第一章 魔物の国5
両親を探して森をさ迷いどれだけの月日が流れただろうか。
結果的に俺は生き延びた。
擦り傷程度しか直せないはずの治癒で4つの爪が腹を貫き背中まで達していたであろう傷を完璧に復元してみせたのだ。
どうやら、この森では異常なまでの魔素が充満しているのだと推定できる。いや、魔素が充満していたら効能が変わるのかは不明だが、そう考えるよりない。
回復が終わった俺は血をずいぶん失ったために、朦朧としながら両親をさがした。
なにかよくわからない獣は倒したのだ。
しかし、そこに両親の痕跡はなかった。
俺以外の血を見つけたが、かなりごく少量で死亡するほどではないはずだ。索敵魔法ではどうにもならない。両親は敵ではないのだ。
大量の出血により思考がまとまらなくなってきて、目の前のよくわからない獣の肉を食らった。
生だったが、食えるだけ食った。
今は生き残ることを考えなくてはならない。
体の休息を求めるまま、眠りに落ちていく。
そして、俺はどこまで続くとも知れないこの森の中で一人になってしまったのだった。
最初こそ狩りに苦戦する。
まだ一匹も自分一人で狩れた事がなかったのだ。
が、両親も見ていない、魔法も使える。
木の枝を武器にすることもできたし、丈夫な木の枝と丈夫な蔓を用意し、それに自分の頭の半分ほどの岩をくくりつけて簡易的な武器も手にした。
これだけあれば、近衛での経験を生かすことができる。いくらか不思議な動きを獣がしようが、こちらは素手ではない。
それに、父親に教えてもらった狩りによって多少の身体能力もついてきた。
ただ、魔術は狩りに向かない。
一番威力の弱い火弾を使っただけで肉が灰と化すのだ。これでは狩りとはいえない。ただの殺戮になってしまうだろう。
―――――――――。
それから両親を探さなくなっていくらの月日が流れただろうか。
最近はこの森の端がどこになるのかの確認をするためひたすら一方向へ足を進めていた。
もしかしたら人間に会えるかもしれない。そういった考えもよぎった。
いまだ、両親以外の人間にあってはいないし、話し相手を熱望している自分がいる。
それほど会話をするのが好きではない自分ですら長い間話し相手がいなくなると、こんな気持ちになるのかと新しい自分に少しの驚きを感じる。
目の前には不自然に木がない開けた場所があるのを確認。
さっそく索敵を発動させるが、赤くなるものはない。
獣が縄張り争いで木が一部、もしくは広範囲に渡って倒れる事がある。
そういった場所には食べられるキノコが生えていることが多いのだ。
久々のキノコににやける顔を抑えようともせずに走ると、そこには木が倒れていなかった。
「み……ち……道だ!」
獣道よりも気持ち舗装されていると言っていいだろうか。間違いなくそれは夢にまでみた人間の痕跡である。
この森の果てがどうなっているのかは後回しだ。
俺は道にそって歩き始めた。