第一章 魔物の国6
道を見つけて3日が過ぎた。
道中で獣以外の生き物に出会うことはなかった。
最近、誰かがここを歩いたような形跡もない。
この先に、人間の集落があるとは思えず、逆の道を行けばよかったと後悔し始めていると、前方に白い煙が上がっているのを見つけた。
煙、ということは獣ではない。
山火事が起きているような量の煙でもない。
いや、もしかしたら山火事の初期なのかもしれないが、その場合でも一人で消化できるレベルだと推測できた。
森の中を煙に向かって走る。
「ぉお~……お……ぅ」
煙の方向から小さな声が聞こえてくる。
まだ距離があるので何を言っているのかはわからないが、誰かが声を出しているのは間違いない。
獣ではない、ということだ。
逸る気持ちを抑えてあまり音を立てないように近づいていく。
相手を警戒させても仕方がないし、俺自身が大型の獣や群れを作る獣に狙われてしまい、煙を出している人に迷惑をかけるのだけは避けなければならなかった。
両親以外の始めての相手なのだ。慎重に行こう。
木の影から頭を出して覗くと、火を囲んで5人程が夜営をしているようだ。
全員、身なりは酷い。
両親と同じように大事な部分だけを蔓をや獣の皮で隠しただけの装備だ。
今の俺は獣の皮で体中に装備をしている。
頭部を守れるほど丈夫なものは作れなかったので、頭だけは何も装備していないが、靴も皮で作り服も簡易的な物ではあるが装備していた。
一体、この森で生活している人間は、どうしてこんな生活なのだろうか。
子供のころから思っていた疑問が、久しぶりに沸き上がってきた。しかし、答えがでない事なのは何度も考えていたことなので思考を放棄して目の前の人たちに意識を戻した。
索敵魔法で見てみるが、現時点では敵対もしていないので、引っ掛からない。当たり前だな。あったこともないのだから。
火を囲んでいるだけだと思ったら、火の中心に黒い獣が見えた。
あれは、俺の腹を裂いて両親と別れる原因になった獣だ。
大きさもここから見る限り同じなので、間違いないだろう。
それが焼けるのを見ながら全員が笑っている。
どういう反応になるかは不明だが、話しかけてみよう。
その時、気付いた。
もし、彼らが食事中、いや、食事するための調理中だったら?
というよりも、そう考える方が自然だ。
あの嬉しそうな顔を見る限り、食事を前にした喜びだろう。
そこに、全く知らない男が一人で現れたらどう思う。
当然、飯を奪いにきたと思うだろう。俺だってそう思うし、場合や腹具合によっては相手が近づいてきただけで攻撃する。
今、話しかけるのは得策ではないな。
だいたい、手ぶらというのもいただけない。
何か相手から話を聞こうというのだ。手土産ぐらいは必要だろう。
一度、その場所から離れて、適当な獣を3つほど確保した。
まさに手頃な獣だ。
一人では食いきれない程度の獣。
向こうは5人もいるんだ。飯が多くてこまることはないだろう。
血抜きをして、蔓で縛ると俺は先ほどの場所までドキドキしながら小走りに向かった。