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被害者たちの共通点と王女の推理

 ジェフの店を出た三人は、取りあえず行く当てもなくブラブラと通りを歩いていた。


「……ジェフの話だけだと三人共、十代の女の子なのよね。まずは彼女達の人となりや、最後に見かけたときの状況を調べてみましょうか」

「そうですね。事件なのか事故なのかが分かるかもしれません」

「事件だとしたら無理やり連れ去ったのだから悲鳴なりなんなり聞いている人がいそうだし、それがなかったとしたら唆されて着いていった可能性もあるわよね」

「事故だとしても、何かしら声は上げているはずですから、聞いていた人も見つかるかと」

「では、紙に書かれている順に聞き込みをしていきましょう」


 歩きながら話していると、真ん中にいたエイミーが足を止めたのに二人が気付いた。

 振り返ると、ポカンと口を開けた彼女が突っ立っている。


「どうかしたの?」


 セラフィーネが声をかけると、ハッと我に返ったエイミーは小走りで二人に駆け寄る。


「あの……すごく頼りになるんだなって思いまして……。私じゃ、そこまで考えつかなかったので」

「うふふふふ。そうでしょう? そうでしょう! 私はとても頼りになるのよ!」

「往来で恥ずかしいので止めて下さい。すれ違う人がセラ様を見て笑ってますよ」

「ちょっとくらい調子に乗らせてちょうだい!」

「乗らせてあげたいのは山々ですが、場所を考えて下さい。事件だった場合、あまり目立つと唆した奴に目を付けられてしまうかもしれませんよ」


 確かにそれもそうか、とセラフィーネは冷静になった。

 現時点で事件性が高いというだけで確定したわけではないが、もしも犯人がいるとすると探っている人間がいたら消そうと動き出してもおかしくない。

 セラフィーネを狙うならともかく、まだ子供のエイミーに危害が及ぶ可能性を考えた彼女は小さく頷いた。。


「では、静かにひっそりと調べるわ。ということで、エイミーとはここで解散ね」

「え? どうしてですか?」

「さっきのジェラルドの話を聞いていたでしょう? 私は彼がいるから危なくなっても助けてもらえるけれど、一人でいる貴女は違う。ローラのことが心配で探したいのは分かるわ。でも、もしこれが事件で犯人がいるとするなら、探っていることがバレたら、必然的に弱い貴女が最初の標的となるの」

「それでも、私は――」

「ダメよ。困っている人を助けると言ったけれど、それはローラだけじゃなくて貴女も含まれてるの。調べた結果は包み隠さず貴女に伝えるわ。だから、今日は大人しく帰るの。お願いよ」


 本当にエイミーの身を心配しているのか、言い聞かせるような口調であった。

 彼女は縋るようにジェラルドを見るが、期待も虚しく首を横に振られてしまう。

 何を言っても連れて行く気はないと悟った彼女は子供である無力さを実感して力なく項垂れた。


「明日、最初に会ったところで落ちあいましょう。そこで今日の成果を報告するわ」

「……分かりました」

「それじゃあ、気を付けて。またね」


 ぎこちなく笑うエイミーと手を振って別れた二人は、その後三人の女性の聞き込みを開始した。

 協力してくれる人が大半であったが、中には二人を怪しむ人達もいて無害な人間なのだと証明することの方が大変であった。

 だが、それでもある程度の情報を集めることはできたのである。

 そして、このとき彼女達は二方向から探るような視線を向けられていた。

 片方はいやらしそうにニヤニヤと笑いながら、もう片方は何かを企んでいるような表情を浮かべながら。

 寄ってくる気配がなかったので警戒しつつも動くことはなかったジェラルドとは違い、セラフィーネは話を聞くのに夢中でまったく気付いていなかった。

 そのお蔭かどうかは分からないが、彼女は話を聞かせてくれた中にいくつかの共通点があることに気付いた。


 まず、全員が孤児であったこと。また、見た目が良く、あのぼったくり店で働いていたこと。

 だた、一人だけは店主が捕まるよりも前に店を辞めていたが、それでも繋がりはあったらしい。

 全員『今度は真っ当に生きる』とか『幸せを掴む』とか言っていたので、自ら失踪するような理由もない。

 そして、日にちは違うが女性の悲鳴を聞いたという情報もチラホラと聞こえてきた。

 共通点のある三人がまとまった期間に姿を消し、本人かどうかは分からないが同じ時期に聞こえてきた女性の悲鳴。

 事件だと思わせるには十分である。


「ここまで共通しているなんて、偶然にしてはできすぎてると思わない? それに全員がこれからの未来のことを考えてたのよ。失踪した可能性は低そうだわ。これは事件に巻き込まれたと考えた方が自然よね」

「そうですね。行方不明となった時期も近いですし、全員の情報から考えると誘拐事件とみても良さそうです。もしかしたら、ぼったくり店が関わっているのかもしれませんね」


 確かに関わってそうだが、今更調べたところで証拠は全て騎士団が押収している。

 そこを調べるよりも優先させるべきことはもっと他にある。 


(でも、聞いた人によると、一人だけ自らお店を辞めてる子がいたのよね。彼女だけ違うから妙に気になったのよ)


 セラフィーネが気にしている彼女は、ぼったくり店が摘発される前に辞めている。

 何か引っかかる彼女は、話を聞かせてくれた人の言葉を思い返す。


『苦労して、ようやく好待遇の仕事にありつけたのに仕事が辛くてすぐに止めちゃって。しかも、あの子ったら最近知り合ったとかいう貴族の愛人になるって息巻いてたから誑かされたのかもね』


 頭の中で何度も繰り返していたセラフィーネは、やっと何に引っかかっていたのか理由に思い至る。


(そうよ。『最近知り合った貴族』……これだわ)


 通常、孤児の平民が貴族と知り合うなんてことはあり得ない。

 あるとすれば慈善事業先でということになるが、このタイミングでは怪しすぎる。

 ついつい、再就職先を斡旋してくれたエイムズ伯爵を穿った目で見てしまう。

 慈善事業に力を入れている善人を疑いたくないが、三人と接触している可能性が高かった。

 黒か白かを考えすぎて唸っていたセラフィーネであるが、頭の中であれこれ考えても解決はしない。

 まずは、エイムズ伯爵の疑いが本当か嘘かを調べようと決めた。


「ぼったくり店の調査は騎士団がやっているだろうから、止めておくわ。まず、三人が会っている可能性の高いエイムズ伯爵を調べましょう」

「あまり悪い噂のない人物ですが?」


 悪い噂は聞かないが、セラフィーネにとっては色々と考えるべき相手でもある。


「今の時点で彼女達の最後の足取りが分からない以上は、ひとつひとつ潰していかないと進まないもの。それにエイムズ伯爵が白だったら、こちらに協力してくれるよう頼めるわ」


 現時点で有力な情報は何もない上に、強力な助っ人もいないのだ。

 エイムズ伯爵が善人であれば、きっと協力してくれるとセラフィーネは考えた。

 白でも黒でも事件は前進する。

 それに思い至ったジェラルドは表情を引き締めた。


「そうですね。善人が実は悪人だったというのは、良く耳にしますから」

「その話は聞きたくなかったわ」

「自身の悪行を隠すために、余計に慈善事業に力をいれるものだとか。さて、エイムズ伯爵はどちらなのでしょうか」

「本当に聞きたくなかったわ」


 手で耳を防ぎながら、セラフィーネは死んだ魚のような目をしていた。

 彼女の顔を見たジェラルドは肩を竦めると、ひとつ提案を口にする。


「では、エイムズ伯爵の倉庫がある港に足を運んでみますか? あそこなら、色々な情報が手に入りやすいかと」


 ジェラルドから港に行こうかと言われたが、、セラフィーネはあまり気が進まなかった。

 あそこには一度行ったきりで知り合いがいないので、見ず知らずの彼女に話を聞かせてくれるかどうかという不安がある。


「……一応聞くけど、港で仕事をしている人はどんな性格の人が多いのかしら? 警戒心が強いとかある?」

「いきなりどうしたんですか? どんな相手だろうと、いつの間にか仲良くなる才能に秀でたセラ様が珍しいですね」

「そりゃあ、いつもは人の命が関わらない依頼だったり世間話だったりしたからよ。今回は細心の注意を払わなければいけないでしょう? 人の命がかかっているから、本当のことを話してもらえるか気になっちゃって」

「なるほど……。ですが、その心配は不用だと思います。セラ様が親しくしている女性の中に港で働くご主人がいる方もいますからね。その方に他に人のいる場所で話しかけて、奥方と親しいと話せば、周囲の警戒心も薄まります」


 そういうものなのだろうか? とセラフィーネは首を傾げながらジェラルドと港へと向かう。

 話ながら歩いていると、潮の香りがしてきたことで港に近づいたことを知る。

 海が近いからか、街中よりも風が強めだ。

 はためくスカートと髪を手で押さえていると、店から出てきた男達の会話する声が聞こえてきた。


「あー! また、ポーカーですっちまった」

「だから、ギャンブルなんて止めろって言ってんだよ」

「でもよ、あれで勝ててたら今月は乗り切れたんだ。こうなったら金を借りてポーカーで増やすしかねぇな」

「ギャンブルで負けた金をギャンブルで取り返そうとすんな。あと、ヤバいとこで金を借りるなよ。どっかに売り飛ばされるぜ」

「若い女ならともかく、こんなおっさんが売れるわけねぇだろ。大体、この国じゃ人身売買は禁じられてるんだから、売られることもねぇよ」

「禁じられてても、実際にはしてる奴がいるって話も聞くぜ」


 なんとも物騒な会話である。

 ギャンブルに興じる人の気持ちがまったく分からないセラフィーネは渋い顔をして彼らから意識を逸らした。


(売り飛ばされるかもしれないのに、借金してまで遊びたいものなのかしら? それにしても、平和だと思っていたのにアレンス王国でもそうした犯罪が裏で行われてるのね。お父様や騎士団は何をしているのかしら)


 こうした犯罪は個人ではなく国が摘発するべきだろうと憤っていたが、今の男達の会話を反芻していたセラフィーネは、あることに気が付いた。


 売り飛ばされる。

 若い女性。

 人身売買が行われている。


 行方不明になっているのは、いずれも若い女性だ。それも見た目がいいと評判だった。

 そして、孤児で全員がぼったくり店で働いていた。

 そこから導き出されるのは――。


 そうであって欲しくないと思いながらも符合する点が多すぎる。

 心臓が早くり、額に汗が滲んでいたセラフィーネは思わず足を止めた。


「セラ様?」


 急に立ち止まったセラフィーネを不審に思い、ジェラルドは振り返るが、彼女は詳しい事情を話すことなく口を開いた。


「ねえ、ジェラルド。今から私の臆測だけで推理するけど笑わないで聞いてくれる?」


 真剣な表情を浮かべるセラフィーネを見て、ただ事ではないと察知したジェラルドは笑みを消して頷く。

 彼女は周囲に人がいないのを確認すると、ジェラルドに顔を近づけて小声で話しだした。


「今の男達の会話を聞いてもしかしてと思ったのだけれど、行方不明になった女性達は人身売買のために誘拐されたのではないかしら」

「人身売買ですか? ですが、こんな短期間で三人もなんて、目立つと思いますが」

「だから、孤児を狙ったのかもしれないわ。あのぼったくり店で候補の女性を集めて査定していたと考えたら、全ての辻褄は合うのよ。なんせ、行方不明になったのは見た目の良い若い女性ばかりなのだから」


 可能性はゼロではない。

 本当に人身売買であったのなら、早く見つけないと売り飛ばされてしまう。

 いや、最悪の場合、もうすでにそうなっているかもしれない。


「ですが、人身売買であったのなら、あまり時間は残されていませんね。今もまだ生きている可能性が高いことだけは良かったと思うべきなのか悩むところですが」

「とはいっても、私達だけで解決できるとは思えないわ。……やはり、協力してくれる誰かが必要よ」

「エイムズ伯爵が黒だった場合、騎士団に話を通しても動いてもらえるかどうか」

「人身売買をちらつかせたら飛びついてくれるのではないかしら?」

「いえ、俺が言って信じてもらえるかという話です」


 捨て置かれた王女と冷遇されている近衛騎士。

 国王や貴族、騎士団を動かすには力がなさすぎる。

 二人がしばらく真顔で見つめ合っていると、背後から複数の人の下卑た笑い声が聞こえてきた。

 振り返ると、いかにも悪そうな男達がニヤニヤと笑いながら近寄って来る。


「金持ちそうな女と護衛の男。街中で話を聞き回ってたのはこいつらだな?」

「ああ、ガキはいねぇだが、俺が見た奴らだ。最初に仕事を任されたときは半信半疑だったが、まさか本当に探る奴がいたなんてな。こいつらを捕まえたら、金がたんまり貰えるっていうんだ。良い仕事だよ」


 いきがっている男達を見て、セラフィーネ達は目を見合わせる。

 彼らを無視する形で、二人は小声で話し始めた。


「これ、もしかして行方不明になった人達のことを聞いていたからこうなったのかしら? 任されたということは、誰かに依頼されてたということよね」

「はい、間違いないかと。話を聞いていたときにいくつかの好意的ではない視線は感じていましたから。しかし、ここまで素早いとなると、相手は疑わしきは罰せよという精神の者なのかもしれません。……困ったことになりました」

「そう? ジェラルドが蹴散らせばいいだけではなくて?」

「そういう訳にもいきませんよ。ここで暴れたら騎士団が出てきますし、そうなればセラ様の素性を探られます」


 それは困る。セラフィーネが王女だとバレるのは非常にマズい。

 ここで大立ち回りを演じれば、バレる確率は一段と上がる。


「じゃあ、どうするのよ」

「逃げるより他はありませんね。セラ様、走れますか?」

「足は早くはないけれど、疲れもないし平気よ」

「で、あれば、すぐ横の路地に入って下さい。あとは俺が道を教えます。セラ様はただ走るだけで構いませんので」

「それぐらいなら、簡単だわ」

「では、頑張って下さい。さあ、行きますよ」


 男達を無視して話していた二人は、ジェラルドの声を合図に脇の路地に走って入っていく。

 恐怖で足が竦んでいるだろうと思っていた男達は予想外の行動に驚き、唖然としていたが、すぐに我に返り二人の後を追って行ったのだった。

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