第一章 魔物の国 4
力。
狩りを始めてこの世界がわかってきた。
今、この瞬間にも力が必要なのだ。
獣一匹狩るのにも力がいる。
魔法は使える事がわかった。
ただ、索敵以外の魔法を使う機会がないのだ。
父親も母親も魔法を使わない。
俺が使うところを見られると、どんな態度にでられるのかわかったものではない。
魔鉱石の契約による体内の魔素と空気中の魔素を使用のが魔法だ。
空気中の魔素の具合によっては魔法の力が極端に下がる場合がある。
実戦で使うには必ず練習しなくてはならない。
が、俺に一人の時間は訪れない。
父親いわく「男になるまで、一人は危ない」だとか。トイレすらどちらかと一緒なのだ。
ということで、力が必要だ。
肉体能力のみで獣を狩る必要がでてきた、というわけだ。
しかし、近衛兵の時も簡単な格闘術は習ったのだが、基本的にはロングソードか盾を装備しての片手剣、弓、魔法を複合させた混合近接、遠距離戦闘術しか使っていない。
格闘術などは本当にどうしようもなくなった時以外には使用しないのだ。死ぬよりは……程度のものでしかない。
しかも、獣相手ともなると、人間を相手にするのとは訳が違う。
人間は余程の事がない限り手足が2本に頭が一つだ。
腹に注意を向ける必要はないし、尻にも注意は不要である。
注意するべきは足、手、頭なのだが、この森に住む獣は足が6本ある獣や、棍棒みたいな触手が生えていたり、注意を向けるべき部分が絞り込めない。
魔法によるなんらかの補正がかかっているとしか思えないような動きをするのだから、素手でまだ倒せた事がない。
そんな時、事件が起きた。
腹部への激しい衝撃で目が覚めた。
目の前には真っ黒な大きな獣。
「ぐぶっ!」
っ!
口からゆっくりと血が漏れ出る。
獣の手が俺の腹へ触れている。
手からは、鋭い爪が10本ほど飛び出し、腹をえぐっている。背中を突き抜けている感触がある。
「ご……ごぉぉおおおおお!!」
抜けていく力を血を口から撒き散らしながら繋ぎ止める。
父さんや母さんはどうしたのだろうか。
いや、それより問題なのは俺の腹の上の黒いやつだ。
余裕はない!
火弾の上位魔法――炎弾!!
奴の黄色く光る四つの目を狙って手を向けた。
炎弾とは、連続した火弾。火弾が火の玉を放出する魔法であるから、手から連続した炎があがる。
しかし、俺の手から出た魔法は、そうならなかった。
俺の手からは黒い炎が天を覆い尽くさんとばかりに吹き出し、黒いやつの頭部は跡形もなく――はじめから何も存在していなかったのかごとく、消滅していた。