の辺りに体当たりの如く突っ込む


「うわぁぁん!ソーマしゃぁん!!アリシアこわかったでしゅ!アリシアをもうひとりにしちゃだめなんでしゅ!」



アリシアさまはそう言って、わんわんソーマの腹に顔を擦り付けて泣き叫ぶ

流石のその様子に私を含め、後ろの二人もアリシアさまに声をかけようとする


しかし、その抱きつかれているソーマ本人が手だけでそれを止めるように言ってくる


アリサさんが思わず「なんで…!」っと言いそうになるが、マルスさんに手だけで制される



するとその様子に頷いたソーマは、未だ泣いているアリシアさまの顔をそっと上げさせ、ゆっくりと落ち着いた声音で話し始める


「アリシア?落ち着いて聞いてくれよ?

さっきお前が連れ去られていたとき…正確にはお前を連れ去っていた爺やが倒れたときに、お前はそこで泣いてしまったよな?それはなんでなんだ?その理由を俺に教えてくれないか?」



と、なぜかソーマはアリシアさまが、泣いてしまったときのことについて詳しく聞こうとしだしたのだ


というか、アリシアさまが泣いてしまった理由なんて今はどうでもいい事だし、そもそも泣いてしまった理由は先程、「こわかった」と言っていたではないか


私は彼の質問の意図が分からず、思わず首を捻ってしまう



すると案の定、アリシアさまは思っていた通りの回答をそのまま口にする


「それは…アリシア、じいやにつれていかれて…

こわかったでしゅ…だからアリシア、そこでないちゃったのでしゅ……ごめんなしゃい」



アリシアは顔を伏せるようにして、そんな風にソーマに言葉を返す

私はそれを聞いて…堪らずソーマに詰め寄るようにして怒鳴りつける


「あ、あなたは鬼ですか!!アリシアさまはこんなにも傷ついておられるのですよ!?それを思い出させるような事をして…アリシアさまをさらに傷つけるなんて!

もういいです!あなたはアリシアさまに近づかないで下さい!」



私は怒りで我を忘れてしまい、ここがゲームの世界である事を忘れて、彼に悲鳴にも似た声で説教をしてしまう

確かに彼がアリシアさまを助けてくれたのは事実だろう…しかし先程の質問、それだけは幼い子供にするようなものではないと思い、到底許せるものではなかった



私がそんな彼の元からアリシアさまを取り返そうと、その手を伸ばすが…

あろうことか、マルスさんがその手をきつく掴み、それを行う事を許さない


私は一瞬何が起きたのか理解できなかったが、すぐにそれを理解すると、今度はマルスさんに噛みつかんばかりの剣幕で詰め寄る


「なぜあなたも彼の味方をするのです!?

あなたも見たでしょう?アリシアさまの表情を!

こんな行い、アリシアさまの護衛として、いえ!一人の人間として見過ごすわけにはいきません!」



私がそうマルスさんに言うと…

マルスさんは「落ち着いてヒナ、まだソーマくんの話は終わってない」と私を嗜めるようにそう言うのだった


話の続き?


私は意味が分からず、マルスさんのその鎧に包まれた顔の方に顔を向けると、マルスさんは何も言わず、ソーマとアリシアさまの方を指差す



そしてちょうどそのタイミングで、ソーマがアリシアさまに語り始める


「アリシア、別に俺は怒っている訳じゃないんだ

ただ、俺はアリシアに本当の理由について話して欲しいだけなんだ

だからアリシア、本当の泣いてしまった訳をもう一度俺に教えてくれないか?」



ソーマはゆっくりと腰を下ろし、アリシアさまの目線に合わせて、そう静かな声で尋ねる

するとソーマの言葉を聞いて、なぜかアリシアさまはビクン!っと肩を揺らす



私たちは固唾を飲んでその二人の様子を見守っていると、30秒ほど経っただろうか?

ゆっくりとアリシアさまは顔を上げると、静かにソーマに話し始める


「アリシアね、ほんとはね…じいやがしんぱいだったのでしゅ…

『ばん!』きこえたら、じいやたおれちゃった

アリシア、じいやしんじゃやなのでしゅ」



「でもな?アリシア…爺やはお前のことをさらった張本人なんだぞ?そんな奴が倒れて、逃げだせたのは、お前にとって良かったことじゃないのか?」



まさかアリシアさまがそんな事を考えていたなんて、私には想像もできなかった…

姫さまであってもまだまだ子供、そんな風に私は思っていたのだ


そんな事実に動揺する私を置いて、2人の会話は続く


「それはそうなのでしゅ…でも、じいやアリシアのじいやなのでしゅ

じいや、わるいことしちゃっても…アリシアのかぞくなんでしゅ…」



少し落ち着いて泣き止んでいたアリシアさまは、そう言われると再びポロポロと涙を零し始める

しかしそれでも話すことを止めることはない


「だからっ!だから!じいやしんじゃったら、やなのでしゅ!でも!じいや、ち…いっぱいながれて…うわぁん!」



先程安心して抱きついたときに流した涙とは違う、本当の涙、心からの叫びを体現したような叫びを、その小さな体からアリシアさまは発しているのだった


しかしその涙だけは見せまいと思ったのだろう…

アリシアさまは、先程遠くからシルエットだけで見えていた『顔を拭う』ような仕草をして、必死に本当の涙だけは見せないようにと強がりを見せる



一体どれほどの思いをアリシアさまは、心に秘めていたのだろう?

いくらそれが大切だった人であっても、王族に刃向かうものには心配することもその人を助けて欲しいと願うことも出来ないその気持ちは…



私はそんなアリシアさまに秘められた揺れ動く心情とその心情を見事に見抜いたソーマから目が離せないでいた



「だから!だからね!ソーマしゃん!

じいやをみすてないでくだしゃいましぇ!おねがいしましゅ!じいやはわるいことしちゃったでしゅが…

アリシアがわるいこなのでしゅ!アリシアがワガママいったから!じいやは…じいやは……」



きっとアリシアさまは、本当は爺やが王家の娘であることから人質として自身のことを拐おうとしたことは、幼いながら理解しているのだ

それでも、幼い頃からの自身の理解者だと、そう信じていたい爺やのために、無理矢理にでも理由をつけて、爺やを殺さないで欲しいと願っているのだろう


それが王族の娘であるアリシアさまが、裏切り者になっても大切な爺やを守るために取れる、唯一の手段だったのだ



たとえ自分の届かない場所に行ってしまったとしても、殺されてしまうよりは良いと思い

自身の爺やに対する家族のような親愛を隠し、「怖かった」と言い訳をして、その気持ちを言葉とともに押し潰すようにして、心の中に隠し通そうとしていたのだ


それは4歳の子供には抱えきれないほどの気持ちで、王族の娘には抱えきらなけばいけない想いだった



それは一体どれほど残酷な話だろうか?まだ4年の時しか生きていない子供に対して…

私にはその残酷な現実に、どうすることも出来ないだろうとそう思った



そしてそれを聞いた彼はとても真剣な顔つきで、アリシアさまのことをじっと見つめ、その真剣な顔つきのまま話しだす


「そっか…やっぱりアリシアは強い子だな

そんな風に爺やのことも割り切れるなんてな

それもアリシアが王族の娘だからなのか?」



「そうでしゅ…アリシアはおうぞくのおんなでしゅ

もうじいやとあえなくなっちゃっても…

じいやがだいじょうぶなら…アリシアはだいじょうぶなんでしゅ…」



そう言うとアリシアさまは、痛みに堪えるように顔を俯かせ、その小さな手をギュッと握りしめる

そしてその小さな体は握りしめた拳とともに、微かに揺れているように見えた



もうやめてあげてください!


そんな声を上げたかったが…そんな一言を発することが出来ないほどに、その場は話をしている2人だけの空間になっていた



しかしそんな風に最後の強がりを見せるアリシアさまの瞳は、今にも涙が溢れそうなほどで、とても辛そうな顔をされている



本当にこのままでは、アリシアさまの心が危ない!


そう思った私の「やめて!」の言葉が喉のすぐ側にまで出かかった



しかしそんなギリギリの刹那、彼は小さく震えるその両手を温かく大きな手で包み込んだのだった


「アリシア、もうそんな風に無理に強がるのはやめてくれ

辛かったら辛いって言っていい、悲しかったら泣きたいと言って泣いてくれていい、どうしようもなくなったら、俺のことを頼ってくれていい

お前は確かに王族の娘だ、誰がなんと言おうとその事実だけは変わらない

そして王族の娘であれば、色んなことを我慢しなさいと言われることも多いだろう…

でもな、お前は王族の娘である以前にまだ4歳の子供でしかないんだよ

だから、ワガママだって言っていいし、泣き言だって、言い訳だってしてもいいんだ!まだ子供なんだから!

けどそれを、王族という立場が、上に立つ者としての立場が邪魔するのであれば…俺は、俺だけはそのしがらみからお前を守ってやるよ」



彼はそう言って優しく、本当の兄が妹の頭を撫でて、慰めるような手つきで、アリシアさまの頭を丁寧に撫でるのであった


それは本当にアリシアさまを心から心配し、大切に想っているのが分かるような優しい眼差しで…


彼の口調自体は荒々しいものではあったが、その雰囲気は馬車であの時に見た彼の優しい雰囲気とそっくりなのだった



そんな彼に優しく撫でられたアリシアさまは、その言葉と優しい手つきに、もう我慢することは出来なくて…

大きな声をあげながら、彼にわんわん泣きつくのであった



そして彼に抱きついて涙を流すアリシアさまの横顔は、年相応の…4歳の女の子が見せるような普通の泣き顔なのだった…

すいません、普通に遅れました…

スマホでの投稿は、色々と誘惑が多いのです…


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