部屋の捜索②
今回の被害者である黒髪の美少女に教えてもらった部屋に到着したセラフィーネ達。
すると、すでに室内にはフレデリク達がいて捜索している真っ最中であった。
部屋に入って来た彼女達に気付いたフレデリクは、探している手を止めないまま口を動かした。
「早かったな。誘拐された少女達は見つけられたのかい?」
「ええ。衰弱していたけれど、全員を見つけることができたわよ。ただ、動けないみたいだから、外で見張っている騎士に増援がきたら即座に保護してもらうよう頼んできたわ」
「そこそこの時間は経っているから、そろそろ増援も来るだろう。それと、やることがないなら証拠を見つけるのを手伝ってもらえるだろうか?」
「もちろんよ。そのつもりで来たのだから」
そう口にした彼女は、やる気満々な様子で怪しい物はないかと部屋をグルリと見回した。
これまでの部屋と違って室内は埃もなく綺麗で、また沢山の高級そうな調度品が置かれている。
他の部屋との対比が激しく、これは紛うことなくエイムズ伯爵の部屋だと彼女には分かった。
「豪華な部屋ではあるけれど、デザインが統一されてないせいで違和感があるわ」
「しかも金色の物が多いお蔭で目がチカチカします。選んだ人物にセンスがないのでしょうね」
「否定はしないけれど、言葉に気をつけた方が良いのではなくて? 選んだ張本人のエイムズ伯爵は貴方よりも地位が上でしょうよ」
セラフィーネはエイムズ伯爵を擁護する気は一切無いが、一応他にも人がいることもあり、ジェラルドの発言に苦言を呈した。
「なんてことを言うんですか。これから捕まる犯罪人よりも俺の地位が下とは……セラフィーネ様も人が悪いですね」
「"今は"まだ伯爵でしょうよ」
このセラフィーネの注意を聞く気はないのか、彼は部屋に置かれた机に向かっていき、乱暴に次々と引き出しを開けていく。
さっさと済ませられて良いのかもしれないが、貴族の行いからはかけ離れている。
「強盗じゃないのだから、もっと上品に探せば良いのに」
「エイムズ伯爵からしたら俺達は強盗そのものでしょうね」
「……本当にああ言えばこう言う人だこと」
「それが俺の長所ですから」
「短所の間違いではなくて?」
軽口を叩きつつため息を吐いたセラフィーネであったが、口よりも手を動かそうと室内の捜索を再開する。
どこを見ても煌びやかな豪華な調度品にお腹いっぱいになりながら、念入りに証拠が隠されていないかを見ていく。
ジェラルドやフレデリクと会話をしながら器用に手と目を動かしていると、ふと壁に掛かっていた絵画が少しだけ傾いていることに気が付いた。
(……見た目は至って普通の絵画、よね? けれど、これだけ綺麗に整頓された部屋の中で、この絵だけが傾いているのはおかしいわ。エイムズ伯爵の性格を考えたら、絶対に直しているはずだもの)
疑問に思いながら、セラフィーネは慎重に絵画を手に持って裏を覗き込んでみる。
すると、真ん中あたりに貼り付けられている物を見つけて、彼女は目を見開いた。
「あ」
「何か見つけましたか?」
声を上げたセラフィーネに全員が顔を上げた。
そのままジェラルド達が集まってきて、全員が揃ったところで彼女は絵画を壁から下ろすとひっくり返して裏を見せた。
彼女が見たものと同じ物を視線に入れた三人は、驚きのあまり口を閉ざす。
ジェラルド達が絶句するのも無理はない。
なんせ彼らの視線の先、絵画の裏面には若干厚みのある封筒が数枚貼り付けられていたのだから。
どこをどうみても証拠の書類としか思えなかった。
中身を確認していないので確信はないが、隠してある時点で疑わしいことに変わりはない。
絵画を壁に立てかけた彼女は、糊付けされた封筒をひとつひとつ丁寧に剥がしていく。
キャンバスの裏面に若干紙が残ってしまったが、それでも破れることなく全てを取ることができた。
数枚の封筒を手にしたセラフィーネは、それらを冷めた眼差しで見つめている。
「……さて、中身はなにかしらね」
「毎日の献立だったら燃やしてしまいましょう」
「その前に細かくちぎってやるわ」
嫌な想像をさせないで欲しいとセラフィーネは思いながら、最初の封筒から折りたたまれた紙をごっそりと取り出す。
その中の一枚を開いて中を読んでいくと、中身は誰かに当てた手紙ではなく、ただ誘拐された少女達の名前と特徴が書かれているだけの報告のような手紙であった。
これだけでは証拠として弱かったが、最後に差出人としてぼったくり店の首謀者である街の有力者の名前が書かれている。
「差出人がこの男だとすると、ぼったくり店で働いていた店員の中から売り飛ばす少女を品定めしていたのかもしれないな」
「それでエイムズ伯爵に知らせて誘拐させたということかしらね」
「大方そうだろう。さて、内容が違っているかもしれないから他の封筒も調べよう。僕とバークスで手分けして見るから、セラフィーネは残りを頼む」
大きく頷いたセラフィーネは、他の封筒をフレデリク達に手渡した。
そうして、手に持っていた他の手紙を読み進めていく。
どれもこれも誘拐された少女達に関するものばかりだったが、誰がどこに売り飛ばされるのかまで詳しく書かれているものもあった。
かなり用心をして事細かに計画していたのが読み取れる。
とんだ極悪人ではないか、と彼女は呆れながら顔を上げた。
「どうやら、こちらは攫われた少女達に関するものばかりみたいだわ。そちらはどう?」
「こちらは取引相手とのやり取りのみだけど、商品の値段が異様に高く設定されていた。中には買ったものの外見を褒める旨まで書かれている。明らかに人が商品として取引されたと分かるものだ。他の手紙と合わせれば人身売買の証拠になる」
思いのほか、早く証拠を見つけられたことで一同にホッと安堵するような空気が流れる。
そんな中、全ての手紙を読み終えたジェラルドが手紙を元に戻しながら口を開いた。
「でしたら、一度外に出ましょう。まだ報せは来ておりませんが、いつまでもこのような場所に殿下方を置いてはおけません」
心配そうな表情を浮かべるジェラルドに、同意だと言わんばかりにフレデリクは軽く笑みを浮かべた。
「そうだな。こんなに早く見つかるとは思っていなかったが、証拠としては十分だ。残りの分は後からでも確認できる。それに、そろそろ騎士団の増援が来ているかもしれない。時間に余裕がありそうだし、彼らが来るのを待つより先に被害者の少女達を連れて出口に向かおう」
そう返事をした後で、細々としたこれからのことを近衛騎士と話し合っていたフレデリクは手紙を懐に入れて部屋を出て行った。
セラフィーネも後に続こうと持っていた手紙を封筒に入れようとしたが、慌てていたせいで手が滑り、床に手紙をばらまいてしまう。
もう! と自分自身に苛立ちながら彼女が手紙を拾っている中、ある一枚の手紙を手に持ったところで、動きを止めた。
手紙を拾っていたジェラルドは彼女の様子がおかしいことに気がつき、「どうしました?」と言いながら手紙をのぞき込んでくる。
見やすいようにと手紙を傾けると、全てを読んだ彼は言葉を失った。
『セラフィーネに関する件を口外しないのであれば、今回のことは不問にする。だが、人身売買が頻繁に続くようなら、その限りではない』
この文章を見て思い浮かべる人物はただ一人。
恐る恐る署名を見れば、セラフィーネの父親の名が記されている。
本人の字がどうかは判断ができなかったが、彼女のことが書かれていて署名がある以上、知らぬ存ぜぬではすまされない。
フレデリクの言っていたことは本当だったのだと実感し、彼女の指に力をこもる。
「なんて……なんて、情けないのかしら……!」
「セラフィーネ様のせいではありません。弱い心をお持ちの方が悪いのです」
「違うわよ! 私は自分を責めていないわ。怒っているのはお父様に対してよ!」
声を荒らげたセラフィーネの激怒っぷりに、自身の存在のせいでと嘆いているのかと思っていたジェラルドは面食らった。
ここまでの怒りを爆発させる彼女をジェラルドは初めて見る。
どう対処すればいいのか分からず、珍しく彼は狼狽えていた。
「フレデリクお兄様にバレている時点でいけないというのに、このように簡単に言質を取られるなんて、王としての自覚が足りないわ! なんて情けない人なのかしら」
「それだけ王妃様が大事なので――」
「大事だとしても、やっていいことと悪いことがあるわよ! 子供の私にでも分かることだわ!」
「お怒りはごもっともです。非常に良く分かります。ですが、今は怒りにまかせて文句を言っている場合ではないと思いますよ? はい、深呼吸して落ち着いて」
吸ってー吐いてーと繰り返され、セラフィーネは徐々に冷静さを取り戻していく。
ジェラルドのお蔭で頭が冷えた彼女は、紙を封筒に入れ直して息を吐き出した。
「……確かに、文句を言ったところで起こったことは変わらないわね。お父様のこれからについては、私ではなくお兄様達が考えることだもの」
「ええ。それに今は騎士達にも早く地下に入って来てもらって、男達を捕まえてもらわなければなりません」
「そうよね。事件はまだ終わっていないもの。怒りでそのことすら忘れるところだったわ。思い出させてくれてありがとう。けれど、みっともないところを見せてしまったわね」
「いえ、そんなことは思いません。むしろ、セラフィーネ様は真っ直ぐで正しい正義を持っていると再確認しました」
突然のジェラルドの言葉にセラフィーネは訝しむような視線を彼に向けた。
「いつもは私をからかっているのに、褒めるなんて珍しいわね。私って、ジェラルドを連れ回して、色んなことに首を突っ込んでいるから、本音ではどう思われているのかしらと気にはなっていたのだけれど」
「連れ回されているなんて思ったこともありませんよ。心の内では、セラ様を太陽のような存在だと思っているんですから」
「それは暑苦しいと言いたいのかしら?」
どうせ、いつもの上げて落とすやつだろうと当たりを付けたセラフィーネはジロリとジェラルドを睨み付ける。
けれど、彼は困ったように笑うと首を振った。
「違いますよ。常春の王都に降り注ぐ、穏やかな日差しのように包み込んでくれる方だと言いたいんです。誰も傷つけず、誰も裏切らず、裏切られても相手を恨みもしない。前向きな貴方のお蔭で、俺は毎日が楽しいと思えるようになったくらいです」
「あ、あら、そのような本音が隠されていたのね。だったら、うっかり惚れてしまっても構わないのよ?」
「そして褒められるとすぐに調子に乗るところも好んでますよ」
「……余計なことを言う、その口を縫い付けてあげようかしら」
まさかの上げて上げて落とす手法にセラフィーネは頬を膨らませる。
喜んだ気持ちを返してもらいたいところである。
対してジェラルドは頬を膨らませて不機嫌になっている彼女をフォローする様子もない。
むしろ、話題を終わらせようと人の良さそうな笑みを浮かべながら口を開いた。
「では、予定よりも早く終わったことですし、軽口も済んだところで少女達を保護して外に出ましょうか」
「軽口で済まさないでちょうだい! 私は結構本気だったのよ!?」
まったく! と言いながらセラフィーネは不機嫌さを隠すことなく足音を立てて部屋を出て行こうとする。
そんな彼女をジェラルドは真剣な目で見つめていた。
後ろ姿の彼女に向かって、気付かれぬようにジェラルドは小声で「俺もですよ」と囁いた。
しかし、その声は彼女に届いておらず、出入り口付近で立ち止まって早く来いとジェラルドに催促している始末。
ああいうところが可愛いんだよな、と思いながら彼はセラフィーネの警護をしながらフレデリク達と協力して少女達を連れて外に出たのだった。
あけましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願い致します!




