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事件の終わりと縮まる距離

 ジェラルドに突っかかっていたフレデリクがようやく事件の処理をし始めた頃、騒ぎを聞きつけた野次馬がエイムズ伯爵の倉庫に集まってきていた。

 その中に誰かを探すように必死になって辺りを見回しているエイミーの姿をセラフィーネは見つける。

 すぐに早く姉に会わせてあげたかった彼女は、野次馬の方に進もうとしたが、危険を察知した騎士に止められそうになってしまう。

 けれど、彼女は後ろからジェラルドがついてきていることは分かっていたので、やんわりと手で制してエイミーの許に早足で近づいていく。

 二人の距離が縮まり、エイミーがセラフィーネに気が付いた途端、騎士に止められつつも必死の形相のまま口を開いた。


「あの! ゆ、行方不明になっていた女の人達が保護されたって聞いたんですけど、お姉ちゃんはいましたか!?」

「ええ、いたわ。衰弱していたけど意識はハッキリしていたから安心して」


 唯一の家族である姉の無事を知り、目にいっぱいの涙を浮かべたエイミーはものすごい勢いで深々と頭を下げる。


「ありがとうございます……! 本当にありがとう、ございます……」


 この数日、エイミーは生きた心地がしなかったことだろう。その気持ちを思うとセラフィーネは一刻も早く彼女を姉に会わせてあげたかった。

 そういった気持ちから、セラフィーネは彼女の肩を掴んでいた警備の騎士に事情を説明し始める。


「彼女は保護された少女の妹さんなの。だから、手を離してあげてちょうだい。それから、早くお姉さんに会わせてあげたいのだけれど、面会はできそうかしら? お姉さんの名前はローラと言うのだけれど」

「……はい。その少女であれば軽傷なので長時間でなければ会話をすることは可能だと思います」

「では、彼女を連れて行ってくれるかしら」

「構いませんが、セラフィーネ様はご一緒しなくてよろしいのですか?」

「ええ。久しぶりの姉妹の再会に邪魔者は不用だもの。時間の許す限り、話をさせてあげてちょうだい」

「了解致しました。では、こちらに」


 先ほどまでの応対と違う丁寧な騎士にエイミーは困惑している様子であった。

 けれど、姉に会いたい気持ちの方が勝ったエイミーは素直に騎士の後に続き、時折セラフィーネの方を振り返りながら何度も頭を下げていた。

 穏やかな笑みを浮かべてエイミーを見送った彼女は、依頼を無事に終わらせられたことに心の底から安堵する。


「思い掛けず大事件に発展したけれど、終わりよければ全てよし、よね」

「セラフィーネ様の問題はまだ終わってませんけどね」

「私の問題? 何か残っていたかしら?」


 まったく思い当たる節がないセラフィーネを見て、ジェラルドはため息を吐き出す。


「本当に忘れてるんですか? フレデリク殿下はセラフィーネ様を王女として復帰させようとか仰っていたじゃないですか」

「……ああ、そういえば言っていたわね」

「割と重要なことなのに、どうして忘れるんですか!」

「だって、別に今のままでも王女として表に出ても、私のやりたいことは何も変わらないのだもの。でも、より多くの人を助けることができるという点では、表に出る方がメリットはあるわよね。それに王族としての役目を果たすことができるし、ジェラルドだって病弱な王女のお飾りの近衛騎士から本物の近衛騎士になれるのだから、良いことずくめかもしれないわ」


 どちらでも構わないと思っていたセラフィーネだが、王女として貴族の前に出る、すなわちジェラルドが正当に評価される機会がくるということだ。

 優秀な彼がようやく日の目を見れると喜ぶ気持ちもある一方で、彼女は己の父親のことを思い浮かべて眉を下げた。


「でも、お父様の退位が同時にあることを踏まえると純粋に喜べないわね」

「陛下の処遇を気に病んでいるのですか?」

「少しはね。今回のことがなければ、お父様は国王のままでいられたのだもの。自業自得と言えばそれまでだけど、素知らぬふりをできるほど私はお父様を恨んでいたわけではないわ」


 全てはセラフィーネの父親である国王の心の弱さが招いたことだ。

 退位を覆せるだけの力がない彼女にできることは、兄達に温情をかけてくれと願い出ることくらいである。

 全員が幸せになる道はもう残されていないことに彼女はやるせない気持ちになった。

 ジェラルドも彼女の気持ちが分かるのか、痛ましい表情を浮かべている。

 すると、そこへ倉庫内での処理を終えたフレデリクが顔を見せた。

 彼は浮かない顔をしているセラフィーネ達を見て、眉を潜ませる。


「事件は解決したというのに空気が重苦しいな。新たな問題でも起こったのか?」

「問題というか……主にお父様の今後のことについて考えていたら、つい」

「ああ、そういうことか。君はもっと怒ってもいい立場なのに優しいことだ。父上が招いたことなのだから、本人に責任を取ってもらわないといけないのはセラフィーネだって理解しているだろう?」

「ええ。理解はしているけれど、感情が追いついていないのよ。……それで、退位させた後にお父様をどうするつもりなの?」


 幽閉ならまだマシであるが、罰として痛めつけられることになるのではないかとセラフィーネは心配していたが、フレデリクは、そんな彼女の不安を笑い飛ばした。

 彼女の王女としての立ち居振る舞いは完璧だが、考え方や価値観はまだまだ甘い。

 だが、そうした優しさや真っ直ぐさがフレデリクからしたら眩しく映った。


「表向きは病気療養にして父上には離宮に住んでもらうつもりだ。もちろん、母上も一緒にな」

「え? それは私が離宮に追いやられた理由と同じではなくて?」

「そうだ。自分がしたことが、その身に返ってくるという良い例だろう? ああ、そうだ。父上達が離宮に行く前にセラフィーネは城に移動してもらうから、そのつもりでいてほしい」


 フレデリクの話を聞く限り、兄達はセラフィーネを王女として復帰させることを決めているようだ。

 これは帰ってから忙しくなりそうである。

 まったく想像できない未来を考え、彼女は頬をひくつかせる。


「それから、父上を退位させる話し合いにセラフィーネも同席してもらいたい。父上がしたことがどれだけ愚かで馬鹿げていたのかを教えてあげたいし、ちゃんと君が両親の娘なんだと認めさせたいのでね」

「フレデリクお兄様の気持ちは嬉しいけれど、私の姿を見たら、お父様は逆上してしまうのでは?」

「どうかな。自分の母親に似ている君を見たら、逆上するどころか後悔するだろうね」

「本当にそうなるかしら?」

「なる。長年、父上を見てきたから性格は分かっている。……ということで話はこれで終わりだ。僕は兄上に報告しなければいけないから、そろそろ城に戻るけど、セラフィーネも戻るなら途中まで送っていこうか?」


 フレデリクからのありがたい申し出だったが、セラフィーネは首を振った。

 王女として表に出ることが決定しているのであれば、そう簡単に城下に行くこともできなくなる。

 だから、せめて街の様子を目に焼き付けておきたい気持ちがあった。

 フレデリクもそんな彼女の心情を分かっていたのか、無理強いすることはなかった。

 

 そうして馬車に乗り込むフレデリクを見送ったセラフィーネは、一段落付いたところで隣に立っているジェラルドを見上げた。


「……では、私達も帰りましょうか」

「そうですね。あ、途中でどこか店に寄りますか? 時間はありますよ」

「いえ、名残惜しくなってしまうから、まっすぐ帰るわ」

「分かりました」


 それだけ言って、ゆっくりと歩き始める二人だが互いに感傷に浸っているのか言葉はない。

 騒々しい港を出ても、活気がある大通りに差しかかっても、会話をすることはなかった。

 ただ、セラフィーネはこの平和な暮らしぶりを忘れないように色んな店や人を眺めている。

 無言の状態のままどれくらい時間が過ぎただろうか。

 大通りから徐々に人通りの少ない道に入ったところで、彼女は足を止めた。


「……今日は色々なことがあったわね。特にジェラルドはずっと体を動かしていたから大変だったでしょう?」

「そうですね。体力はある方ですが、さすがに疲れました。あと、セラフィーネ様とフレデリク殿下に危険が及ばないように細心の注意を払っていたので余計にですよ。……俺としたら安全な場所で待っていて欲しかったんですけどね」

「それは悪かったと思うけれど、ジェラルドの安否を心配しながら待つよりも側で無事な姿を見ていたかったのよ。……前のときのような思いは二度としたくないもの……」


 前のときというのは、ぼったくり店の潜入時にジェラルドが数日安否不明だったときのことである。

 セラフィーネの声が震えていることに気付いたジェラルドは、すぐにそれに思い至り、素早い動きでその場に跪いた。


「ちょっと! 何をしているのよ!」

「セラ様にそんな顔をさせてしまったことが不甲斐なく……」

「別に後悔して欲しいから言ったわけではないわ! いいから立ってちょうだい。人通りが少ないとはいえ、誰かに見られたら何を言われるか」


 ほら、立って! とセラフィーネはジェラルドの腕を強く引っ張る。

 けれど、彼の体は微動だにしない。


(どれだけ体力があるのよ!)


 両手で引っ張っても動く気配のないジェラルドにセラフィーネの息が上がってしまう。

 反対に彼は跪いたまま顔を上げ、申し訳なさそうな表情を浮かべてゆっくりと口を開いた。


「それはできません。今日、地下でセラフィーネ様に危害が加えられそうになって、俺はあのときの貴女の気持ちが痛いほどに理解できました。確かにあんな思いは二度と味わいたくありません。俺が守ると言っておきながら情けなく思います」

「結果的には何もなかったわ。……まったく真面目な人ね。それが近衛騎士の仕事だとしても少しばかり責任を感じすぎではないかしら?」

「いえ。それだけでこんな風に思っているわけではありません。俺は仕事だからという理由で貴女を守っていたことは一度たりともないのですから」


 真剣な顔で真っ直ぐに見つめられ、セラフィーネは息を飲んだ。


「そ、そう。私を主として認めてくれているだなんて嬉――」

「近衛騎士としてじゃなく、俺個人が貴女を守りたいんです」


 遮るように口にしたジェラルドは、セラフィーネの腰に巻かれていた長いリボンの端を持つやいなや彼女の様子や周囲のことなど気にもとめず、そこに口付けを落としたのである。

 いつもの彼なら絶対にやらない行動に彼女の顔は一気に赤くなった。


「ななな、何を!」

「……本当に何をしているんでしょうね」


 言葉とは裏腹にジェラルドの目は細められ、熱の籠もった眼差しをセラフィーネに向けている。

 彼女は今の出来事や片思いの相手からジッと見つめられることが恥ずかしくなり、思わず顔を逸らしてしまう。


「ジェラルドらしくないわよ……」

「いつもの憎まれ口を叩く俺をご所望ですか?」

「それに慣れているせいか落ち着かないのよ。急にどうしたというの? 戦い終わって興奮でもしているとでもいうの?」

「ああ、それもあるかもしれません。でも、一番はセラフィーネ様が無事だったことに安心したから、でしょうね」


 セラフィーネにはまったく分からなかったが、ジェラルドは自身の感情の変化に納得がいった様子である。

 突然の彼の行動に驚きはしたものの、普段と違う環境だから昂ぶったのだろうとセラフィーネは少しだけ落ち着きを取り戻すことができた。


「そういうことは言われ慣れてないから恥ずかしいけれど、言われると嬉しいものね。いつもと違う貴方の姿を見られるなんて珍しいけれど」

「これが俺の本音だってだけですよ。例え自分の首を絞める結果になったとしても、今回のことで伝えられる内に伝えた方がいいと気付いたんです」

「私を心から尊敬しているということを?」

「いいえ、違います。俺がセラフィーネ様を女性として見ているということです。……簡潔に言うと、俺は貴女をお慕いしています」


 いきなりの告白にセラフィーネは驚きのあまり口をポカンと開けて呆然としている。

 だが、跪いたままの彼は尚も言葉を続けようと口を動かした。


「正直に言えば身分の差もありますし、近衛騎士としても気持ちを伝えることはしないと決めていました。ですが今日のことで、この関係が変わろうとも俺はセラフィーネ様に自分の気持ちを知っていて欲しいと思ったのです」


 セラフィーネは混乱しすぎて話の内容がまったく頭に入ってこない。

 けれど、ひとつの言葉だけ明確に理解することはできた。


「……お慕いしている、と言ったわよね? ということは、つまりジェラルドは、私を……好き、だということなのかしら?」

「はい」

「あっさりと認めた!? え? い、いつから? いつから私を好きだったというの!?」

「セラフィーネ様がひったくり犯を捕まえた日からですかね」

「そんなに前から!? 私を好きだという素振りなどしなかったでしょう!」


 いや、ジェラルドは見せていた。

 恋愛感情は持たれていないと思い込んでいたセラフィーネが気付いていなかっただけである。

 言われて初めて彼女は、もしやあれがそうだったのか、と過去の色々なことを思い返していた。

 確かに彼はたまに甘い言葉を口にしていたように思える。

 その後すぐに軽口を叩いてきたので気にも留めていなかったが。

 だが、そうなると気になるのは彼女にツッコミをいれていたジェラルドの姿である。

 おおよそ、好きな女性に対しての態度とは思えなかった。


「……私を好きだと言う割に、結構失礼なことを口にしていたのはどういうことなのかしら」

「あれは照れ隠しです」

「質が悪い照れ隠しね!」

「怒らないでくださいよ。こっちも気持ちを悟られないように必死だったんですから。なのに、なんか可愛いこと言い出すし、ドキッとするような行動をするしで、俺がどれだけ我慢していたと思ってるんですか?」

「人のせいにするつもり!? そういうジェラルドだって、飄々としていたくせに急に目つきを鋭くさせて知らない男の人の顔をするし、人のことを抱きかかえるし。私の方こそ心臓が止まるかと思うような体験をしているわよ!」


 立ち上がって悪態を吐いているジェラルドと、それに応戦し興奮しているセラフィーネ。

 内容はただの惚気のようなものなのに、まるで口喧嘩をしている最中のようである。

 とてもじゃないが両思いが判明した人達の出す雰囲気ではない。


「俺だって言わせて貰いますけどね。セラフィーネ様は細いんですよ! 抱き上げたときに軽くて驚いたんですからね」

「何よ! 重いよりはマシでしょう! あと、あれ結構楽しかったから、またやりなさいよ!」

「ご所望とあれば、いつでもして差し上げますよ。でも、飛び降りるのはなしですからね」

「え!? あれが一番楽しかったのに! フワッと浮いた瞬間のなんともいえない感覚が堪らないのに!」

「絶対に落とすことは有り得ませんけど、俺が不安なのでやりません……!」

「ジェラルドのケチ!」

「なんとでも言って下さい」


 強制的に切り上げられ、それ以上ジェラルドに反論する言葉が見つからないセラフィーネは口を閉ざし、悔しさのあまり彼を睨み付ける。

 気にする素振りもなく涼しい顔をしている彼が憎たらしくもあったが、考える時間ができたことで急に冷静になり、自分は何をしているのかと我に返った。


「愛の告白をされていたはずなのに、どうしていつもの調子になってしまうのかしら……」

「セラフィーネ様が原因ですよね」

「ジェラルドの減らず口が大元でしょう」


 再び火が点きそうになり、これではいけないと気付いたセラフィーネは頭を振る。

 ジェラルドも一言余計だったと思ったのか、ばつが悪そうにしていた。

 静かになったことで何となく居心地の悪さを感じながら、彼女は本当に両思いなのだろうかと疑うようにジェラルドに視線を向けた。

 ばっちりと目が合った彼は、目尻を下げて愛おしそうに見ている。

 今起こったことは現実なのだと実感するには十分であった。

 両思いだと知って妙に穏やかな気持ちになり、嬉しさと幸せな気持ちに包まれる。

 好きな人から愛されるとは、こんなにも嬉しい満ち足りたものなのだと彼女は初めて知ることができた。


「……私でも人から愛される人間になれるのね」

「むしろセラフィーネ様は沢山の人から愛される方ですよ。貴女を見ているともっと役に立ちたいと思うえてしまうんですから」


 セラフィーネを見下ろすジェラルドの目は真剣で、彼が心からそう思っていると見てとれた。

 褒められることはあまりなかったこともあり、彼女は恥ずかしがって指をいじり始める。


「ジェラルドが素直になると、なんだか落ち着かないわね」

「モジモジしているセラフィーネ様も新鮮ですね。お可愛らしいです」


 スラスラと台詞のように読み上げられていく言葉に、鈍いセラフィーネでもこれはからかわれていると察してしまう。


「……さては、わざと言ってるわね」

「発言に嘘はありませんが、セラフィーネ様の態度が見たかったので」


 臆面もなく、よく言うものである。

 どうしたって年の差はあることから、セラフィーネはジェラルドの手の平の上で転がされているような気分になってきた。

 やられっぱなしでは悔しいので、どうやって反撃してやろうか彼女が考えていると「ああ、そうだ。忘れてました」と彼が声を上げた。


「セラ様に聞きたいことがあるんですけど、今日の俺、頑張ってましたよね?」

「今日のジェラルド? そうね、いつも以上に頑張っていたと思うわ」

「……なら、頑張った俺に褒美が欲しいんですが」

「何よ。褒美が欲しいの? 意外と欲張りね」

「はい。欲張りなので褒美を下さい」


 開き直ったのか、やけにジェラルドはグイグイと押してくる。

 褒美と言われても、セラフィーネが渡せる物は数少ない。お金なんてたかが知れているし、彼の好みそうな物にも心当たりはなかった。

 悩んでいると、さあ、早く下さい、と言わんばかりにジェラルドが凝視してくる。

 追い込まれた彼女は、これは今こそやり返すチャンスなのでは? と閃いた。

 途端に強気になった彼女は得意気に笑うと、ジェラルドを手招きする。

 彼女が何か企んでいるとは疑うこともしない彼が手の届く範囲にまできたところで、その襟元を掴んで思いっきり自分の方に引き寄せた。

 油断していた彼はされるままになり、互いの息がかかりそうなくらいに顔が近づく。

 目を真っ直ぐに見据えて何かを言おうとする彼の言葉を待つこともなく、セラフィーネは両手で頬を固定した。

 そのまま彼女は背伸びをしてジェラルドの額に柔らかな唇をそっと落とした。


「これが褒美よ!」


 腰に手を当てたセラフィーネは、どうだ驚いたかとドヤ顔を披露していた。

 額にキスをされたジェラルドは、あまりの衝撃に固まってしまっている。


「ふふん。驚いたでしょう? 王女からの褒美をありがたく受け取りなさい」


 セラフィーネの声が聞こえていないのか、ジェラルドは瞬きもせずに唇を震わせて彼女の唇が触れた箇所を指でなぞっている。


「……あの、つかぬ事を尋ねますが、俺にキス……しましたか?」

「ええ、額にね」

「なんてことだ……。セラフィーネ様が、俺に……」


 信じられないとか、夢? とか呟いているジェラルドは現実を受け止めきれない様子であった。

 しばらく動揺している姿を満喫している内に正気に戻ったのか、彼はセラフィーネの顔を覗き込んできた。

 その目には強い意志が宿っている。


「すみません。覚えてないので、もう一度お願いできますか?」

「図々しいわね!」

「今度はきちんと心の準備をして挑みますので」

「嫌よ! 褒美なのだから、一度きりよ!」

「そこを何とか……! 覚えていないなんて悔しすぎます」

「何を言われても、やらないわ! ほら、早く帰るわよ。エレノアに今後のことを話さなければいけないのだから」


 詰め寄ってくるジェラルドとの話を一方的に切り上げてセラフィーネは、照れ隠しもあって早足で歩いて行く。


(自分でやっておいてなんだけど、物凄く大胆なことをした気がする……! ジェラルドにやり返そうとして私までダメージを負ってしまったわ)


 我に返ったセラフィーネは、間近で見たジェラルドの顔や髪からかすかに香る匂いを思い出して真っ赤になっている。

 ほんの少し、しでかしたことを反省したが不思議と後悔はしていない。

 想いが通じ合い、距離が近くなったジェラルドとの記念のようだと笑みがこぼれる。


「帰ったらジェラルドと両思いになったとエレノアに教えてあげないと」

「それは確実に俺が殺されるやつですよね」


 意外と力が強いエレノアが無表情でジェラルドの胸ぐらを掴む未来がありありと想像できる。

 ゲンナリとした表情を浮かべた彼を見て、セラフィーネは励ますように背中を叩いたのだった。

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